15


「ナマエ、どっか行くのかよい?」
「うん、ちょっと買い出しついでに街をプラプラしてこようかなーって。」
「俺も行きたい!……行っても良い?」
「もちろん!じゃあ、用意しておいで。」
「よいっ!」


今日はお休みの日。
久しぶりに街を歩いてみようかな、なんて用意をしていれば……。ひょっこり奥から顔を出したマルコ。
パタパタと自分の部屋へ走っていくその姿にクスクスと笑う。
さて、私も用意を済ませてしまおうか、と再び準備を再開させた。

お財布にハンカチ・ティッシュ。
家のカギに簡単なメイク直し。
お散歩がてらの買い出しだもの、手荷物はこれくらいで充分。
久々にメイクにも気合を入れて……。

さあ、準備が出来ました、と言う時にマルコも部屋から出てきた。
(ナイスタイミング。)
身に着けているのはこの前かったばかりのお気に入りの服。
マルコが一目見て気に入ったその服は落ち着いた色合いで、マルコを大人っぽく見せている。


「ナマエ、綺麗だよい!」
「あはは、ありがとう!マルコも随分と大人っぽく見えるねー。格好良い!」
「本当かよい!?」
「うんうん。とっても似合ってるよ!」
「へへっ!ナマエとのデートだから気合入れたんだよい!」
「ふふっ、デートかぁ。確かにそうだねぇ!」


おませさんだなぁ、なんて。
クスクス笑って肯定すれば、ほんのり頬を染めて嬉しそうにはにかむマルコ。

嗚呼、もう……本当に可愛いわこの子。










15










「あ、あのお店可愛いなぁ。」
「ナマエ!あっちの店も面白そうだよい!」


マルコと並んで街を歩く。
2人でこうやってゆっくりと出掛けるのも久しぶりだ。
普段来る機会の少ない、家から遠く離れた場所。
眼に入るものすべてが新鮮で、マルコと一緒に目を輝かせていた。


色んな店を覗いて
美味しいご飯やデザートを食べて
私よりも街に慣れているマルコにエスコートされながらのお散歩はとても楽しい。
散々はしゃいで、少し疲れて。


公園のベンチへと腰を下ろした。


「あはは、歩いた歩いた!なんか喉渇いちゃったね。」
「確かあっちにジュース売ってる店があったよい。」
「そっか、じゃあ買いに行ってくるから、マルコはここで……。」
「俺が行ってくる!」
「え、でも……。」
「デートは男がエスコートするんだよい!」
「ぷっ……あはは!じゃあお願いします。」
「よいっ!」


なんて、満面の笑みを浮かべて走っていったマルコ。

……本当に大きくなったよねぇ。

原作のマルコは白ひげの船に20年以上乗っていると言っていた。
原作のマルコを仮に30歳半ばくらいだと設定すると……。
もうそろそろ、白ひげの船に乗ってもおかしくないのだ。

親馬鹿だと言われるかもしれないが、マルコはスゴイ。
知識もどんどん吸収して、体も大きくなった今、強さも申し分ない。


……白ひげの船に乗ると言い出せば、ちゃんと笑って送り出そう。


泣いてしまわない様に、今から覚悟しとかなきゃなぁ……。
なんて考えていた時だった。


「こんなところで何やってんの?」
「おねーさんひとり?」
「……。」


二人の若い男性。
にっこりと人好きのする笑みを浮かべた二人に声を掛けられた。


「いえ、連れがいるんです。」
「えー?どこ?」
「いねぇじゃん。もしかして待ち合わせ?連れの子も女の子?」
「……いいえ、男の子ですけど。」


なんだろうこの人たち。
あんまり根掘り葉掘り聞かれるのは好きじゃないんだけどな。
怪訝そうな顔をした私に気付いたのか、ドカリと両隣に座った男たち。
そのうちの一人が、私の肩を抱いた。


「あの……。」
「俺たち今暇でさぁ、よかったら一緒に遊ばない?」
「そうそう!男なんて放っておいてさ。」


馴れ馴れしい態度。
ニヤニヤと笑みを浮かべる男たちに首を傾げる。

なんでこの人たちは私に声をかけたんだ。
遊びたいなら勝手に遊びに行って来ればいいのに……。
そもそも、女の子と遊びたいなら可愛い子でもナンパすれば……。
と、そこでやっと気が付いた。

あ、これってナンパされてるのか、と。


「どう?俺たちと遊ばねぇ?」
「……。」
「俺たちオネーサンと遊びたいんだけど。」


わぁ……。生まれてこの方20数年。
私、初めてナンパされたわ。

15まで現代にいたころは部活ばっかりだったし。
トリップしてから21まではクロロ達とつるんでたからそんな機会一切なかったし。
ここに来てからはマルコにつきっきりだったからなぁ……。

これがナンパか……。
あんまり嬉しいモノでもないんだなぁ、なんて考えていれば……。

ザッと、目の前に現れた影。


「……何やってんだよい。」
「マルコ!」


チリリ、と殺気を漂わせて。
見るからに「不機嫌です」と言わんばかりの表情を浮かべたのは、マルコ。
両手に持たれているのはフルーツジュースだろうか。
(あぁ、美味しそうだ。)

ギラリ、と両サイドの男を睨み付けている表情は「凶悪」の一言に尽きる。
……そういや、前にもこんな表情見たことあったな。
あれはスラム街でチンピラに絡まれた時だっけ。


「あ?なんだてめぇ。」
「お前らこそ誰だよい。」
「ガキはお呼びじゃねぇんだよ、すっこんでろ!」


マルコに対し吐かれた暴言に、ピクリと眉が動く。
……何なんだこいつ等。

じろり、と隣にいる男を睨み付けようとすれば……グイッと肩を引き寄せられた。
それをみて、マルコの表情がさらに歪む。


「俺たちこれからオネーサンと“イイコト”すんだよ。」
「邪魔すんなガキ。」


顔を近づけられ、耳元で喋られて鳥肌が立つ。

あ、やばい、気持ち悪いこの人。
それが素直な感想。
あまりの不快感に離れようとすれば……

ゴッ

と、鈍い音と共に、両隣の男が吹っ飛んだ。
確認するまでも無い。

マルコが両隣の男を吹っ飛ばしたなんて明白で。
(あぁ、地面に落ちてしまったジュースがもったない)


「……この人に触るな。」
「い、ってぇ……このガキ…っ!!」
「触ったのはこの手だねい。」


ぎしり、と腕を捻りあげる。
後ろを向いているため、マルコの表情は確認できないが……。
どうやら相当お怒りらしい。
(隣で尻餅ついてる男の顔が真っ青だ)


「……汚い手でこの人に触るなよい。」
「は、離……!!」
「…折ってやろうか?」


マルコが、ニヤリと笑ったのがわかった。


「腕を折ろうか?それともナマエに触れた皮膚を剥いで欲しいかよい?……嗚呼、触れた部分を切り落とすってのも良いねい。」
「ひっ!!」
「……うわぁ……。」


な、なんつー台詞を……。
マルコ君や、君どこでそんな台詞覚えてきたの?
今の君はリアルにそれをしそうで怖いんだけど。
お姉さん怖くて震えそうなんだけど。


「あ、あの、マルコ?その人たち戦意喪失してるみたいだし、もう良いんじゃないかな?」
「まだナマエに触った部分を切り落としてないよい。」
「切り落とさなくて良いから!!そんなグロイ場面みたくないから!!」
「……ナマエがそう言うなら……。」


パッと、手を離した瞬間にズザザとすごいスピードで後ずさるナンパ野郎。
がくがく震える様はまるで雪山に捨てられたチワワのようなのだけれど……。

男のプライドというのか。
やられっぱなしではいられない性質なのか。


「な、なんだよ……っはなからババアの相手なんざお断りだ!!」
「な……っ!」
「本気にしてんなよクソババア!!」


なんて捨て台詞を吐いて逃げ出した若者たち。
って、お前らも大して私と年齢変わらないだろうに。

その言葉を聞いてゴォッと再び殺気を放つマルコの手を取って落ち着かせる。
満身創痍な状態で何を言われても負け犬の遠吠えにしか聞こえない所が滑稽だ。

けど……ババアか。


「そりゃ、もう20代も後半だしね……。」


自分で言ってちょっと悲しくなる。
マルコと出会った時が21だったっけ。
あれから7年。マルコももう12歳だもんなぁ……。


「あはは……充分オバサンだよねぇ。」
「そんな事ないよいっ!!」


乾いた笑いを浮かべ、自嘲するような私の言葉を強く否定したのはマルコ。
……小さい頃は遠かったその目線。
最近はどんどんと近くなってきてて……今ではもうほとんど変わらない。
あと少しすれば、追い抜かれてしまうだろう。


「ありがとう、マルコ。お世辞でも嬉しいよ。」
「お世辞なんかじゃねぇよい!ナマエは綺麗でなんにでも一生懸命で可愛くて……!!」


ポカン、としていればマルコの口からスラスラと流れ出す褒め言葉。
わお、なんというリップサービス。
次々溢れ出すその言葉に、恥ずかしくなってくるのは私の方で。


「ま、マルコ!ストップストップ!」
「むぐっ!」
「う、嬉しいけど恥ずかしいから!ちょっとその辺でお口止めようね!」


慌ててマルコの口をふさぐ。
むぐむぐと何か言いたげだったけど……無理だから。
ここは公園で、他の人だってたくさんいる。
そんな中の褒め殺しとか……そんな羞恥プレイ耐えられませんから。
(ただでさえ、ナンパ野郎撃退劇で注目されてんだから)

顔を赤くしながらも止めてくれと懇願すれば、少し不満そうな顔だったけど、こくりと頷いたマルコに口を塞いでいた手を離す。


「……言い足りないくらいだよい。」
「も、もう十分だから。……本当にありがとう、マルコ。」
「へへ……安心しろよい!あいつらの顔はちゃんと覚えたからねい!」
待って。あの人たちの顔覚えてどうするの?どこに安心する要素があるの?ちょ、ねぇ、マルコ?マルコ君!?」


ぴゅい、なんて口笛を吹きながら歩き出すマルコ。

な、なんて典型的なはぐらかし方……っ!
駄目だよ!?
一般の人に手だしちゃ駄目だからね!?
聞いてますかマルコ君!?

慌てる私に、笑うマルコ。

こうやって慕ってくれるのはとても嬉しいけれど……。
ちょっとばかり盲目で過保護過ぎやしませんか、と。
ほんのちょっぴり不安になったお休みの日。















(ナマエに触れた奴ら。)
(ナマエを馬鹿にした奴ら。)
(ナマエを傷つけた奴ら。)
(俺の大事な家族を悲しませた奴ら。)

(そんなの)
(許しておける筈がねぇだろい?)


15 END
2015/04/17


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ゆめうつつ