東海道-間(土山宿の夜)-
旅籠に泊まる夜には、二人の影が薄暗い灯りの中で必ず一つになる。
寒い夜は布団の中で身体を重ねあうのだが、風間の行為は一定のところまで進むと終わってしまう。最近の千鶴はそれが終わってしまうと、何故だか靄が掛かったような気持ちから抜け出すのに時間が掛かっていた。
しかしこの土山宿での夜はいつものそれとは違った。
胡座の上に乗せた千鶴の唇を塞いだ後に襟元を開きながら耳朶と首筋から胸元へ熱い口付けと共に舌を器用に這わせていく風間。
先程まで寝酒を口にしていた風間の息遣いの中からふんわりと大人の香りが漂ってきて、その香りが酒を呑んでもいない素面の千鶴を酔わそうとしている。
「あっ……!」
最初に耳朶を甘噛みされ、千鶴の前身からは数多の鳥肌が浮き出てくる。
「お前はこの耳朶が弱かったのだったな……」
毎回確かめるように同じ言葉を繰り返す風間は、千鶴の耳朶から内耳へとじっとりねっとり舌を這わせてきた。その行為だけで千鶴の身体の中心が疼きと湿りを起こさせるのだ。
風間の唇が吸い付きながら首筋へ下がっていくと、通り過ぎた後には熱のある美しい紅花が千鶴がまるで風間のものであるかのような印となって浮かび上がる。その熱い口付けをあちこちに施す度に、千鶴の身体はしなやかに、そしてたおやかに揺れ動いていた。
この前の関宿では胸の周りを揉み解すものの、決して尖りまでは食指を移動させず、際際の場所まで攻め立てる行為をするとそこで終わってしまう。千鶴の心中は、もっと先へ――と思うのに、風間は毎夜千鶴を焦らし続けて終わりを告げるのだ。
抱いて欲しいという、その言葉を言えば最後まで抱いてくれるのだろうか?
そう思って一通りの行為を終えた後に風間の名前を呼ぶ千鶴だが、その時には何故か風間は静かな寝息を立てているのだ。
「もう……いつもこうなんだから……」
そうぼやきながら千鶴も深い眠りに入っていくと、その後にはいつも風間が薄っすらと瞳を開き千鶴の顔の瞼や唇、そして頬などに軽い口付けを施すのであった。
「己の願いを口に出すのが遅いのだ……」
風間はボソッと文句を垂れると、眠ってしまった千鶴を強く抱き締め、その強さに顔を少し歪める表情を見つめながら緋色の瞳を消していくのだった。しかしこの土山宿での風間は、少し事を進め出す。
胸を大きな掌で揉み解していく途中から食指がピンッと立ち上がった尖りをコロコロと転がし始める。
「あっ、ふっ……!」
以前まで感じた事のない感覚が千鶴の全身に湧き起こってくる上に、芯の部分が湿り気どころかトロリとした何かを流し出そうとしてくるのだ。
長い間、風間の食指によって転がされ弄ばれていた尖りが風間の口内に吸い込まれていくと、千鶴の芯の箇所からトロリとした何かが寝巻きを湿らせていった。
卑猥な水音を響かせる唾液によって滑らかに動かされる尖りが風間の口内で歓喜の舞を躍る。その合間に何度も繰り返して吸われると、千鶴の意識がどこか遠くへ飛んで行ってしまいそうになった。
「千景、さん……あの……ふぁっ!」
千鶴がその後の行為を促す言葉を出そうとするが、あまりの気持ち良さにその後の言葉がなかなか続ける事ができないでい上に、風間の執拗な胸の甚振りは続き、千鶴の身体はどんどん熱っぽさを起こしながら捩れていった。
これだけでこんなに気持ちが良いのなら、この後の行為で私はどうなってしまうのだろう――?
そう思いながらも千鶴の意識はどんどん薄れていき、最後には風間の強い吸い付きによって完全にそれが飛んでしまう状態になる。そして急に力が抜けたのを感じた風間が千鶴の胸から顔を上げてみると、くったりとした千鶴が遠くの方を見つめているような視線を天井に投げ掛けていた。
「これしきの行為で感じ逝ってしまったのか……?」
これではまだまだ先には進めないな、と苦笑する風間。この行為でまだ絶頂前の意識があるのならば先に進めようと思うのだが、くたばってしまわれてはこの後には恐怖だけを残すのみ――。風間は意識のない千鶴の身体を無理矢理にどうこうしようとは思わなかった。
うっとりとして違う世界に入ってしまっている千鶴の唇に自分のそれを重ねていくと、その世界から引き戻されたのか、千鶴の蜜色の瞳に現実の色が蘇ってきた。
「んふっ……!」
舌を絡み取った風間が千鶴の口内に熱い吐息を注ぎ込むと、その蜜色に輝いた瞳が閉じられていく。
優しい口付けが再び感じやすくなっている千鶴の身体に疼きを起こさせ、意識を遠退かせていくが、それを許さないかのように強く強く押し付ける口付けの長さに息苦しさを感じさせられる。少しずつ流れ出す蜜が再び疼きを起こさせると、千鶴の両足が窄んで擦り付けるように動き始めた。
千鶴の身体は悲鳴を上げている――
この全身に蔓延っている欲を満たして欲しいと懇願をしている――
それなのに千鶴の意識は欲しいと思う反面に恐怖が込み上がっていた。
この先はどうなるのだろう?
この先を千景さんにされたら私の身体はどうなっていくのだろう――?
風間に抱かれている間中その思いが千鶴の心を占領してしまうが、一定の事が終わってしまうと何か物足りなさを感じ、言葉がやっと出てくる状態の時には風間は返事をしてはくれない。
「どうした、寝ないのか……?」
ずっと目を開けて自分を見つめている千鶴の頬を撫で上げながら囁く風間。
「あの……最後まで抱いてくれないんですか?」
やっとの事で出た千鶴の言葉に、風間はフッと小さな笑みを零すと、
「お前には先の行為はまだ無理だ……。徐々に身体を慣らしていかなければ辛い行為となってしまう。それに……」
「それに……?」
「俺が聞きたい言葉は抱いてくれないかではないのだ。抱いて欲しいと言わなければ抱かん」
「どちらも同じ意味合いの言葉だとは思うんですけど?」
「お前の今の言葉にはまだ迷いがある。快感と恐怖の狭間を行き来しているのだ。だから全てを俺に任せて最後まで抱いて欲しいと思った時に抱くとしよう……」
「……よく分かりません」
難しく考えてしまっている千鶴の表情が曇り色になるが、それを見た風間は可笑しそうに笑いながら言葉を投げかけてきた。
「よく分からないのであれば、先の行為はまだ無理だな……」
「でも、千景さんは平気なんですか? 男の人も色々大変だとは聞きますけど……。だからあのような飯盛り女とかが宿場に居るのでしょう?」
「そうだな……。男も色々と大変だが、お前との間では遊びではなく、夫婦になる前提でするのだからな。いい加減な想いでは抱くことはできん。最後の行為は互いの想いが一致してこそ成し遂げられるものだ。だからこそ、俺はお前を安易な気持ちで抱きたくはないのだ」
「千景さん……」
風間は自分の事を大事に思ってくれているのだ――
千鶴はそう思うと涙が零れ落ちそうになるくらい嬉しかった。
嬉しかったのだが――
「それに、お前を徐々に俺の思うがままに感じさせられる身体にしなければ、先の楽しみがないからな」
「はいっ!? 今、何て言いました?」
先程の感動がどこへやら――
風間の真の目的はそれだったのか!? と目を見張る千鶴。そのような千鶴の目の前では反応を楽しむ風間のからかう色をした緋色の瞳が爛々と輝いている。
「一度にお前を満足はさせん。楽しみは後に取って置くほど面白味が増すものだ」
「性悪、鬼畜、最低……」
千鶴の口からは文句の言葉がつらつらと並び立てられていくが、風間はそれさえも楽しみの一つとしか思っていないようだ。
「何とでも言え、これが俺のやり方だ。しかし、このような俺でもお前は好きなのだろう?……いや、愛しているのだろう?」
ニンマリと笑い掛けてくる風間に見つめられた千鶴の顔は一気に熱が上がってくる。
風間にそう言われれば否とは言えない。確かに千鶴はそのような風間の事も愛しいと思い始めているからだ。
「そのようなお前も変わった女なのではないか?」
「そんな事ありません! 私は……あふっ!」
これ以上は何も言わせまいとするような荒々しい口付けを施してくる風間にされるがままになる千鶴の口端から溜め息のような喘ぎ声が漏れ出す。
まだ俺の中の理性は少しではあるが残っているようだ――
最近不安要素となっていた失われそうになっていた理性はまだ持ち堪えられそうだと確信した風間は、口付けを終えると先程の行為で少し乱れていた襟元に顔を埋めていき、まだ余韻の残っている胸にしゃぶり付いていくと、千鶴の口元からは既に女の域に到達したような艶めかしい喘ぎ声が放たれ、上半身が激しく捩れた。
同じ繰り返しの行為なのに、先程とはまた違う感覚を呼び起こす千鶴の身体をじわりじわりと堪能する風間は、千鶴の心地良く感じる喘ぎ声を聞きながら胸を弄り始めていた――。
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