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ぱちり、と宛がわれた部屋で目を覚ます。
急遽私の為に用意された部屋は簡易のもので、少し手狭だけれど立派な個室だ。
(今度はちゃんとした部屋を用意するからな!なんて謝ってきたサッチさんに逆に申し訳ない。)

体を起こして窓の外を覗けば、一面に広がる星空。
静かに瞬くソレに、あぁ、まだ夜中なんだなと理解した。

もう一度ベッドの中に潜り込んでみるものの……眠れない。

丁度よいサイズのソレは、なんだか物足りない気がした。










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「……やっぱり眠れないなぁ…。」


むくりと、体を起こす。
何度かベッドの中で目を瞑り、体制を変えたりしてみたんだけど…。
眼が冴えてしまって眠れない。
いっそ幽神にでもお願いしようかなんて思ったけれど、酒を飲まされて二日酔いなんてこともありえるなぁと思いとどまった。

外の空気でも吸って、気分転換すれば眠れるだろうか?

思いついたが吉日。
そろりとベッドから抜け出し、外へと歩き出した。


夜の冷たい空気が頬を撫でる。


寒いとまではいかないが、昼よりも静かでひやりとしている空気。
空を見上げれば満天の星空がはっきりと見えて…。
大神の世界もそうだったけれど、「私の世界」じゃこうも綺麗な星空は見えないな、なんて苦笑した。

とことこと甲板に向って歩き出す。
途中、見張りの人たちと軽く挨拶を交わして、何故かおやつをもらった。

…この世界の人たちって、順応力すごいと思う。
だって今まで狼だと思ってたのが人間だった。ってわかったのが今日の事。
それなのに、もうそれに対応してしまっているんだから。

すごいなぁ、なんて思いながら貰ったお菓子を半分に割ってぱくりと口へ運ぶ。
と、その時だった。

甲板の手すりにもたれかかって、海を眺める人の姿。
あれは紛れもなく……


「……エース?」
「ん?あぁ、ナマエか。」


そう、エースだった。
暗い甲板でボーっと海を見つめて……。
ここ一か月くらいしか知らないけれど、これくらいの時間ならとっくにベッドで眠っているはずなのに。


「今日は色々と驚かせてごめんなさい。」
「もういいって。“お相子”なんだろ?」
「ふふ…。そうだったね。」


エースの隣に立ちって、同じように海を眺める。
真っ黒の海は空との境目が分からなくて……少し、怖い。


それ、どうしたんだ?
見張りの人から貰ったんだ。エースも食べる?
サンキュ。


なんて、なんでもない会話をしながら海を眺める。
…アマテラスの時は出来なかった「お喋り」に少し感動してしまう。
あぁ、私、エースと話をしてるんだなぁ、なんて。


「そういえば、こんな時間に起きてるなんて珍しいね。」
「……なんか、寝付けなくてよ。」


眠そうに目をこすっているくせに、ベッドに入るとなんだか眼が冴えてしまうらしい。
自分と同じような状況に思わず笑う。
私もそうなんだよと告げれば、少し驚いたようにエースも笑った。


「なんだ、ナマエも眠れねぇのか。」
「うん。……まだ気が高ぶってるのかも。」
「その姿で初めて親父と話したから?」
「それもあるけど……船に居ていいって言ってくれて、嬉しかったからかな。」


親父さんと話をした時。
この姿に慣れることに、親父さんが案外驚いては居なかった。
それどころか予測でもしていたように笑ったのだ。
「やっと話ができるなぁ。」なんて。

そして問われたのは、この船に残りたいか否か。
エースにじっと見つめられる中、私は自分の気持ちをはっきりと告げた。

ここに、残りたい、と。

ジッと見透かすような目で見てくる親父さんに少したじろいたけれど、嘘じゃないから。
胸を張って、親父さんの返事を待てば…。
返ってきたのは豪快な笑い声。

「嬉しいじゃねぇか。娘がまた一人増えた。」

そう言って、私を迎え入れてくれたのだ。

泣きそうになるほど、嬉しかった。


「本当に良かったのか?海賊船だぜ?」
「うん。…ここに居たい。」
「……そっか。」


なら、もう何も言わねぇ。
しししと笑ったエース。

その時だった。


「…っくしゅ!」
「!大丈夫か?」
「だ、大丈夫。」


夜の風は思ったよりも私の体を冷やしていたらしい。
一度くしゃみをしてしまえば、心配そうな目を向けられた。


「…アマテラスの姿の時はふわふわの毛があるから寒さはあんまり感じなかったんだけどな…。」
「人間の姿じゃそうもいかねぇってことか。」


体毛があるアマテラスの時と同じに考えてはいけないらしい。
解っていたことなのに、ここ数日ずっとアマテラスの姿だったから感覚が鈍ったかな?
なんて思った時だった。


「ほら。」
「わ!」


突然の浮遊感。
驚いて身を固くすれば…目の前にはエースの顔。
どうやらエースに抱き上げられているようで……って違う!!


「ええええエース!?」
「しーっ!皆起きちまうだろ。」
「で、でででも!」
「寒いんなら、これ被ってようぜ。」


運ばれたのは、船べりではなくマストを支える柱の根本。
そこには見張りようなのだろうか、温かそうな毛布があった。

あぁ、これをかぶれと言う意味なのかと思えばそうでもなく。

エースが私を抱えたままその柱を背に座り込む。
自然と私はエースの足の間に腰を下ろすことになって……。
エースは自分と私を纏めて一枚の毛布に包んだのだ。


「え、エース……?」
「一人よか二人の方があったけぇだろ?」
「い、いやいや、それはそうだけど……!」
「……やっぱ、お前あったけぇな…。」


ぎゅう、と抱きしめられて、心臓が跳ねる。
今までエースに抱き枕されていたのはあくまでアマテラスの姿の時だけで…。
人間の姿になって抱きしめられるとはつゆほども思っていなかった。

どっ、どうしようこの状況……!

冷えたと思っていた私の身体は、思ったよりも冷たく無かった様で。
(やはりアマテラスの力だろうか?)
私を抱きしめたエースは心底安心したように息を吐いた。
(ひっ!エースの息が首筋にぃいい!!)


「えっエース……!」
「……。」
「…エース?」


とりあえず離してもらおうと名を呼んでも返事が無い。
恐る恐る振り向いてみれば……そこには幼い寝顔。

って、ちょ……寝ちゃったの!?
この状況で!?


「う、嘘でしょ……。」


なんて呟いてみても返事があるわけじゃない。
抜け出そうともがいてみても…エースの腕はビクともしなかった。

……あぁ、もう。
なんて悪態をついて、開き直ってエースの逞しい体に体重を預ける。
そうすれば、一段と強く感じたエースの温かさ。


「……そっか。エースは火だもんね…。」


暖かい筈だ、と。
エースの肩に頭を預けた。

……こんな大胆なことができるのも、アマテラスの姿の時密着されまくったからだろうと思う。


「……あったかい…。」


エースと触れ合っている部分が、ポカポカとあったかくて……。
まるで、陽だまりの中にいるように心地良い。


「…あ……やば……。」


瞼が、閉じていく。
急激な眠気に対抗何てできなくて。

ゆっくりと、意識が落ちて行く。


「……。」
「……。」


部屋のベッドで感じた、足りない何かが埋まったかのように。
ほんわりと温かくなった心。

私は……
眠りながらも、しっかりと私を抱きしめるエースに体を預けて……。

眠ってしまった。















(……なぁイゾウ。こいつ等何こんなとこでいちゃつきながら寝てんの?)
(俺に聞かれたってしらねぇなぁ。)
(だぁああ!もう何こいつ等!!リア充は爆発しろよもう!!)
(抱いて眠るのがもう癖になっちまってんのかねぇ?)
(ナマエちゃんの部屋別に用意しなくていいだろコレ!!)
(…いいんじゃあねぇか?今更部屋を移動させるのも面倒だし、エースの部屋でいいだろ。)
(決定!!いちゃつくなら部屋でやれってんだ!こんなとこでやられちゃ目の毒なんだよ!)
(……えらく辛辣じゃあねぇかサッチ。…さてはテメェ、またフラれたな?)
(ちくしょーーーーー!)

(うるせぇな……なんだよサッチ、朝っぱらから。)
(ふぁ……。イゾウさん…おはようございます…。)
(あぁ、おはようさん。ところでナマエよぉ。)
(はい?)
(今日からお前さん、エースの部屋で寝な。)
((……は!?))
(こんなところでイチャつかれたらお兄さんの眼に毒なの!!つーわけで今日からエースの部屋がナマエちゃんの部屋だかんな!)
(は!?ちょっと待てよサッチ!!)
(そそそそうですよ!いちゃついてなんて…!)
(てめぇらのその格好見て何処がイチャついてねぇってんだよ!!)
((!?))


10 END



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ゆめうつつ