風間の愛は深く時々――-sidestory-
朝早く、風間と千鶴が眠っている部屋の襖の外側から天霧の声音が聞こえ、今日は嵐と雨が酷い為、仕事は休みだと伝えてきた。それを聞いた風間は心の中で喜びながら静かに瞼を押し上げた。
「雨か……」
風間が障子窓の方に視線を向ける。襖向こうにいた天霧の気配は既にない。天霧は天候に関係なく忙しい男であるからだ。仕事が休みで気持ちが弛み、布団から一向に出ようとしない風間の隣では千鶴が隙間もない程に引っ付いて眠っていた。その千鶴の喉元に顔を埋めた風間は唇を当てると、強く激しく吸い上いた。
「んっ……!」
千鶴の口元から初めに放たれる喘ぎの一言が漏れた。そして薄っすらと瞼を押し上げる。
「朝……?」
「ああ、朝だ。しかし雨が降っている」
「だから、部屋の中が湿っぽいんですね」
「全く、雨の日は気分も優れん」
風間が布団の中の裸体の千鶴を抱き締める。そして愛の行為を始める準備を起こした。
「千景さん……お仕事……うっふ……!」
「今日はこのような雨だからな。休む」
「で、でも……天霧さんが……あっ……!」
「仕事が休みだと伝えてきたのは天霧だ」
風間は最後にそう言い放つと、千鶴の中に朝勃ちしている自分の塊を差し込んだ。急な差し込みであった為に、力が抜けきっていた千鶴の上体が小さく上下に揺れる。
千鶴の中は昨夜から明け方にかけての情事で未だに湿り気と柔らかさを保っている。雨の湿り気は苦手だが、この湿り気は何とも言えず好ましい――風間はそう思いながら静かに律動を始めていた。
「雨……」
朝一番の情事が終わった後、風間よりも先に目が覚めた千鶴が障子窓の方に視線を向けた。風も強いらしく天井からは屋根に雨が叩き付けるような音が響いてくる。
千鶴の目覚めの気配に気付いた風間も薄っすらと目を開けた。目の前の千鶴は風間に背を向けて障子窓の方を見ている。風間はその背後から千鶴を強く抱き締めた。
「どうした?」
「いえ、雨が酷いなって思って……」
「ああ、今日は一日中嵐と豪雨らしいからな」
「里の皆さんは大丈夫かしら?」
「天霧が見回りに行っているだろう」
「天霧さんも大変ですね」
この豪雨の中を歩き続けているのだろう、天霧や家の使用人たちの事を心配した千鶴はそう呟いた後、西の里に来るまでの道中での川越を思い出していた。
「そういえば千景さんは、道中の川越の時には絶対に半高欄に私を乗せてましたよね?」
「ああ、それがどうしたのだ?」
「私は身体が小さいし軽いでしょう? だから人足でも渡れたのにどうして高値のする半高欄になんか乗せたんです?」
身体の状態はそのままに、風間の方に顔を向けた千鶴が問い掛けてくる。風間はそんな千鶴に睨み付けるような視線を投げ付けた。
「今頃そのような問い掛けをしてくるとは、お前はやはり鈍感の中の鈍感女だったのだな」
「それ、とっても傷付く言葉なんですけど……」
「ふん、鈍感なお前のその頭に説明するのも面倒くさい」
「鈍感でも説明をしてくれれば理解できます」
千鶴が身体を風間の方に向けて膨れっ面を見せる。風間は膨らんだその頬を潰すように両手で強く挟んだ。
「あの時に何故、お前を半高欄に乗せただと? 決まっているではないか。お前の身体に人足の手を触れさせんようにする為だ」
風間の両掌に当たっていた頬の膨らみが撓れていく。
「ただそれだけの為にあの高値の半高欄に乗せたんですか?」
「当然だ。他人にお前の身体を触れられるくらいなら、半高欄の値など安いに越した事はない」
「あの人たちは仕事で旅人を担ぐんですよ。だからそんな事なんて気にしませんよ」
「お前はやはり鈍い。俺が気にするのだ」
「千景さんが……?」
「品川宿でも言ったはずだ。俺のものは俺のもの、お前のものは俺のものだからな。従って俺のものは他の奴らには絶対に触らせん!」
「もう、千景さんは勝手なんだから。私のものは私のものです。だから千景さんのものではありません!」
「いや、お前のものは俺のものだ」
風間は千鶴の反論も拒むと、いきなり布団を引き剥がして上に跨る。
「今から思い知らせてやろう」
「な、何をですか?」
「お前のものが俺のものだという事をだ」
そう言うと、いきなり両足を左右に開け広げた。
「ちょ、ちょっと……さっきしたばっかりなのに!」
「ふん、お前が俺に逆らうような事をするからだ」
風間がいきなり千鶴の中に入り込む。すると、千鶴の声音の中に拒絶の言葉が放たれた。
「いや、止めて!」
「ほう、そうやって俺を誘おうとするとは……お前も大人の女としての格が上がったものだ」
「ち、違う! 本当に今はやりたくないんです!」
「嫌がっているという事は、本当はやって欲しいのだな」
「だから、違うって……あっ、あっ……ああぁっ!」
既に道中からの風間の愛は執拗なものであったに違いない。しかし鈍感な千鶴はそれに全く気付く事がなかった。
今にして思えば、道中での風間の態度にはそのような節のあるものが多くあったような気もする。
この西の里に来るまでの道中で、千鶴が風間以外の男に触られたのは品川宿の鬼と戸隠くらいである。風間は戸隠との諍いがあった後、千鶴を誰にも触らせるような事をしなかった。
愛しているという言葉は滅多に吐く事がないが、風間の愛は大きくて深い。しかし、それが時々千鶴にとっては重くなる事もしばしば――。
過去に愛に飢えていた男は、一旦愛する事を知るとこれまでにも愛一筋になってしまうのだろうか?
風間の愛は深いが、時々は少し面倒臭いと思ってしまう千鶴。
昨夜から続いている艶事は既に数えきれない程になっていて、千鶴の足腰は既にガクガクの状態だ。恐らく今の行為が終わっても暫く起き上がる事も儘ならないだろう。そして何となく感じるのは、風間の口付けの痕が顔にも付けられているような気もする為、今日は一日中部屋の中で過ごさなければならないと小さな溜め息を吐いた。しかし、この行為を止めたいと思っている理性とは裏腹に、千鶴の中の本能は風間を受け入れ始めている。
もう今日は勘弁してほしいと千鶴の頭の中はそう思いながらも、目の前の愛する夫である風間に艶めかしい表情を与えて興奮させ、両足を開き、両手を腰に絡ませて互いの繋がりの個所の隙間を埋めていくのであった――。
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