大変なことになった。風邪薬があまり効いていなくて、今朝起きたら昨日より怠いとか、そんなことも吹っ飛んでしまうくらい。今日は警察署の本庁から刑事さんがやってくるという話だったけれど、彼らは東海林先輩が犯人じゃないかと疑っているらしい。
『じゃあ、本庁の人が話を聞きに来るって、』
「話じゃないな。任意で引っ張る気だ」
ソファーに座っていたはずの中堂さんが険しい顔をして立ち上がり、会話に入る。神倉さんも東海林先輩も大慌てで、弁護士を呼んだら良いかとワタワタしているけれど、内線で本庁の方が来たという悲報が入った。
『これ、やばいですよね…』
「やばいどころじゃないよー!どうしよう!名前!」
「まずい、隠れろ!」
『わぁっ!』
中堂さんに後ろから肩を押され、東海林先輩と共に呆気なくしゃがりこむ。神倉さんもしゃがんだところで、中堂さんは「逃げろ」と無茶苦茶な提案をした。
「今の状況で任意同行に応じたら、クソつまらん理由で勾留されて、やってもない罪を自白させられる。」
「やってないのに?」
「死体に慣れてるから人が殺せるだの何だの、訳の分からんクソでっち上げストーリーを密室で毎日毎日、念仏のように唱えられてみろ」
そう言われて、自分がそのような状況下に置かれている想像をする。あ、やばい。もともと風邪気味で頭がぼーっとするっていうのに、その状況を想像するだけで、熱が上がりそうだ。クソほどの体力、気力、根性のない東海林先輩は逃げることが決定。ついにオフィスまでやってきた本庁の人への対応は神倉さんに任された。
「ちょっと来い」
『ぅえっ!なんですかっ、』
急に中堂さんに腕を引っ張られ、所長室へと入る。神倉さんが早口で本庁の人に立ち向かっている声が聞こえるけれど、私の心臓はドクドクと音を立てていて、神倉さんの声がかき消されてしまうくらいだ。
「お前なあ」
『え、わ!』
私の腕を掴んでいた中堂さんは、私をいとも簡単にソファーへと投げつけた。急なことで頭が追いつかない。驚きを隠せていないと、頭にはモスグリーンのモッズコートがバサッと乱暴にかけられた。
「何度あるんだ」
『え?何度…?』
「熱。あるんだろ。」
熱。ねつ。ああ、そうだ、私。忘れかけていたことを思い出すと、何だか急に身体が重くなる。かけられたモスグリーンのモッズコートは中堂さんのもので。何も答えない私に彼は、チッと舌打ちをする。
「薬は飲んだのか」
『あ、朝には』
「…昼の分は?」
『まだ、です』
「飯は」
『食欲、なくて』
そういった私に、はぁっとため息をつく。中堂さんには気づかれたくなかったのに。だって、こうやって呆れられるってわかってたから。激務だからって体調管理もできずに迷惑をかける奴だなんて思われたくなかったのに。
「とにかく、そこで寝てろ」
『いや、でも』
「ここから絶対出るな。わかったな」
『え、ちょ、』
そう言い残して、所長室のドアを閉めた中堂さんを追いかけることも出来ず。ああ、やばい、熱上がったかも。重たくなる瞼に逆らうこともできず、私はそのまま意識を手放した。
← → >> list <<