「もうそっとしておいて…」



私は環境の変化や、季節の変わり目に弱い。それを思い出したのは今朝起きて、寒気を感じた時だった。こんな時に限って風邪薬は切らしてるし、ギリギリまで寝ていたから市販薬を買いに行く時間さえ無い。普段より重い身体を動かし、気合いを入れて仕事へと向かう。


「あ、名前ちゃん。いたいた!ちょっとお願いなんだけど、」
『何ですか?ミコトさん』
「この細胞検査お願いしたくて。なるべく早めに」
『わかりました、あれ、そういえば…』


東海林先輩は?と続く言葉は、ミコトさんが発した「東海林、珍しく遅刻みたい」という言葉を聞いて意味をなくした。東海林先輩が遅刻。珍しい。ミコトさんから試料を受け取り、東海林先輩のことを気にしつつも検査へと取り掛かる。



『うー、さむいなぁ』


白衣の下にパーカーを着ているけれど、それでも少し寒さを感じる。やばいなぁ、熱ありそう。そう思いつつも、仕事に集中しよう、とPCの前に座った。



検査結果が出るまで数日かかるため、各企業に依頼したり雑務をこなしていると、あっという間に解剖の時間となった。お昼前に一件。確か路上で突然亡くなった男性だったっけ。



『あれ?ミコトさんと東海林先輩は?』
「三澄さん、東海林さんから電話かかってきたみたいで、慌てて何処かへ行っちゃって」
『え、何かあったのかな…』



解剖室へ向かう前にオフィスへ寄ると、六郎くんと中堂さんしかいない。もう解剖を始めなきゃいけない時間だし、中堂さんが待ってられないというので、3人で解剖室へと向かった。手際よく解剖して所見を述べる中堂さんに答えて、六郎くんがボードに記入していく。


『あ、東海林先輩!ミコトさん!』
「待ってられないって、始めちゃってますよ」
「ごめん、ごめん、」


解剖室のドアが開かれて、東海林先輩とミコトさんが忙しく入ってきた。心なしか東海林先輩の顔色が暗い。不思議に思ってると、一度記入されたボードを見てから、東海林先輩が小さく悲鳴をあげた。



『え、東海林先輩?』
「紳士的で…細マッチョ、細川さん、」
『紳士的で細マッチョ…?』


東海林先輩が指差す先は、今解剖されているご遺体。細川さん、という名前だったなと思うと同時に、東海林先輩の知り合いだったことを知る。ミコトさんも驚いた様子で、つい先ほどまであった事件の話を教えてくれた。




『東海林先輩、そんなことがあったんですね』
「もう、そっとしておいて…」


昨夜、高級ジムの異性間交流会後、意識がなくなり目覚めたら隣には、亡くなった男性がいた。なんて体験したら、心臓が飛び出てしまいそう。その亡くなった男性、権田原さんは細川さんと旧友の仲で、しかも死因は窒息死。細川さんと同じ。


「旧知の仲の二人が謎の窒息死か」
『まさに火サスの世界ですよね』



どう考えても不自然だ。細川さんや権田原さんの耳の裏に発赤が確認されて、高級ジムのイヤーカフではないか。と東海林先輩は言う。とにかく、解剖しただけじゃわからない何かがありそうだ。鼻をズズッと鳴らして、忘れかけていた寒気がまた私を襲った。




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