出逢い 中編


海で出会った、エドワード・ニューゲートさん。
思った通り、彼は海賊で。


「巨人たちの島ですか……。」
「あぁ!そりゃもう圧巻だったなぁ。」
「何だか踏み潰されてしまいそうですね。」
「グラララ!実際何度か危ない目にはあったが、何とかなるもんだ!」
「ふふっ!」


私より10も年上の彼は冒険の話をするとき、目がキラキラと輝いていた。
まるで、子供のように。

海軍の多いこの島で彼を匿ったのは、海辺の近くにあるひっそりと建てられた小屋。
私だけが知っている秘密基地。
そもそも私の家の敷地内に建てられていたこの小屋は海軍どころか両親さえも知らないだろうから一番安全だ。

そんな小屋の中で聞く、わくわくするような冒険話。
それも、おとぎ話ではなく実際にエドワードさんが体験した話。

巨人たちの島。
分厚い氷に覆われた陸地。
砂漠が広がる国には格闘技を身に付けたアザラシがいるらしい。

聞けば聞くほど想像が膨らんで楽しくなる。
エドワードさんと出会って一週間経つけど……あっという間だった気がする。


「ふふ…とっても楽しそうですね!」
「そりゃあ楽しいぜ。なんたって俺たちは誰よりも自由だ!」
「……私も…行ってみたいな……。」
「……。」


見知らぬ島。
わくわくするような冒険。
私だって行ってみたい、体験したい。

けど、きっとそれは実現しない。
私の生きる場所は、この島だけなのだから。

もっとお話を聞かせてください。なんて笑いかければ……。
エドワードさんは仕方無さそうに笑ってくれた。










出逢い 中編










エドワードさんの冒険話に思いを馳せていれば……。
プルプルプル、と電伝虫の呼び出し音。
話の途中だったが、エドワードさんが少し表情を引き締めてそれを手に取った。


「……俺だ。」
『よぅ、ニューゲート!機嫌はどうだ?』
「グラララ…。てめぇに心配されるほどヤワじゃねぇよ。」


電話の相手はエドワードさんのお仲間さん。
この子電伝虫は私がエドワードさんに渡したものだ。
いくらビブルカードを持っていても仲間と連絡が取れた方が安心だろうと思ったから……。


『それもそうか!…で、本題だ。お前がいる島に明日の昼前には着く。』
「……そうか。」
「……。」


お仲間さんの言葉に、小さく息を吐いた。
……そろそろだとは思ってたんだ。


『ただ、その島やたらと海軍の見回り船が多いみたいでな。……悪いが、着いたらすぐに出港した方がいいだろう。のんびりしてる暇はねぇ。』
「……わかった。」
『……世話になった嬢ちゃんがいるんだろ?ちゃんと別れは言っとけよ、船長。』
「うるせぇよ、余計なお世話だあほんだら。」


からかうようなお仲間さんの言葉にエドワードさんがくつりと笑った。

……楽しい時間はもう終わり。

明日の昼には……エドワードさんは行ってしまうのか。
酷く、寂しい気持ちでいっぱいになる。
明日から、ここにきてもエドワードさんはいない。
もう楽しい冒険話を聞けなくなる。

……いや、そうじゃない。

話が聞けなくなる事も寂しいが何より……
エドワードさんと会えなくなることが、とても……。


「ナマエ。」
「え、あ、はい。」
「聞いた通りだ。俺ぁ明日この島を出る。」


ズキリ。胸が、痛む。
いつの間にか通話を切っていたらしいエドワードさんが私へと振り向いた。



「お前には随分世話になった。」
「……いいえ、私は何も…。」
「隠れる場所を貰った、飯やら何やら必要なモン全部用意して貰った。これを世話になったと言わずなんて言うんだ。……ありがとよ。」
「……困ってる人を助けるのは当たり前ですから。」
「海賊相手でもか?」
「……ふふ、エドワードさんだから、だったのかもしれません。」


クスクスと笑えば、エドワードさんも口の端を釣り上げて笑った。

リンゴーン、と夕方の時刻を告げる鐘が鳴る。
……私の、自由時間終了の合図。


「時間か。」
「そうみたいです。……明日、お見送りに来ますね。」
「……。」
「今まで、楽しいお話ありがとうございました。……絶対、来ますから。」
「……嗚呼、待ってるぜ。」


穏やかな表情で笑ったエドワードさんに私も笑いかけて、屋敷へと向かう。

……エドワードさんに、何か贈り物を出来ないだろうか?
あぁ、でも邪魔になっちゃうかもしれないなぁ。

なんて考えながら歩いていれば……屋敷の門で、異変。
そこにいたのは、焦った顔をした両親と……海兵の姿。


ジワリと、感じた嫌な予感。


「ナマエ!!」
「……どうされたのですか、お父様。」
「お前……っ海賊を匿っているとは本当か!?」
「……誰がそんなことを?」
「街の人間から通報がありまして。……貴女が海賊と共に浜辺を歩いているのを見た、と。」


そう言えば昨日、小屋に篭ってばかりだと気が滅入るだろうとエドワードさんと浜辺を歩いたんだった。
見られていたのか、と内心溜息を吐いた。


「……その方の見間違いでは?身に覚えがありません。」
「……残念ながら、証拠ならあるのです。」


ペラリと、海兵が取り出したのは一枚の写真。
そこには……浜辺を歩く私とエドワードさんの姿。

バシン、と。
頬に鋭い衝撃。

あぁ頬を打たれたのかと理解するのに時間はかからなかった。
倒れ込み、見上げた先には……まるで仇を見るかのように睨みつけてくる父親の姿。


「貴様……っ育ててもらった恩を忘れて、海賊なんぞを匿いおって!!」
「……。」
「ナマエさん、でしたね。海賊の居場所を教えて頂けませんか?」


真っ直ぐな視線で覗き込んでくる海兵。
そんな海兵の目を強く見据え、口を閉ざす。
喋らないという意を表せば、小さく息を吐いた。


「……随分と強情なお嬢様ですな。」
「話して頂けるまでお嬢様の身柄をお預かりしても?」
「そ、それはどうかご勘弁を!変な噂は立てられたくない!せめてうちの屋敷に空いている部屋がありますのでそちらをお使いください!」
「では遠慮なく。さあ、行きましょうか。ナマエお嬢様。」
「……。」


空を見上げれば、オレンジ色に染まった雲が見えた。
夕焼け空が藍色に染まり、暗い夜がやってくる。
そうして日が明け、太陽が真上に登り切る前に……エドワードさんはこの島から旅立つのだろう。

なら……それまで私は何も話さない。
何も喋らない。


ごめんなさい、エドワードさん。
お見送り、行けなくなっちゃいました。


心の中でエドワードさんに向けて謝る。
最後に、あの優しい笑顔を見たかったなぁ、なんて。
ほんの少しだけ、泣きたくなった。















(あれ?船長どうしたんだ?)
(お前らには先に言っておこうと思ってな。)
(?何だ?)
(こっちに来るまでに、俺の部屋と隣の部屋の壁ブチ抜いておけ。掃除もな。)
(は?隣って空き部屋だろ?何でそんな……。)
(一人、乗員が増える。)
(え?どう言う……。あ、あー……そういうこと。)
(そういうことだ。)
(船長?その子には…ちゃんと言ってんだろうな?)
(言ってるわけねぇだろう。)
(おいおい……。)
(俺ぁ海賊だぜ?)

欲しいモンは奪うだけだ。


出逢い 中編 END
2015/04/18


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ゆめうつつ