薩摩街道-山家宿→松崎宿
翌早朝に不知火が風間と千鶴が宿泊している旅籠に迎えに来て、三人は海峡を越えて薩摩街道を目指す事となった。
千鶴は、山家宿までの途中にある【冷水峠】で風間たちと逸れるという設定になった。
今回は緊張をしていたのか千鶴が船酔いをする事はなく、順調に船旅を終える事ができ、三人は筑前国の地に足を下ろした。
山家宿に向かう三人はその先を歩き続ける。その間は風間と不知火の陰険なやり取りが続いていた。
「お前のお陰でこのような面倒事に巻き込まれたのだ。全く腹が立つ……」
今まで千鶴との二人旅を満喫して来た風間は、途中で不知火という邪魔な男と共に少しの間旅をしなければならないと思うと、腸が煮え繰り返りそうになる程怒りを外に放っている。その為、全ての厄介事を不知火に押し付けようとしていた。
「何で俺のせいなんだよ!? お前があの時、鬼姫が盗み聞きしてたって言うからだろ!」
不知火は風間のようにネチネチと文句を垂れてくるような男や女が苦手な上に、自分がこの厄介事の原因だと決定付けされた為に、珍しく苛々を募らせている。
「俺は見たまでの事を言ったまでだ。それに、あの鬼姫がお前の事を好いておる事くらい分かっておっただろう? それを放っておくからこのような事になったのではないか」
「つまりは、風間の女版って事か?」
不知火がせせら笑いながらチクリと一言を放つと、風間の表情が険しいものとなった。
「どういう意味だ?」
「お前だって千鶴の尻を追っかけてばかりだろうがよ! てめぇの心中の気持ちを言葉に出さねぇで、千鶴にばっかそんな言葉を要求しているだろうが! 俺はそういう男も苦手だが、女はもっと苦手なんだよ!」
そして、
「言いてぇ事があるんならはっきりと言やぁいいんだよっ!」
と風間を睨み付け、不知火に事実を指摘された風間は不機嫌度が更に上昇していた。そして、暫くの間二人の睨み合いは光線を放つような凄まじさだったが、このままでは埒が明かないと思ったのだろうか、二人とも顔を退け逸らしながら歩いて行った。
そのような二人を見ていた千鶴は、
「無事に計画が成されるのかしら?」
と、大きな溜め息を吐きながら二人の後ろを付いて歩いて行った。
三人はとうとう【冷水峠】の石畳の道の前に辿り着いた。この峠は【九州の箱根】と呼ばれる程の難所である。
「では、計画を進めるとするか……」
風間が計画実行の号令を発すると、不知火と千鶴が小さく頷き、その峠の中に身を吸い込ませるようにして歩いて行く。そして、その後ろからは少し距離を置きながらもその三人を見失わずに追いかけるように、一人の小さな影も姿を消して行った。
急勾配の坂道を上る千鶴の息が上がってくるが、先を行く二人はそのような事もなく、どんどん姿が小さくなって行く。
計画を実行しているだけだけど、やっぱり怖い――
周りは鬱蒼とした木々に囲まれており、昼間だというのに辺りは薄暗い。そして、とうとう風間と不知火の姿が消えてなくなってしまった。
ここから千鶴の行動が始まる。千鶴は辺りをキョロキョロと見回す仕草をしながら大声で二人の名を呼ぶのだ。
「風間さぁぁん! 不知火さぁぁん! どこですかあぁ!」
どこかで潜んでいるのだろうが、ここで二人が返事をしてくれる訳がない。千鶴は演技を続けながらトボトボと峠道を歩き出そうとした時、背後から爽やかな香りが漂ってきた。
「もし…… 道に迷われたのでしょうか?」
千鶴がゆっくり後ろを振り向くと、落ち着いた色合いの着物を纏った女がこちらを向いて微笑んでいた。しかし、その落ち着いた色の着物には似合わない程の美しい容貌に驚いた千鶴は、暫くの間無言のままだった。
透き通るような白い肌。昨日不知火から貰った阿わ雪のようだ。そして、千鶴と同じ蜜色の瞳は艶のある輝きを放ち、鼻筋は高く、唇は愛嬌を醸し出している。そして、髪も千鶴と同じ漆黒で長く垂らし、峠の風を受けて滑らかな動きを出していた。
「あなた…… 大丈夫ですか? 道に迷われたのなら私と共にこの峠を下りましょう」
「あ、有難うございます! 助かりますわぁ! おっほほほほ……」
「やっぱ、鬼姫が出てきたな……」
「ああ…… しかし…… 千鶴のあの演技の下手さは何なのだ?」
「仕方ねぇだろ? あいつは芸者でも役者でも遊女でもねぇんだ。普通の女なんだからよ」
風間と不知火は少し距離を置いた木の枝の上にしゃがみ込みながら鬼姫と千鶴のやり取りを聞いて見ていたが、千鶴のあまりの大根役者振りに風間は顔を片手で覆って大きな一息を吐いていた。
「では、行きましょうか」
「は、はい……!」
鬼姫と千鶴は冷水峠を進んで行き、その後を風間と不知火が付いて行った。
冷水峠を無事に越えて山家宿に辿り着き、千鶴が礼を言おうと鬼姫の方に振り向くと、彼女はこの先に茶屋があるから休憩をしてからお別れをしようと言い出し、千鶴はそれに従った。そして、茶屋で二人は会話に華を咲かせ始めた。
「まあ! 江戸からわざわざこちらまで? 大変でしたでしょう?」
知ってるくせに大袈裟に驚いてる――
千鶴は自分の演技の下手を棚に上げながら、鬼姫の演技を冷ややかな目で見つめていた。しかし、千鶴にはやはりこの鬼姫が悪者だとは思えなかった。今まで残酷な事をする人間たちの表情を見てきた千鶴には分かるような気がしたのだった。
「お連れの方はいらしたのですか?」
いきなりの質問に千鶴がハッと我に返りながら、言葉を選びながら鬼姫に伝える。
「はい、いたんですけど…… 先に行ってしまったようです」
「そうですか…… 確か…… 不知火様もいらしたんですよね?」
「えっ……!?」
千鶴が鬼姫の方を見てみると、彼女の表情は切なそうな、苦しそうな―― どう言えば良いのか分からないような表情を醸し出していた。
「千鶴さん、御免なさいね…… 私はあなたを浚いに来たの……」
この女になら正直に言えるような気がした千鶴は、はっきりと自分の思いを伝えた。
「どうぞ、私を浚って下さい。私も落ち着いた所であなたとお話がしたかったんです。それにお分かりだったんでしょう?」
「ええ、分かってました。わざと風間と不知火様があなたから離れて行ったのをね。どうしてなのかしら?」
鬼姫はそう言いながら席から立ち上がると、
「それについては、次の旅籠でお聞きして良いかしら?」
ニッコリと微笑み、はそれに対して微笑みを返しながら小さく頷いた。そして、鬼姫と千鶴は横に並びながら長閑な田園風景の間を歩き続けて行き、その後ろから風間と不知火が気配を消しながら付いて歩いていた。
「何か、仲良くねぇ?」
「よく分からんが、一応浚われているという設定で良いのだな?」
風間と不知火が後ろで観察をしていると、どうも二人が和やかな雰囲気で旅をしているようにしか見えない。時々、鬼姫の透き通るような美しい笑い声や、千鶴の楽しそうな話し声が内耳に流れ込んでくる。
そう―― 鬼姫と千鶴は会話を楽しんで歩き続けていたのだ。
「私は日向で生まれ日向で育ちました。日向の女主になってからまだそんなに年月は経っておりません。父と母は昨年亡くなってしまいました。私には乳母がいたのですけど、厳しい乳母で…… 女はこうあるべきだって毎日のように説教を受けていましたのよ。お陰で引っ込み思案になってしまって…… 実を言えば、私は女主になる資格などなかったのだと思います。父は私が適任だと言ってくれたのですけれど、男の方と目を合わせて話もできませんし、綺麗だとは言われますけれど、私には己が醜く見えてしまいます」
「それは、ご自分に自信がおありにならないと言う事ですか?」
「そうですね…… ある事を切っ掛けに自信は一気になくなってしまいました…… でも、それは私自身も悪かったのですから、誰を責めるつもりもありません」
穏やかな西の風が、二人の同じ色の髪の毛をサラサラと空に舞い上がらせていく。その風を気持ち良さそうに受けながら、日向の鬼姫が大きく息を吸っていた。
「気持ちが良いですね。周りの田畑も喜んでいるはずですよ。今年は豊作だと良いのですが…… 鬼も人間も困る事がありませんからね」
言葉だけで分かる。この鬼姫は本当はいい鬼なのだ。そして心優しい。
あの事さえなければ――
千鶴はあの事件を起こした風間と不知火を心底憎いと思っていた。そして、鬼姫と千鶴は松崎宿へと入り、旅籠【油屋】の中へ入って行き、その後から風間と不知火も入って行った。
この旅籠は幕末に建てられたらしく、大きく【主屋】【角座敷】から成っており、【主屋】は一般の客を、【角座敷】は武士などの身分の高い賓客を泊めていたらしい。鬼姫と千鶴、風間と不知火は【角座敷】に通されていた。
座敷に入って暫く。鬼姫が綺麗に折りたたまれた着物を手に持って千鶴の所へ歩み寄って来た。
「千鶴さん、申し訳ないんですけどこれを着て頂きたいの」
千鶴の目の前に出されたのは、金銀の刺繍が施された美しい着物だった。
「どうして、浚った女の方を着飾らせるのですか?」
千鶴が質問をしてみると、
「その事も知ってらしたのですね……」
と、小さな溜息を漏らしていた。
「ある方が綺麗な女よりも可愛らしい女の方が好きだと仰ったんです。私も可愛くなりたくて、そのある方と仲良くお話ししている女の方を見ていたら、やっぱり皆さん可愛らしいんですよ。だから、申し訳ないと思ったんですけど、その方たちを浚って着飾らせて…… 私もどうしたら可愛くなるのか考えていたんです」
鬼姫が千鶴に、
「早く着替えて見せて下さい」
と懇願してくるが、千鶴はそれを丁寧に断った。
「私が着飾っても、あなたに可愛らしさは蘇らせられません。あなたの可愛らしさはあなた自身で作り上げていくもの…… いいえ、あなたの中にある可愛らしさを引き出してあげないと駄目なんです。だから、その方の仲良くされている女の方を浚って着飾らせても何の意味もありませんよ」
そして、千鶴は鬼姫にある提案をしてみる。
「どうでしょう。私があなたを可愛らしくしてみましょうか?」
「と、とんでもないですわっ! 私なんか可愛くなんかなれないんですもの!」
「そんな事はないですよ。こんなに綺麗なんですもの。可愛くもなれますよ」
鬼姫は両手で顔を隠しながら嫌々を繰り返すばかりであったが、千鶴は根気よく彼女を説得し続けていると、ようやく首を縦に振らせる事ができた。
千鶴は鬼姫の顔の上に薄い化粧を施し、髪を美しく結い上げ、千鶴に着せるつもりだった着物を身に纏わせていった。
「できたっ!」
千鶴がニッコリと満足そうに笑って鬼姫に手鏡を渡した。
「見て下さいな」
鬼姫が手鏡で自分の姿を映した途端、絶句をしたままその手鏡を覗き込んでいた。
「これが…… 私なんですか?」
「そうですよ」
「嘘みたい……」
いつも垂らしていた髪の毛は、今風に結い上げられ可愛らしい飾り紐で纏められている。そして、淡い化粧をしている鬼姫は、何となく千鶴に似ていた。
「千鶴さん…… 有難う……」
鬼姫が嬉しそうに微笑んだ時、襖が大きな音を立てて開かれ、風間と不知火が乗り込んで来た。
「鬼姫、よくも我が妻になる千鶴を浚ってくれたな」
「姶羅(あいら)いい加減にしろよ!…… って…お前…… 何、その格好……?」
不知火は、その後の言葉が続かないのか唖然とした表情で突っ立っているが、彼の口から聞きなれない名前が出てきたのを聞いた風間は不思議そうな顔をした。
「おい不知火、姶羅とは誰だ?」
風間に質問された不知火は、ハッと我に返り、信じられないふうに見返してきた。
「風間、てめぇはこいつの本当の名前を知らなかったのか?」
「知らん。俺の中では初めから鬼姫だったぞ」
鬼姫と千鶴の前にいきなり登場した風間と不知火が言い合いを始めた。
「姶羅ってのが本当の名前で、鬼姫は仮の名前なんだよ!」
「何故、仮の名などがいるのだ?」
「いやっ…… それはだなぁ……」
二人の会話を聞いていた姶羅が少し顔を赤くさせながらクスクスと笑い出した。その笑顔は美しいのではなく、愛らしく感じた千鶴も一緒になって笑い出す。
「何が可笑しいのだ?」
「わ、私は、鬼…… じゃなかった…… 姶羅さんの笑顔に釣られて笑っただけですよ」
二人に笑われた風間が不機嫌な表情で問い掛けられて慌てて弁解する千鶴だが、姶羅は風間を怖がる事もなく、ずっと嬉しそうに笑っている。
「いえ…… 風間のように私の本当の名前を知らない男の方が殆どなんですけど…… 不知火さまが私の名前を知っていたなんて…… それが嬉しかっただけです」
「知っていたって…… 鬼姫って名前を付けたのは俺なんだぜ」
風間と千鶴が同時に不知火の方に振り向くと、不知火はしまった―― と言うような不味い顔を浮き彫りにさせていた。
「どういう事なのだ、不知火?」
風間という蛇に睨まれた不知火という蛙は、仕方なく渋々と事の経緯を話し出した……。
姶羅がまだ幼かった頃、不知火は自分の父親に付いて日向の里に赴いた事があったらしい。その時に、彼女と初めて顔を合わせたのだが、可愛らしい上にからかいたくなるような性格だった。
不知火は子供心ながら初恋みたいなものを感じ、彼女を誰にも取られないように鬼姫と名付け、子供の世界に広げたのだが、それが姶羅の乳母の知るところとなり、こっぴどく叱られ、姶羅は大泣きをした為に自分が悪い事をしたと思って彼女を避けだしたと言うのだ。
度々開かれた会合の時も姶羅の視線を感じていたのだが、一瞬その視線に親しみさを感じるものの、あの時の光景を思い出すと恨みのものにしか思えなくなっていた上に、あの乳母が大嫌いだった不知火は、できるだけ姶羅と関わらないようにする為に無視を続けてきたのだった。そして、不知火が声を掛けた女ばかりを狙っているのは、自分に対しての嫌がらせだと思っていたらしい。
「私…… 不知火様に【鬼姫】って付けられたのさえ知りませんでした。それに度々遊びにいらっしゃってたんですか?」
「行ってたよっ、何であん時泣いてたんだよっ!?」
「さあ、よく覚えていませんけど。恐らく乳母が怖かったのだと思います。私、乳母に叱られるといつも泣いていたそうですから…… それに、この鬼姫っていう名前は亡き父も気に入っていたんですよ。私に、【誰かがお前を守る為に付けてくれた名前なのだろう】って言っていたくらいですから」
姶羅の言葉に唖然とする不知火。乳母に叱られていた時に彼女の父親がやって来て、大きな笑い声を上げながらその言葉を掛けていたのに、彼女はその時の一欠片の記憶さえ持っていないのだ。
傍で二人の会話を聞いていた風間は、馬鹿らしいとでも言うような顔をして拍子抜けしていた。
「鬼姫とだと言うからどんなに手強い女かと思ったが、ただの呆けて抜けた姫だったのか。しかし、姿も性格も千鶴そのものだな」
風間が最後の言葉を言い切った途端、不知火の方を威嚇するように睨み付けてきた。
「不知火、千鶴は渡さんぞ!」
「何言ってんだよ! 千鶴の事はもう、何とも思ってねぇよ!」
「ふん、俺に向かって千鶴の尻を追いかけているやら何やら言っていたが、そのような事を言う貴様こそがこそこそと尻を追いかけ、言いたい事も言えずにいたのではないか!」
「何だとぉ!!」
「そうであろう。前に女たちを助け出した時もだが、今回もよくよく見てみれば、皆この姶羅とやらにそっくりではないか。同じような顔ばかりを選びおって。貴様は阿呆か?」
風間は、先程の反撃をする為に口を挟ませずに淡々と嫌味な言葉を出し続けており、それに観念してしまった不知火が大きな溜め息を吐いていた。
「ああ、ああ、分かったよ! てめぇの言う通りだよ、風間。だから、そのネチネチした言い方止めてくんねぇ?」
そして、姶羅の方に振り向いた不知火が、少し背を屈めて耳元に近付き囁いた。
「おい、姶羅…… 俺よぉ、この前失恋したばっかなんだよなぁ…… ちっと慰めてくんねぇかな?」
「えっ、失恋!?」
「ばっ、馬鹿っ! 声がでけぇよ!」
不知火が後ろを振り向いた時、風間は奥の座敷にいた女たちを解放しており、後から来た忍びの者たちがそれを手伝っていた。
千鶴は、緊張が取れたせいか大欠伸をして、器用と言えば良いのか、立ちながら居眠りを始めようとしていた。それに気付いた風間が急ぎ足で千鶴の元に近寄り支えていた。
姶羅が解放された女の方を見てみると、その中の一人の女がこちらを向いて、まるで祝福をしてくれているかのようにニッコリと微笑みながら歩み寄って来た。
「不知火さん、いいお嬢さんですね。大切にしてあげて下さい。それと…… 高杉の墓にも時々来てやって下さいね」
その女は軽く会釈をすると、他の女たちの中に紛れて姿を消して行った。その後姿を見ていた不知火の腕に、姶羅の腕が絡み付いた。
「今日は、とことん呑みましょう!」
その言葉に笑みを浮かべた不知火と、初めて自分から行動を起こした為に少し恥ずかしそうにしている姶羅が旅籠から姿を消して行くのを、少し離れた所で千鶴を支えていた風間が柔らかな表情で送り出していた――。
千鶴が目覚めると、そこはもう闇の世界が広がっていた。
隣に顔を向けてみると、風間が規則正しい寝息を立てている。
「変な時間に起きちゃったな……」
あれから深く眠りに就いてしまった千鶴の目は完全に冴えてしまっていて、暗闇の中で腹の虫までもが鳴き出していた。
「あ……」
その音が鳴り響いた後、千鶴の隣で笑いを堪えてる風間がいた。
「起きてたんですか!?」
「お前の腹の音で目覚めたのだ。全く、腹の虫も良い鳴き声をしておるな」
「お腹が空きましたぁ……」
布団の上に座り込み、悲しそうな声で呟く千鶴の目の前に、数個の握り飯が差し出される。
「目覚めた後は、腹が空いておるだろうと、旅籠の主人が持って来てくれていたぞ」
暗闇の中で白く輝いている握り飯を見た千鶴は、目に涙まで浮かばせながらそれに飛び付いていた。
「美味しい!」
握り飯を一気に食べ終えた千鶴は満足感に溢れた表情を浮かばせながら、あの後はどうなったのかを聞き出すと、風間の返答はいい加減なものだった。
「二人は仲良く出て行ったぞ」
「えっ、それだけですか?」
「それだけだ、後は知らん」
風間はそう言い放つと疲れていたのか、すぐに布団に潜り込んで寝てしまい、先程の握り飯でお腹が満足になった千鶴にも再び睡魔が襲い掛かり、そのままバタンと倒れて寝てしまっていた――。
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