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とんでもないことになりました。


「くっそ、サッチとイゾウの野郎……っ!」
「な、なんかごめんね…?」
「ナマエのせいじゃねぇよ。悪いのはサッチとイゾウだからな!」


いらいらと、椅子に座って貧乏ゆすりを止めないエース。
事の次第は、朝、エースと眠ってしまっていたところをイゾウさんとサッチさんに見られたところから始まった。

どうやらマストの元で朝まで眠ってしまっていたらしい私とエース。
それを発見したのがイゾウさんとサッチさんだったらしく……。
あれよあれよという間に、何故か私の部屋がエースの部屋に決定してしまったようだ。
(何かを叫びながらサッチさんがマルコさんと親父さんに許可を貰ってしまったらしい。あっという間だった。)

私は昨日宛がってもらった部屋でいいですから!
と、訴えたのだが…。
元々そこは別の船員さんの部屋だったらしく、却下。
なら、ナースさんのお部屋にお邪魔しますと言えば、定員オーバーだからとそれはそれは綺麗な笑顔で断られてしまった。


そして、結局。
私はエースの部屋にお邪魔することになってしまったのだった。










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「ナマエ、俺こそすまねぇな。昨日俺があのまま寝ちまったから。」
「い、いやいや、私だってあのあとすぐ寝ちゃったし……。」


き、気まずい。
エースに謝られて、こちらも謝罪。
その後に訪れたなんとも気まずい雰囲気。

そりゃそうだ。
年頃の男女が同じ部屋で寝ろって言われても無理だから。

今までは私が人間だって知らなかったからこそできたわけであって……。

……エースは意外にも紳士なのだから。


「とにかく、今日はここで寝ろよ。明日またマルコに言ってみる。」
「って、え?エースどこにいくの?」


私に眠る様に言って部屋を出ようとするエース。
慌てて引き留めれば、その顔は苦笑していた。


「俺は適当に大部屋に邪魔して寝てくる。気にすんな。」
「だ、駄目だよ!だってここエースの部屋なんだから、出るなら私がでてくから!」
「馬―鹿。出てくっていっても何処で寝るんだよ。」
「アマテラスの姿になればどこでも寝られるよ!」


そう言って、アマテラスの姿に変化する。
そうして、するりとエースの脇をすり抜けて外に出ようとすれば……。
エースが慌てた様子で私を抱き上げた。


「ま、待て待て待て!女を外で寝かせられるかよ!」
「がう!ワウワウ!!」
「だぁ!何言ってんのかわかんねぇし!一旦人間に戻れって!」


エースが私をベッドに下したので、再び人間の姿に戻る。
互いにジッと顔を見つめ合って……はぁ、と深いため息を吐いた。


「……わかった、どっちも譲る気はなさそうだな。」
「エースが出てくくらいなら、私が……。」
「わかったわかった!なら、二人でこの部屋で寝るぞ。それで文句ねぇだろ。」


ばさり、とかぶせられた布団。
慌ててそこから抜け出せば、エースは毛布にくるまって椅子に座っていた。


「……何してるの?」
「寝るんだよ。お前も早く寝ろよ。」
「だから!ここはエースの部屋でしょう!?エースがベッドで寝て!私が椅子で寝るから!もしくは床で寝るから!」
「だーかーら!!女をそんなところで寝かせられねぇよ!!」
「アマテラスになれば余裕です!」
「俺が納得できねぇんだよ!!」


ぜぇぜぇ、と。
お互い一歩も引かない状況が続く。

マズイ。
このままじゃどうにもできないまま朝を迎えることになりそうだ。

かといって、私が床で寝ると言えばエースは駄目だというし。
エースを椅子で寝かせる訳にもいかない。
どうしようか、と切羽詰った状況で思いついたのは、苦肉の策。


「……エースはベッドで寝てね。」
「お前まだ……っ!」
「私も!…ベッドで寝るから。」


しぶしぶ言い放った言葉に、一瞬キョトンとしたエース。
でも次の瞬間には、その顔は赤く染まって。


「お、ま……っ!何言ってんのかわかってんのか!?」
「ち、違うから!私がアマテラスの姿になれば良いでしょ?」
「え……。」


そう。
つまりは、私が人間だと解る前の眠り方にすれば良いんだ。
前まではエースはアマテラスの姿の私を抱き枕代わりに眠っていた。
流石に抱き枕まではいかなくても、獣の姿ならエースが気負うことも無いだろう。


「お前……。」
「ね?これなら良いでしょう?」


この状況下では、我ながら名案だと胸を張る。
……本当に苦肉の策ではあるけれど。

そうすると、エースは……ほんのりと顔を赤くしたままそれはそれは深いため息を吐いた。


「……もう良い、わかった。」
「ん。ならすぐアマテラスに……。」
「ならなくて良い。」
「へ?」


グイッと腕を引かれて。
ボスンとダイブした先はもちろんベッド。
慌てる私に更に布団がかぶせられて。

ぷあっとそこから顔を出せば、至近距離にエースの顔。


「っ!?」
「お前、やっと人間の姿に戻れたんだろ?…ならわざわざ狼に戻って寝る必要なんてねぇよ。」
「で、でででも……っ!」
「あーもういい!サッチじゃねぇけど、俺だって面倒なこと好きじゃねぇし。」
「え、エース……?」
「考えるのも疲れた。もういい加減眠ぃ。……このまま寝ちまおう。」


な?
なんて、至近距離で微笑まれたら……。
もう固まるしかなくて。

「おやすみ」、と背を向けて眠ってしまったエースに、何も言えず。
私も、エースに背を向けて……「おやすみ」と、ばくばくなる心臓を抑えて目を閉じた。

聞こえてくるのは…エースの寝息。
(相変わらずのび太君なみに早いなぁ)
どうせ緊張して眠れないだろうと思っていた私も……。

背中越しに感じる体温に、いつの間にか眠ってしまっていた。















(翌日の朝)
(太陽の光にふと目を開ければ……)
(体に回された逞しい腕に気付いた)

(いつのまにか)
(エースに抱きつかれていて)
(私も)
(エースに抱きついていたようで)

(思考が、体が固まる)

(悲鳴は出ず、口をパクパクと開閉するだけ)
(それでも)
(幸せそうに)
(安心しきった顔で眠るエースを見て)

(……あぁ、もう、どうでもいいや)

(なんて、私は考えることを諦めた)

目を覚ましたエースが叫ぶまであと20秒。


11 END



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ゆめうつつ