09
小さなマルコ医師に部屋に監禁されてから数日。
おかげですっかり体が鈍って……ゴホン。
おかげですっかり体調も良くなって、ぐぐっと背を伸ばせばバキリと節々が鳴った。
天気は良いし、風も気持ち良い。
何だ、絶好のお散歩日和じゃないですか。
「マールコ!」
「よい?」
「海辺までピクニックに行こうか!」
「行くよいっ!」
元気なお返事に笑う。
さあ、お弁当作ってお出掛けだ!
09
「あーるーこー!あーるーこー!」
「わたっしはーげーんきー!」
なんて私にとっては懐かしい歌を口ずさみながらマルコと手を繋いで海辺を目指す。
マルコは物凄くご機嫌で、どうやらお弁当持ってのピクニックが相当楽しみらしい。
海辺へ行くには、相変わらずスラム街を横断しなくてはならないのだけれど……。
何故か、誰一人として絡んでこない。
一度は「カモだ」と言わんばかりにこちらをチラリと見やるのだけれど。
隣にいるマルコを見て、ビクリと顔を強張らせて去っていくのだ。
それはそれは気の毒なまでに顔色を無くしながら。
……最近、一人で街に降りることが多くなったマルコ。
(強くなったから心配はしてないけど)
うーん……スラム街の中のスラム街、そんなところに住みつくやつらを怯えさせてるって……。
マルコ君や、君一体彼らに何をしたのかね?
何となく。
本当になんとなーくそう聞いてみたら……返ってきたのはそれはもう綺麗な笑みで。
「ちょっと一緒に遊んだだけだよい。」
……なんて、完璧な笑顔で言われてみ?
「あ、そうっすか。」としか返せなかったから。
それ以上深く聞けないから。
……とにかく、この街で色々ヤンチャをしているらしいマルコ。
どうやら危険人物たちから「危険人物」だと認定されているらしい。
まぁ、予想以上の速度で強くなっているマルコを歓迎こそすれ非難するつもりなどない。
ご機嫌な彼を見やり、苦笑を浮かべた。
「おー!今日は一段と綺麗に澄んでるねー!」
「真っ青だよい!」
私とマルコの眼前に広がるは壮大な海。
先日、季節外れの台風がやってきたからか、海は青く澄んでいてとても綺麗だ。
浜辺を歩けば、台風の所為で色々な物が浜辺に打ち上げられていた。
人形やおもちゃ、空ビンに……何に使うか想像もつかない奇妙な物まで。
それら一つ一つを物珍しそうに拾い上げて観察しているマルコ。
……どうやらマルコの知識欲が刺激されたらしい。
いくつか持って帰るって言いそうだなぁ。
「ナマエ!」
「どうしたの?マルコ。」
「これ、ナマエにあげるよいっ!」
にしし、と笑うマルコは何かを持っているようで。
受け取ってみれば……綺麗な桜色の貝殻。
「わ、可愛い!」
「あっちで見つけたんだよい!」
「うわぁ!本当に綺麗!ありがとうマルコ!」
「へへっ!どういたしまして!」
照れたように笑いながら、また走っていくマルコ。
……マルコももう9歳かぁ。
身体も大きくなってきたし、出会ったころに比べれば月とすっぽんだ。
照れやで素直で優しくて。
きっと大きくなればモテモテだろうなぁ……って、私マルコの大きくなった姿知ってんじゃん。
白ひげ海賊団一番隊隊長。
こんな可愛い子が、そんな大物になるなんて……。
人間、どうなるかわかんないもんだね。
白ひげ海賊団の2という立場は、どれほどの重圧なのだろうか。
きっとマルコはそれすらも覚悟として一生背負っていくのだろうけれど。
“不死鳥、マルコ”
私が一番好きなキャラクター。
でも……目の前にいるこの小さなマルコは決して“漫画の世界”の人間じゃなくて……。
ちゃんと、一人の人間として生きていて。
「ナマエ!こっちだよい!!」
「はいはーい!今行きますよーっ!」
……マルコが、この手から巣立っていくまでは…私は彼を守る。
それが約束だし……私が、そうしたいから。
私を呼ぶマルコの傍に駆け寄ろうとした時……。
海に見えた影。
「……?」
この浜辺からさらに離れた場所……島の切り立った崖の向こう。
そこに…船が、見えたような気がした。
大きな……ガレオン船?
船体のほとんどが崖の向こうに隠れてしまっていて、ここからは確認できないけれど。
この街の港には大きな船がやってくることがある。
大きな島と島の間にあるから、補給に立ち寄るためなのだろう。
だから、あの船もその類なのだろうと思ったのだけれど……。
何故か、嫌な予感。
「ナマエ?どうしたんだよい?」
「え?……あぁ、別に何でもないよ。」
立ち止まった私を不思議に思ったのだろう。
駆け寄ってきたマルコが私を見上げて小首をかしげる。
そんなマルコに笑いかけて、私は歩き始めた。
きっと、嫌な予感なんて気のせいだと。
そう自分に言い聞かせて。
(おべんとう!おべんとう!)
(あはは!たくさん作ったからいっぱい食べてね!)
(よいっ!!)
マルコの笑顔を見ても
未だ胸に黒い影がチラついた。
09 END
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ゆめうつつ