04



「ナマエっ、これは?」
「これはこうだねー。」
「ん〜……できたよいっ!」
「あはは!すごいねマルコ!」


にしし、と満面の笑みを浮かべるマルコの手には……文字の書かれた紙。
正真正銘、マルコが書いた字だ。


「わぁ!上手!」
「えへへー…。ほめられたよいっ!」


テレテレ、と照れて顔を赤くさせたマルコ超可愛い。
マルコが字を習いたいと言い始めて三日。

……三日で文字マスターとかどんだけ頭良いんだこの子。










04










「ていうか……本当にすごいねマルコ。」
「よいっ!」


にへっと笑った顔はどこか自慢げだ。
いや、でも本当にすごいんだって。
三日で文字をマスターしたと思ったら、簡単な絵本ならもう読めてる。
……どうしよう、うちの子本当に頭良いわ。(親馬鹿)

基本的に、OPの世界の文字は「現代」でいう英語だ。
(完璧英語ばかりじゃなく、日本語も混在してるみたいだけど。)
学生の頃、英語のテストにて一桁をとった私。
えぇ英語なんて大嫌いですとも、日本人なら日本語さえできりゃいいんだよとさえ思っている。

ところがどっこい。

OPの世界にトリップして……気が付けば英語がスラスラとできるようになっていたのだ。
(これがこの世界におけるトリップ特典とでもいうのだろうか。)
まぁ、おかげでマルコの勉強も見てあげられるし万々歳なんですけどね。


「おれ、このおはなしすきだよい!」
「んん?……嘘つきノーランドかぁ。」


マルコに与えた絵本のうち、キラキラした瞳で持ち上げたのは……「嘘つきノーランド」
そう、ルフィ達の冒険が空島に繋がる切欠のお話だ。
でも、童話としてのノーランドの話は……事実を知る者としては悲しいものだ。


「マルコは、ノーランドが嘘つきだと思う?」
「ノーランドはうそつきじゃないよい!うみにはいっぱいいっぱいたからものがしずんでるんだよい!」


にしし、笑って見せるその姿は天使そのものゲフンゴホン。
……どうやらマルコはノーランドの話を信じているらしい。
そりゃそうだ。
海に沈んだという方が夢もロマンもあるのだから。


「そっかそっかぁ。でも、宝物は本当に海にあるのかな?」
「よい?」
「もしかすると、宝物だけ見えなくなっちゃったのかもしれない。もしかすると、大きな虎が食べちゃったのかもしれない。もしかすると……空にあるのかもしれない。」
「おそら?」
「ふふっ。空にはね、浮いてる島があるんだよ。」


マルコが眼をキラキラと輝かせ始める。

マルコは、知識欲がスゴイ。
子供の内はなんでも知りたがるものだけれど……大抵飽きたり途中で興味を無くすものだと思う。
けれど、マルコはどんなものでも知りたがった。
自分に関係のないモノでも、気になればとことん私に聞いてくる。
納得できなければ、すこし拗ねたような表情になるのでこちらとしても必死だ。
……その傾向は本を与えてからもっと強くなったかもしれない。


「おそらにしまがあるのよい!?」
「あはは!そうだよ、“空島”っていうの。」


ほー……っ!
と、目をキラキラさせる。
“いってみたいよい!”とニコニコ話すマルコの頭を軽く撫でた。


「……海へ出ればいつかは行けるかもね。」
「うみに……?」
「そう、海に。」


マルコのお気に入りである甘いミルクココアを入れて。
コトリ、と目の前に置けば幸せそうにそれを飲むマルコ。
そんなマルコを眺めつつ、私は微笑みながら言葉を放つ。


「海にはね、マルコの知らないことがたくさんあるよ。」
「しらないこと……。」
「空に浮かぶ島や、海の中にある人魚たちの楽園。」
「にんぎょ!」
「まん丸い虹に、島よりも大きな亀。不思議で面白い事がたーくさん。」
「ナマエはみたことあるのよい?」
「あはは、残念ながら私も話で聞いただけだからね。」


自分の目で見たことはないなぁ、と呟けば……。
ふと考える仕草をしたマルコ。


「……なら…。」
「ん?」
「おれが!ナマエをうみにつれてくよい!」


名案だ!と言わんばかりにパッと顔を輝かせたマルコ。
思わずキョトンとしていれば、マルコが私の膝へとよじ登ってくる。
興奮しているのか、そのまぁるいほっぺはほのかにピンク色だ。


「おれが、ナマエをおそらのしまにつれてくよい!」
「ふふ…マルコが連れてってくれるんだ?」
「よい!にんぎょのところにもいって、まぁるいにじもいっしょにみるよい!」


おれが!ナマエにみせてあげるよい!
と、ぎゅうと抱きついてきた小さな体。

嗚呼、もう、本当に。


「〜〜〜っマルコ可愛いぃいいい!!」
「よいっ!?」
「もう可愛過ぎるからギューの刑だぁああ!!」


小さな体をぎゅーと抱きしめれば、驚いたような顔をしたけれど……。
次いで見えるのは満面の照れた笑み。

可愛い可愛いマルコ。
私の愛しい弟で、息子で、家族。

ねぇ、貴方はきっと将来海に出る。
偉大な“父”と出会って、その傍らにて海を見て回るのだろう。

いつかは離れてしまうのだとわかっていても……。

せめて、今だけは私がマルコを守りたい。
守らせて欲しい。


「よし!マルコ!」
「?」
「明日、本屋さんにいこうか!」


にっこりと笑って告げれば、嬉しそうにはにかむ顔。

君が大人になるまでは。
君の傍にいさせてください。

互いに額を当てて、くすくすと笑いあう。
幸せな、時間。















(明日から、マルコに修行をつけよう。)
(この子が強くなるように。)
(誰にも負けてしまわない様に。)
(将来の“父”を……。)
(たくさんの大切な家族を守れるように。)
(多くできる兄弟たち誰一人として)
(その手から零れ落ちてしまわない様に。)

(何より)
(自分自身を守れるように)

(この子を強く育てよう)


04 END


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ゆめうつつ