「あ?喧嘩売ってんのかお前」



私が中堂さんを好き?いつから?考えても考えても分からなかった。正直、知恵熱が出そうなくらい。だから、きっと勘違いなのかもしれない、と思ったけど頭の中は中堂さんのことでいっぱいだし、何より自然と彼を目で追ってしまっているのが自分でも分かる。これは恋だ、と認めざるを得ない状況だ。


「何か用か」
『いえ、特には』
「それなら、ジロジロ見るな。やり難い」
『え、そんなに見てましたか』
「あ?喧嘩売ってんのか、お前」



解剖の準備中。どうやら私は中堂さんのことを見つめていたらしい。本人は眉間に皺を寄せて非難してきた。これから怒涛のようにご遺体がやってくる。雑居ビルで起きた火災で、10名がなくなった。その解剖を全てUDIで行うのだ。



『あ、デンタルデータを記入する紙はこれで良かったですか?』
「ああ、そうだ」
『私、法歯学の先生って中々会ったことなくて』
「UDIにだって、滅多に来ない。今回みたいに丸焦げの遺体じゃなきゃな」


中堂さん曰くお気に入りのドイツ製のメスを設置して準備完了。ちょうど良くご遺体が到着したようで、みんなで何度も往復してご遺体を解剖室へ搬送する。…見事に真っ黒だ。


「2番、器官が煤の吸引でクソ真っ黒だ」
『血中のCOヘモグロビン濃度70%です』


手際よく解剖を進める中堂さんは、さすがだ。置いていかれないように、解剖中は私も必死。解剖が始まって少ししたら、法歯学の先生がいらっしゃった。とても、ご高齢なようで。その、滑舌が猛烈に悪い。


「咬耗で象牙質が露しゅちゅ」
「は?」


中堂さんがぽかーんとしている表情を初めて見たかもしれない。貴重だ、と思わず私の頬が緩む。その後も法歯学の先生は滑舌の悪さを発揮し、中堂さんをイラつかせるのであった。

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丸二日間かけて、10名分のご遺体を中堂班と三澄班で解剖した。それはそれは大変で、肩は凝るし、目もチカチカしてしまった。大仕事を終えたけれど、ここからが本番。解剖でわかった事柄から、身元を特定しなくちゃいけない。



『9番さんだけ、殺人の可能性あり…か』
「おい、デンタルデータのまとめ手伝え」
『…中堂さんはお願いの仕方ってものを知らないんですか』


相変わらずの傲慢さに、渇いた笑みを浮かべる私を見ても、中堂さんにとっては何の効果もない。当たり前のように、デンタルデータを渡されて、仕方なしに受け取る。



『それにしても、今時アナログですよねぇ。近隣の歯医者に連絡して確認するって』
「デンタルデータこそデジタル化すべきなんだがな」
『ああ、震災の時とかに役立つって言いますもんね』


デンタルデータが書かれた紙に目を通し、それぞれをまとめていく。来客を迎えに行っていた神倉さんがオフィスに戻ってきて、彼の隣には何だか威厳のある方が。



「帝日大の久部先生です」


ああ、さっき毛利さんが捜査協力をした病院の教授か。っていうか、今、久部って言った?



「久部くんの、お父さん」
「愚息がお世話になっております」


みんなの視線は、ホワイトボードの前に立っていた久部くんへと向かう。彼は大変驚いているようだ。思わず、中堂さんに視線を移すと彼も私を見て、なんとも言えない表情をしていた。





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