「…顔、赤いよ?」



「名前?大丈夫?」
『え、ああ。すみません、大丈夫です』
「ボーッとしちゃうのも仕方ないよ。昨日の今日だし」


昨夜はあの後、殺人者Sこと白井くんの居場所を突き止め、ミコトさんはYくんの死因も特定した。自殺。それは、あまりにも酷な結果で。しかも理由が理由で、知ってしまった頃には私にも重たい影を落とした。




『…中堂さんって、』
「ん?」
『いや、何でもないです。先に行ってますね』


出かけた言葉を飲み込んで、東海林先輩より先に女子更衣室を出る。昨夜、中堂さんが僕だけが生きてて良いのか、と投げかけた白井くんに答えたのだ。許されるように生きろ、と。




『中堂さんも、何かから許されたいのかな』




あの言い方は、まるで自分も同じだ、と言っているように聞こえた。言葉も彼の目も。あの姿が目に焼き付いてしまって、よく眠れなかった。小さく欠伸をして、オフィスに入ろうとすると、見慣れた背中が2つ。
そのままオフィスに入れば良いのに、寄り添うように何かを見てるミコトさんと中堂さんの姿に、胸が痛んだのは気のせいじゃないと思う。






「…おい、何してんだ」
『ぎゃ!…中堂さん、』


ボーッとオフィスの入口の壁に突っ立っていたら、コーヒー片手にこちらを見ている中堂さんがいた。急に声をかけられて、ドキッと心臓が跳ねた。



「話し、聞いてたのか」
『話し…?あ、いえ、私今来たところだったので』
「そうか、なら良い」


コーヒーカップに口をつけながら、所長室へと入っていく中堂さんを目で追う。私には聞かれたくない話をミコトさんとしていたのか。そう思うと、また鉛のように重たい何かが私にのしかかる。気にしない素振りをして、挨拶をしてからデスクへ向かう。ああ、このあいだの検査結果、そろそろ出る頃かな。




「名前ちゃん、昨日はお疲れ様」
『ミコトさんも、お疲れさまでした』
「大丈夫だった?その、色々と」
『あー…はい。まぁ、やっぱりあぁいう事件はちょっと気持ち引きづられちゃいますけど』
「だよねぇ。うん、わたしも」




白井くんと直接話をしていて、死因を究明したミコトさんこそ、大変疲れているだろうに、私のことまで気にかけてくれるなんて。仕事もできて優しいし、可愛らしいミコトさんって無敵なんじゃないか。うん、勝てっこない。…ん?何に勝つんだ、私は。


「おい、この間の細胞検査どうなってる」
『へ?』
「へ?じゃねーだろうが。細 胞 検 査!結果出てんだろうが」
『細胞検査…ああ、はい、そうですね』
「お前寝ぼけてんのか」
『寝ぼけてないですし、お前じゃなくて名字ですけど』


わざとらしく中堂さんを睨み付けると、さらに悪態をつけられかと思いきや、小さく笑って「この鑑定書もまとめとけ」と大量の紙の束を私に渡して、オフィスを去って行った。



「中堂さんも、だいぶ丸くなったよねぇ。…え、名前ちゃん?」
『はい、なんですか、ミコトさん』
「…顔、赤いよ?」


自分でもわかってる。今の中堂さんの笑みを見た瞬間、私の全身の血が奮い立って、顔に熱が集中した。もしかして…とニヤケ顔のミコトさんを横目に、私も1つの仮説が浮かび上がる。もしかして、私。中堂さんを好きになってしまったのかもしれない。




>> list <<