09



「あー…つまり、だ。ナマエちゃんは元々人間の女の子で?」
「は、はい。」
「自分の世界から“高天原”っつー世界にトリップしたとき、“アマテラス”っつー狼になってて?」
「えぇ、まぁ……。」
「そこで狼と人の姿に変身はできてたけど、俺たちの世界にトリップしてきた時に人間に戻れなくなってた、と。」
「そういうことです……。」


サッチさんの説明に、コクリと頷けば……。
ハァ――――…。
と、それはそれは長いため息を吐いたマルコさんとサッチさん。


「……俄かにゃ信じられねぇけど……。」
「嘘でもなさそうだねい。」
「あの……本当に嘘じゃないです。」


ガシガシと頭を掻くサッチさんの表情は困惑してて。
難しい顔をしているマルコさんもそれは一緒だった。

ちらり、とサッチさんの隣を見やれば…エースの姿。


「……。」
「……。」


テンガロンハットに隠れたその表情は……見えなかった。










09










「で、驚きついでにもう一つ聞きたいことがあるんだけどよい。」
「何でしょう?」
「……この前の襲撃の際、蓮の葉でエースを助けたのはお前か?」


真っ直ぐに、射抜かれるほどに真っ直ぐ私を見てくるマルコさん。
その瞳の奥にある真意はわからないけれど……。

それでも、この人たちに嘘はつきたくなくて。


「……はい、私です。」
「…岩礁を真っ二つにしたのも、風を吹かせたのも?」
「私です。」
「悪魔の実を食べたわけでもなく、能力を使えるのはその“高天原”に行った時に得た力なんだねい?」
「その通りです。……“高天原”の世界へ行って、アマテラスになったとき、不思議な力を使えるようになりましたから。」


少しでも皆さんの力になればと、力を使っていました。
素直にそう言えば、閉じられたマルコさんの眼。
その隣ではサッチさんが苦笑していて……。


「…ここまで素直に言われちゃ、疑う余裕もねえな?」
「まったくだよい。一つでも嘘を吐けばもっと辛辣に問いただせたんだけどねい。」
「あ、はは…。」


それはつまり、私の言葉を信じてくれると言うことなのだろう。
微かに笑みを浮かべた二人に、ホッと息を吐く。


「それにしてもよ。不思議な力だなぁ。」
「……この力は筆神というアマテラスに仕える神様の力を使っています。」
「…アマテラスってぇのは神様なのか?」
「えぇ。そうみたいです。アマテラスを含め、13の筆神がいて、それぞれに使える力は違います。…高天原はこちらの世界でいえば……“ワの国”の神話に似ているかもしれません。」
「……なるほどねい。確かにワの国の文献で“天照大神”ってのを見た気がするよい。確か太陽神だったか?」
「はい。アマテラスは太陽神。残りの12の筆神はそのアマテラスに仕えています。」


ワの国にも同じような話があるだろうと思ってみれば、ビンゴだったようだ。
この世界の情報はシロだったころにマルコさんやイゾウさんから色々話を聞いていたから、私が言ってもおかしくはないし……。

マルコさんが知っていたおかげで話がスムーズに進む。
サッチさんも流石隊長といったところか。
話は知らずとも、マルコさんの説明などで理解してくれたようだ。


「にしても驚いたぜ?ただの狼だって思ってたのが、実は異世界からきた女の子なんてなぁ!」
「や、もう……本当にご迷惑ばかりお掛けしてしまって……。」
「気にすんなよい。これくらいの事はこっちも慣れっこだからねい。」


笑った二人に、私も思わず笑い返す。
それでも……
一言も言葉を発しないエースの事が気がかりで。


「……おーい、エース?お前話についてこれてるか?」
「……。」


エースを気にしている私に気付いたのだろう。
サッチさんが気を効かせてエースに話しかけてくれたけれど……。
反応はない。

ピクリとも動かないエースの口元は真一文字に結ばれていて。
目元はテンガロンハットで隠れているので、表情が読めない。

……怒って、いるのだろうか。
仕方ないとはいえ、騙す形になってしまったのだ。
軽蔑……されても仕方ないのだろう。

謝った方がいいんだろうな……。
許してもらえるとは、思えないけれど。


「あの……エース、さん?」
「……っ。」


声を掛ければ、ビクリと小さく跳ねた体。
その反応に、私は、酷く落ち込んだ。

……怒っている、どころじゃないのかもしれない。

こんな…悪魔の実の能力者でもないのに、狼に変化する女なんて…
気持ち、悪いとか……気味が悪いと、思われているのだろうか……?

あぁ、駄目だ。

泣きそうに、なる。


「……っそ、の…エース、さん……。」
「……。」
「私…騙す、つもりは……ご、ごめんなさ」
「すまねぇ!!」


謝ろうと震えながらも声に出そうとすれば、突然遮られた言葉。
遮ったのは他でもないエースの大きな声で。
キョトン、と驚く私の前でエースは……。

突然、土下座をし始めた。


「えっ!?ちょ、エースさ……!?」
「ほんっとにすまねぇ!!あんたが女の子だって知らなかったとはいえ……っお、俺、無理やり、風呂に……!!」
「あ……。」
「あー、そういやお前、初日にシロ…ってかナマエちゃんを無理やり風呂に入れてたっけ。」
「全身隅々まで綺麗に洗い上げたって自慢げに言ってたよい。」
「う、ぐ……っ!」
「確か寝る時も一緒だったっけか?」
「ナマエは嫌がってたらしいが、エースが無理矢理ベッドに引きずり込んで抱き枕代わりにしてたって聞いたよい。」
「あ、それ俺も聞いたわ。めちゃくちゃあったけぇってコイツ自慢しまくって……。」
「わ、わざとじゃねぇよ!!知らなかったから……!!」

「「知らないで許されるとでも?」」
「あああああああほんっとうにゴメンナサイ!!!」


マルコさんとサッチさんの言葉に、バッとエースが顔を上げた。
その表情はかなり焦燥してて、目には薄ら涙も溜まっているような気がする。


「ほんとにゴメン!!許されることじゃねぇとは思うけど、俺……っ!!」
「あ、や、あの…お、落ち着いて……。」


再び土下座をしようとしたエースに慌ててストップをかける。
いくらなんでも命の恩人に土下座されたいわけじゃない。


「私だって、エースさんを騙してたようなものですし……私こそ、ごめんなさい。」
「シロ…じゃなくて、ナマエが謝る必要なんてねぇよ!人間に戻りたくても戻れなかったんだろ!?」
「はい。だからエースさんが私を人間だなんて知る機会もなかったでしょう?」
「そ、れは……そう、だけどよ…。」
「だから、お相子にしませんか?」


苦笑しつつ問いかければ、キョトンとしたエースの顔。

エースを騙すような形になってしまったこと。
エースが私にした色々なこと。
すべて、おあいこ、チャラということで。

そう提示すれば…少し難しそうな顔をした後……ゆっくりと、頷いた。


「……お前、あんなことされて怒ってねぇのか?」
「まぁその時は驚きはしましたけど…仕方ないことですし、怒ってませんよ。」
「そ、か……。…ナマエが、それでいいなら。」
「じゃあそういうことにしましょう。」
「……おう。」


ようやく、ゆるりと笑ったくれたエース。
そんなエースに、私もやっと表情を緩めた。

…うん、やっぱりエースは明るい表情の方がすごく素敵だ。


「それじゃあ、親父に報告に行かねぇとな。」
「エース。ナマエ連れて親父の所に行って来いよい。」
「おう、わかった!行こうぜ、ナマエ!」
「はい。」


エースに手を引かれて歩き出す。
エースの眼は今更ながらにキラキラ輝いていて。

まるで新しい宝物を発見した子供の様に。

キラキラ
キラキラ


「……。」
「ん?どうした?」
「……いいえ、なんでもないです。」


きらきら輝くそれに、目を奪われた。















(あ、そうだ。)
(どうしたんですか?エースさん。)
(それだそれ。敬語止めろよ。むず痒くなっちまう。)
(で、でも……。)
(それからエースさんなんて他人行儀に呼ばないこと。…俺の事はエースでいいから。)

な?
なんて笑った貴方に否定の言葉も出なかった。


09 END



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ゆめうつつ