03



青い空に白い雲。
周りが廃墟なのを除けば絶好のロケーション。


「マルコ〜!こっちおいで、虹がでてるよ!」
「よい!」


現在。
子供マルコと家族になって、7か月目突入です。










03










マルコと出会ってから数日間。
家も見つからず、私たちは野宿を繰り返した。
「家を見つける!」なんて豪語しておきながら情けない……なんて肩を落とせば。
「ナマエがいてくれるからいいよい。」と、マルコは笑ってくれた。
……その笑顔に何度救われたことだろうか。

このマルコがあのマルコになるなんて……。
人間って本当に不思議だ。

で、もちろん食べ物も簡単に見つかる筈もなく。
森で果物をとったり、海で魚を捕まえたり。
兎が罠にかかったときは手を取り合って喜んだ。
がれきの下敷きになっていたボロ布にくるまって眠り。
雨の日は洞窟などで凌いだ。

寒いからと抱きしめれば、マルコは恥ずかしそうにしながらも引っ付いて眠ってた。
マルコは温かくて、寝顔がすごくあどけなくて可愛くて……
2人で居ることが、とても嬉しかった。


それからまた数日。
瓦礫ばかりの場所で、初めてマルコ以外の人間に出会った。


どうやらこの場所は島の一部分でしかなく……。
この反対側には町があるのだとか。
……まぁ、治安は最低でスラムのような場所らしいけれど。

一応、私はHHの時と同じ力を持っているらしい。
それどころか念能力も問題なく使えるようだ。

どんなスラム街と言えど、何もない廃墟よりマシだろう、と。
私はマルコを連れてそちらへと移動したのだ。
疲れてしまうからとマルコを抱き上げて、森を突っ切る。
そうすれば、見えてきたのは荒れた街並み。

……スラム街というのはあながち間違いではないらしい。

街へ下りれば喧噪だらけ。
危なそうな眼をした男達や、色に香る女たちが男を誘う。
無論、そのスラム街の中でもマシな場所と荒れた場所があるらしいけれど。
まともな人間などほぼいない。

正直、マルコをその中に置こうとは思えなかった。

その町のはずれに一軒の家を見つけて。
誰も居ないのかと覗き込めば……亡骸を見つけてしまった。
誰にも看取られず、亡くなったのだろう。
その亡骸は家の近くへと墓を作り、手厚く弔った。
……これから家を使わせていただきます、と一言添えて。


それから、私とマルコの生活が始まった。


家に必要であろうものは廃棄されたものを見つけ、念を使って修復した。

―――……私の念能力は「特質系」だ。

「絶対服従命令(スペルマジック)」
声に出した言葉を実現させる能力。
必ず声に出さなければならないことと、「絶対服従命令」と最初に言わなければならないのが難点だけれど。
制約はほとんどない。

これもトリップ者ゆえのメリットなのだろう。

家具の類は廃棄されたものを『修復』させて事なきを得た。
でも……問題はその他のもの。
服だとか食料。
こればかりは捨てられたものを使う訳にもいかず……。


マルコが眠ったのを見計らって街へ繰り出す。


食料などの必要な物はスラム街で手に入れることにした。
……盗み、という方法で。
悪いと言う気持ちも、罪を犯すことに抵抗もある。
けれど、生き延びる為なのだ。

道行く人たちから金をスリ。
それで買い物をしたり……拾ったカバンに食料を詰め込んだり。
もちろん、誰にも気づかれることはない。
常人には見えぬスピードなのだから。
(万歳、でたらめな私の身体能力よ。)

たくさんの食料を詰め込んで、マルコの元へと返る。
すやすやと眠るマルコを確認して……。
あの子が起きる前に食事の準備を始めた。

……朝食を見たときのマルコの顔は一生忘れない。

キラキラと目を輝かせて。
何度も「これたべていいの!?」と私に確認して。
パクリ、と口へ運べば……満面の笑み。
そんなマルコを見て、自然と笑みが浮かんでしまうのはしょうがない。





そんな生活を初めて7か月。
冒頭の部分に戻るのだ。





初めは少しばかり他人行儀だったマルコだけど……。
今では気を許してくれていると思う。
「お姉ちゃん」とは呼んでくれないけれど(笑)


「ナマエっ、どこ?」
「ここ、ここ!裏にいるよー!」


わかったよい!と、返事が来てひょっこりと家の角から顔を出したのはマルコ。

……初めてであったころと違って、今は頬に赤みが戻り、ふっくらとしていて。
ぼさぼさだった金色の髪もちゃんと切りそろえ、艶が戻っている。
切り傷や痣だらけだった肌も、今では綺麗になおってきていて、痩せこけていた身体も子供本来の肉付きに。
服もちゃんと体に合ったものを着せているから、動きやすそうだ。

ぱたぱたと走り寄ってくるマルコの手にはカップ。


「これ!もってきたよい!」
「これって……ココア?」
「おれがいれてきたんだよいっ!」
「わ、すごい!……一人でココア入れたんだねぇ、偉いねマルコ!」


褒められたことが嬉しいのか、マルコは心底嬉しそうに笑った。

でも、なんて言うか……。
大人のマルコは原作を読んでいても解ったけれど。
子供のマルコも相当大人しい。
……いや、大人の様に落ち着いているのだ。
きっと、もともと頭の良い子なのだろう。
この年で、この年なりに周りを冷静に見る目を持っている。
(今までの周りの環境の所為もあるだろうけれど)

ココアを口に運べば、ちょっぴり薄くて。
そんなことも気にせず、マルコは目の前にできた虹を見てキラキラと眼を輝かせていた。


「……ねぇ、マルコ。欲しいものとかないのかな?」
「ほしいもの?……ないよい。」
「本当に?なぁんにも?」


我儘なんて全然言わないし、慕ってくれているのが解るからとても可愛いのだけれど。
……たまにはもっと甘えてほしいとも思う。
理由?そんなの決まってる。
私がもっと甘やかしたいから。
(今までの事を考えれば、この子にはそれだけの権利がある。)

本当に欲しいものは何もないの?と尋ねる私に、マルコは笑った。


「いえもごはんもあるし……ナマエがいるから。」


欲しいものは全部持ってるよい。

無邪気な子供の笑顔。
ソレを見て嬉しいと思うと同時に……悲しかった。
それほどまでにマルコは寂しい思いをしていたということだから。


「マールコ。」
「よい?」
「大好きだよ。私はマルコが大好き!」


ほのかに赤くなる、柔らかそうなほっぺた。
嗚呼、どうしてこんなに可愛いんだろうか?
マルコはデレながらも、まっすぐに私を見て……答えてくれた。


「おれも、ナマエのことすきだよい!」


……ほんとに、なんでこんなに可愛いの?















(空は快晴。)
(カラッと晴れた風は優しく)
(足元に抱きついてきたのは可愛い子)

(嗚呼)

(それはなんと幸せなことだろうか。)


03 END

―――――
「絶対服従命令(スペルマジック)」
・「絶対服従命令」と最初に言わなければならない。
・必ず「声」に出さなければならない。
・能力の威力に応じて一定の時間「声」を失うことがある。
―――――



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ゆめうつつ