06



「敵襲だ―――っ!!!」


突然聞こえた大きな音。
それに次いで聞こえた大きな声。

食堂が一瞬、シンと静まり返り。

次の瞬間、おおおおおぉ!!と、上がった雄叫び。


「んぐ、珍しいな、敵襲なんてよ。むぐむぐ。」
「名を上げたい馬鹿か、力試ししたい馬鹿か、どっちだと思うよい?」
「それってどっちにしろ馬鹿ってことじゃね?」


マルコさんの言葉に苦笑するサッチさん。
エースは変わらずもぐもぐとご飯を口に詰め込んでいて。
バタバタと外へ走っていく船員さん達を見送っている。

私は……ただ、エースの横でおろおろとしていた。










06 助太刀










「んぐ。ごちそうさん!じゃあ行ってくるな!」
「あぁ、ほどほどにしとけ。前みたいに船沈められちゃ面倒だよい。」
「エースはすぐ調子に乗っちゃうもんなぁー?」
「ぐっ!こ、今回は沈めねぇよ!!」


そう言って肩を怒らせて食堂を出て行ったエース。

どっ、どうしよう!?
私も行くべきなのだろうか?
いや、それでも足手まといとかになっちゃったら…!
そもそも今まで私が戦ってきた相手は妖怪で。
人間相手じゃどこまで加減していいかわかんないし!!

あわあわとパニックになりかけていれば、ぽんと頭に置かれた大きな手。


「シーロ。そんな心配すんなって。落ち着けよ、な?」
「キューン。」


その手の持ち主はサッチさんで。
いつものように、少し眉をハの字にして笑うサッチさん独特の笑い方。
その笑みは、どこか見る人を安心させる笑みだ。


「大丈夫大丈夫。エースなら心配いらねぇよ。アイツあれでも強いから。」
「クゥ……。」
「あの様子じゃ、多少腕はたちそうだが……苦戦する相手じゃねぇよい。」


次いでマルコさんの声。
ばさり、とのんきに新聞広げてる場合ですかマルコさん……。

でも…。
サッチさんとマルコさんがそこまでいうのなら、心配いらないのだろうか。
そ、そうだよね、エース強いし。

そこまで考えたとき、ドォンと激しい爆発音が響いた。
頭が、白くなる。


「おぉ、案外派手にやってるみたいだなぁ、うちの末っ子は!」
「…相手の船沈めないからって、モビーでドンパチやられても困るんだけどねい。」


明日の掃除は二番隊に決定だな。
と何事も無いかのように呟くマルコさん。
だなぁ、と笑ったサッチさんを横目に。


「あ、おい!シロ!」


私は食堂を飛び出した。





頭突きで扉を開け放つ。
甲板に広がった光景は……まさに戦争状態。

敵味方入り混じって刃のぶつかる音。
発砲音に爆発音が響く。
いつもの穏やかな甲板がこんな戦場に早変わりとは。

突然現れた白い狼に驚いたのか、敵が切りかかってきた。
それをひょいと軽くかわして、甲板を駆け抜ける。

エース。
エースは何処だろう?
こんな相手に負けるとは思わないし、無事ならばそれでいい。
それでも、その姿を一目見たくて。

敵の攻撃を躱しつつ、甲板を駆け巡っていれば……見えたテンガロンハット。

エースだ!
とホッと息を吐いたのも束の間。


「うわっ!」
「え、エース隊長!!」


相手の……船長だろうか。
とにかく敵がエースに向って切りかかったその得物。
鋭く光る刃物、のようだけれど…材質が、何か違う。
瞬間香る海の匂い。

嗚呼、あれは海楼石の刃物だ。

エースもそれに気付いたのだろう。
船べりにてそれを避けようとして……偶然、爆音によって船がゆれた。


「!!」
「…っワン!!」


ぐらりとバランスを崩したエースの身体。
慌てて駆け寄ったけれど……時すでに遅し。

エースの身体はふわりと浮いて、宙へと投げ出された。

もちろん、船から投げ出されれば、落ちる先は決まっている。
能力者にとっては絶対に逃げられない海。


「やべっ……!」


いつの間にか出てきていたサッチさんが駆け寄ってくる気配を感じる。
マルコさんも不死鳥の姿になり駆けるが、恐らく間に合わない。


「……っアオォ―――ン!!」


エースを助けるには、ひとつしかない。
しかも久々な物だから、大きく鳴いて気合を入れた。


筆しらべ、を使うために。


そして、エースの落ちる先。
その水面に筆と墨で描いたのは……大きな○。
次いで、その○を描いた場所に現れたモノは……。


それはそれは、大きな蓮の葉。


「でっ!?」


その葉の上に落ちたエースが驚きで目を見張る。
エースを掴もうとしていたマルコさんも。
海へ飛び込もうとしていたサッチさんも。

目を見開いてその蓮を見ていた。


「大丈夫かよい!エース!」
「あ、あぁ!大丈夫だ!」


ばさり、と青い翼を翻し、不死鳥の姿となったマルコさんがエースの元へと降り立つ。
状況が理解できていないのだろう。
キョトンとしているエースを見てマルコさんも訝しげな表情をしていた。

そりゃそうだ。
突然こんな海のど真ん中に蓮が現れたのだから。


「……考えるのは後だ。掴まれ、船に戻るよい!」
「おう!」


エースがマルコさんの足を掴んで、こちらへと戻ってくる。

無事そうなその姿を見て、ホッと息を吐いた。


「キューン。」
「はは、心配かけたな、シロ。でも大丈夫だ!」
「怪我はねぇみたいだな。ったく心配かけさせんなよ。」
「悪いなサッチ!……でもよ、あの馬鹿でかい葉っぱ……。」
「それは後だと言っただろ。まずは相手を片づけるのが先決だよい。」
「……ん。そうだな!」


ぎらり、と三人が見据える先には……ヒッと息を詰まらせた敵。

それからは、隊長格による猛攻が始まった。
相手も隊長格に出て来られちゃなすすべがないのだろう。
あっという間に自分の船に追いやられて……。

それを見て、もう一度筆しらべを使うことにした。

呼び出したのは……風神。


「……(風神、お願い。)」


あいつらを、この船から見えなくなるくらい、遠くまで。
吹き飛ばしてくれ、と。

使う技は「疾風」
筆を使い、書き慣れた線をすらりと書けば……。


ゴッ、と突如拭いた突風。


「うおっ!!」
「な、なんだ!?」


突然の突風に船員たちが慌てふためく。
しかし、その風はモビーをすり抜け……。

直撃したのは敵船のみ。


ぎゃああああ!
なんて雄叫びと共に敵船はあっという間に遠くに見えなくなってしまって。


「……なんだったんだ、今の。」


なんて、だれかの唖然とした声だけが静かな甲板に響いた。















(それは)
(神様の)
(ほんの小さな助力でした)


06 END



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ゆめうつつ