03



「おーい、いつまで拗ねてんだ?シロ。」
「……ワフ。」
「だーから。無理矢理風呂に入れたのは悪かったって。な?」


これからは無理強いしねぇから、それでいいだろ?

情けねぇ声出して謝ってんのは俺で。
そんな俺の前には……少しばかり落ち込んだ白い狼。


「ほら、飯食いにいこうぜ!」
「……ワン!」


そう声を掛ければ、少し迷った後で、元気よく鳴いた。
そんな姿を見て、俺も笑う。

この狼を見つけたのは、本当に偶然だった。










03 白い狼










「ほらシロ、食っていいぞ!」
「ワン!」
「なんだ、そいつの名前シロにしたのかよい。」
「おう!白いし!」
「ぶはっ!安直にも程があんだろ!」


そういって、飯を出しながら笑ったのはサッチだ。

……あの日、俺とサッチはたまたま船べりで話をしてて。
自分とこの隊員に話しかけられて、サッチがそちらへと振り向いて指示を出し始めた時だった。

バシャン

と聞こえた水音。
でけぇ魚でも跳ねたかな?となんとなーく覗いた時だった。

水面にもがく様に沈んでいく白い犬。


「……っサッチ!」
「どうした?……って、うぉ!!」


サッチの襟首掴んで海へ放り投げる。
バッシャーンと水飛沫を上げて海へ落ちたサッチ。
ブハッと水面に上がってきたその米神には血管が浮いていた。


「てめっ、いきなり何するんだよエース!!」
「サッチ右だ!犬が溺れてる!!」
「あ!?」


俺の声を聴いて即座に海へもぐったサッチ。
水中で必死にもがく白い犬を見つけたんだろう。

すぐにそちらへと泳いで行く。

少しずつ、犬の動きが鈍くなって……。
まさに息が絶えんとしたとき、サッチが引き上げた。
ギリギリ、だったと思う。
犬のむせる声に、少しほっと息を吐いた。


「お前な、投げる前に一言いえよ!」
「いや、悪い悪い!」


慌てたからよ!
と笑えば、仕方なさそうに息を吐いたサッチ。
(こういうとこでキレねぇのはサッチのいいとこだと思う。)


で、その犬をまじまじと見てみた。

全長170…180cmほどだろうか。
(たぶん、俺を乗せて走ることもできるだろう。)
体毛は真っ白で、全身に赤い線が描かれていて。
初めて見る犬だった。

サッチ曰く、犬じゃなくて狼らしけど。

マルコが赤い線は「隈取」だって教えてくれて。
それは神とか神に使える者の証らしい。

親父からも乗船の許可貰って、次の島までは俺が面倒を見ることにした。

動物ってどっちかっていうと食料っつーイメージがあったから飼った事なんてなかったけど。
一番初めに見つけたのは俺だから、俺が責任持たなきゃな!





「ははっ!それにしても美味そうに食ってんなぁ!」
「つーか食い過ぎだろ!この体のどこに入ってんだ?」
「シロもエースには言われたくないだろ。」


そう言って笑うサッチ。

俺も結構食うほうだけどよ。
この狼……シロも結構食ってる。


「ワン!!」
「お、全部食ったか!偉いぞーシロ!」
「アォン!」
「……シロ!サッチなんかほっといてこっち来いよ!!」


サッチがシロの頭を撫でて、シロも嬉しそうにするもんだから。
ちょっとばかしムカついた。

だって、シロの面倒を見るのは俺だし。
餌付けしてんじゃねぇよ馬鹿サッチ。


「シロ、いいか?サッチなんて女の尻ばっか追いかけてる変態だからな!お前もメスなんだから気をつけねぇと駄目だぞ!」
「クゥン……?」
「おいコラ!お前何言っちゃってんの!?狼に手ぇ出すほど飢えてないからな!?ってかお前は俺をどんな性癖にしたいんだ!!」
「でもこの前ナースのミリーにフラれたって言ってただろ!?」
「だとしても性癖云々は関係ねぇよ馬鹿野郎!」


ごん、と鉄拳制裁を受けて蹲る。
畜生、サッチの野郎覇気纏いやがった…!!

いってぇ!
としばし痛みに耐えてりゃ……耳元で、くぅん、とシロの鳴く声。


「……心配してくれてんのか?」
「キューン。」
「ははっ!ありがとな!でも、これくらい平気だから心配すんな!」


シロに向ってニカリと笑ってやれば……。
少し考えた様子のシロ。

その後、すり……と。
俺の首元に額をこすりつけてきた。


「ぉお?」
「ワフ。」
「うははは!くすぐってぇよ!」


シロの柔らかい毛がくすぐったくて、思わずふわふわのその身体を抱きしめた。
びくり、と体をこわばらせたシロに疑問符。

あー、やっぱ獣だからこういうのに慣れてねぇのかな?

それでも、シロの身体はめちゃくちゃあったかくて。
なんか、落ち着く。


「お前あったけぇな。」
「クゥ……。」
「よし、甲板行って昼寝するか!」
「ワン!」


元気よく鳴いたシロに、俺はまた笑った。















(ぐおーっ。)
(ぶはっ!なんだ、マジで寝てんじゃねぇか!)
(何やってんだよい。)
(おう、マルコ!見てみろよ。)
(んん?……これまた。)
(な?なんつーか……。)

((微笑ましいな。))

白い獣を枕にお昼寝タイムな末っ子


03 END



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ゆめうつつ