12


眼下に広がる光景を目に焼き付ける。

瓦礫、血の跡、焼けた家屋。
一晩にして死の街と化したスラム街。

後悔はなかった。

碌な人間は居なかったし、唯一仲の良かった本屋の店主はすでに事切れていた。
あの能力を使って後悔などなかったはずなのに……。


「だったら……っナマエが傷つくようなことするなよい!!」


マルコのその一言で、涙腺が決壊した。
自分でも訳が分からない内に涙があふれ出て、止まらなかった。
私は……自分で思うよりも、傷ついていたらしい。


あぁ、マルコが私を守ると言ってくれた時、嬉しかったなぁ…。なんて思いながら街だった場所を歩く。


この街の遺体は全て埋葬した。
マルコがそうしようと言ってくれたから。

自分のやったことを再確認しながら手厚く葬ったとき……また、少しだけ泣いてしまった。
(そんな私を抱きしめてくれたマルコの手が、とても温かだった。)


「ナマエっ!もう良いかよい?」
「うん。もう大丈夫。」


行こうか。
と、足を踏み入れた小さな船。

今日、私たちはこの街から去ることになった。










12










「よし、やる気があるなら問題ないね!明日から頼むよ!」
「はい!よろしくお願いします!」


雰囲気の良いカフェ。
向かい合わせに座った年配の女性に頭を下げる。
明日から私はここで働くこととなった。


あれから数日後、私とマルコは大きな都市のある島にいた。


いわゆる商業都市というのだろうか。
活気づいた街はとても大きく。
雰囲気的には原作で見たウォーターセブンと似ているかも知れない。

上陸したその日は宿をとり体を休め……。
次の日には家を借りた。
皮肉なことに、お金なら海賊のを拝借して無駄にあったしね。

この街なら安全だし、ちゃんと就職口がありそうだったから働くことに決めたのだ。
(マルコからはブーイングが上がったけれど。)


「ところでアンタ、この島に来たばかりだと言っていたけど、家は見つかってんのかい?何ならウチにあいてる部屋が……。」
「あ、ありがとうございます。でも昨日家を見つけたばかりなので……。」
「へぇ、そりゃあ何よりだ。家族はいるのかい?」
「はい!とっても可愛い大事な家族が一人!」
「ふふっ!よほど大事にしてるんだねぇ。」


親切なカフェの女店主さん。
こういう人情のあるところもいいなぁ、なんて心がホコホコする。


「じゃあ…明日からよろしくお願いします。」
「ん、こちらこそよろしくね!あぁ、後ひとつだけ。」
「?」
「裏道には注意しな。ヤバイ野郎どもがわんさかいるからねぇ。」
「……そうですか。ありがとうございます。」


ペコリ、と頭を下げてカフェを出た。

……ヤバイ野郎共、か。
そりゃそうだ。
これだけ大きな都市になれば、その分暗い部分も大きくなるだろう。
どれだけの実力者がいるかわからないから、当分の間はマルコにも近づかない様に言っておかなきゃ。

そんなことを考えながら街を歩く。

今までの島とは考えられない程活気づいて、人も多い。
色々な音がまじりあって耳に届く。
けれど決してその音が不快なわけじゃない。

道沿いに並んだ店を覗くと……新鮮な野菜や魚、肉がたくさん並んでいた。
……せっかくこの街に越してきたんだし、引っ越し祝いでもしようか。
なんて考えて色々と購入。

そうだ、大きい街なんだからマルコの好きな本もたくさんあるだろう。
お祝いとして数点買ってあげよう、なんて考え始めればわくわくしてきた。

これからお世話になる新しい家の玄関を潜れば、トタトタと走り寄ってくる足音。


「ナマエ!おかえり!」
「ただいまー!マルコ!」


にへっと笑ったマルコが出迎えてくれて、思わずこちらも笑ってしまう。

……あれからマルコは、いつも通りに私に接してくれている。
決して無理をしているわけじゃなさそうだから私も何も言わなかったけれど。

マルコは…強い。
力云々じゃなくて、心が。
私なんかより、ずっとずっと強いのかもしれない。


「わ!すっごい量だよい!」
「えへへ、引っ越し祝いしようと思って…ちょっと買い過ぎちゃった。」
「引っ越し祝い?」
「うん。今日からここで頑張りましょうっていうお祝い。」


そう伝えれば、マルコも納得したようでニシシと嬉しそうに笑う。
マルコに半分荷物を持ってもらって、奥の部屋を進めばもうすでに引っ越しの荷物は殆ど片付いていた。


「……もしかしてマルコが全部片づけてくれたの?」
「よい!」


あまりあの島から持って行くものが無かったとはいえ……二人分の引っ越しの荷物だ。
結構な量があったはずなのに、ほとんど荷解きされていて。
残っているのはお互いの服くらいなものだ。


「な、なんかごめんね?全部やらせちゃった……。」
「別に良いよい!ナマエはメンセツだったんだし!」
「それなんだけど、大通りの角のカフェで働けることになったの。明日から行ってくるね。」
「……本当に行っちゃうのかよい。」
「お金は稼がなきゃね。」


むすり、と拗ねた表情を浮かべたマルコの頭をくしゃりと撫でる。
うーん、やっぱりまだ全面的に賛成してくれたわけじゃないらしい。

それにしても、どうしてそこまで反対されてるのかわからないんだけどなぁ。


「と、とにかく!いっぱいご馳走作っちゃお!」
「よい!!」


お肉を焼いて、野菜を切って、魚を煮込んで。

マルコと一緒に料理を作るのは初めてではない。
前の島で、時折手伝ってくれていたし……。
マルコはとても器用だから、一度教えればマスターできちゃうしね。
2人で手際よく料理を作っていく。

出来上がった料理は……テーブルに乗りきらない量だった。
(うん…流石に作りすぎたなぁ。)


「それじゃあ、乾杯しましょうか!さぁマルコ君、音頭をお願いします!」
「えーと……これからの生活を祝ってー!!」
「「乾杯!」」


マルコの手にはオレンジジュース。
……私も正直お酒が強い訳じゃないので同じくオレンジジュースを片手に、カチンとグラスを鳴らす。

一気にジュースを飲み干し、料理に手を付け始めたマルコ。
余程お腹が空いていたのか、どんどん消えていく料理にため息どころか清々しささえ覚える。
私も料理を口に運べば……ほわり、と胸が温かくなったような気がして。


「美味しいねぇ、マルコ!」
「んぐ!うまいよい!」


本当に嬉しそうに食べるマルコに笑む。

ちゃんと、マルコは今幸せだろうか。
私と居て、これから先不幸にならないだろうか。
時折そんなことを考える時がある。

けど……。


「ナマエ!早く食べないと俺が全部食べちゃうよい!」
「あ!だめだめ!それ楽しみにしてたのにっ!」
「早い者勝ちだよい!」


今、マルコは笑ってくれているから。
それでいいか、なんて……それは甘い考えなのだろうか。

けど、私だってマルコと離れるなんて考えはもう無くなってて。
マルコの傍で、マルコの成長を見守っていきたい。

多く光りの差すこの街で……。
私とマルコは二回目のスタートを切った。















(マルコ……たくさん食べたね。)
(まだ一つだけ食べたいのがあるよい!)
(ま、まだ食べるの?)
(うん!ナマエの作ったホットケーキ!!)
(ふふ……了解です!)

満面の笑み浮かべた子に
苦笑しつつ席を立った


12 END

2015/04/13


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ゆめうつつ