しあわせ


今日は快晴。
先日の嵐が嘘のように晴れ渡る。
本当にグランドラインの気候は気紛れだ。

だからこそ面白いんだけどな、と。
マルコは白ひげに見せる書類を片手にあの大きな人間を探していた。
部屋にはおらず、船医室にもいなかった。

ナースへと問いかければ、珍しくも甲板で“遊んで”いるのだと言う。

親父が遊ぶなんざ珍しいなぁ、と甲板への扉へ手をかけた。
ギィ、と少し古びた音を立てて開いた扉の先には、真っ青な空。
さて、目的の人物は何処だとあたりを見廻したところで、奇妙な集団に気が付いた。
数人の船員と……あれはサッチとハルタだろうか。

マストの陰からこそこそと何かを覗き見しているようで。

その光景こそ何やらとてもシュール。
天下の白ひげ海賊団の船員と隊長格が二人も何やってるんだと。

ため息を一つ吐いて、そちらへと近づいた。










しあわせ










「何やってるんだよい。」


何かを夢中で見ている仲間たちへと声を掛ける。
数人が振り返り、マルコの姿を確認して誤魔化す様にえへへと笑った。

サッチはサッチでその“何か”から視線を外そうとしないし。
(振り向きもしない。)
ハルタはハルタで、マルコの姿を見てにんまりと笑った。


「いや、僕たち今すっごく和んじゃって。」
「は?」
「あれ、見てみなよ。」


そう言って、何処か嬉しそうに笑ったハルタが指さす先。
それはもちろん、サッチが凝視している者なのだろう。
下からサッチ、ハルタ、その上からひょっこりと顔を出す様にマルコがその先を見やれば……。

そこにいたのは、船べりにて釣り糸を垂らす白ひげの姿。
その傍らには見慣れたナマエの姿もあった。

あぁ、こんなところにいたのかと。
マルコが白ひげの所へ歩み寄ろうとした時だった。
その耳に聞こえてきたのは、二人の会話。





「まぁ……あなた、海兎ですよ。」
「ん?どこだ?」
「ほら、あそこに。」
「ほぉ、この海域にでるなんざ珍しいじゃねぇか。」
「あら、あっちにもたくさん。」
「グラララ、跳ねてやがるなぁ。」
「ふふっ、可愛らしいですねぇ。」





そんな会話が聞こえてきて。
思わず、「そんな会話をしてる親父とおふくろが可愛いよい。」なんて思ってしまったのは不可抗力だろう。

のんびりと、幸せそうに釣りをしながらおしゃべりを楽しむこの船の両親。
そんな姿に、思わず目じりを下げてしまったのはマルコだけではないらしい。


「……親父もおふくろも楽しそうだねい。」
「あはは!親父が釣りするのも久しぶりだもんねぇ!」
「成果はあったのかよい?」
「聞いてよ、それが今の所小魚一匹だけでさ!」


それもこーんなちっちゃいの。
なんてハルタが片手で示したサイズはマルコの掌も無くて。
口元を抑え、ぶはっ、と噴出してしまったのは仕方ない。


「それにしても、随分とサッチが大人しいねい。」
「あー……まぁ、うん。」


ハルタの煮え切らない返事。
苦笑を浮かべたその顔に首を傾げれば……。

ゆっくりと、振り返ったサッチ。

その表情は……戦闘でも見たことが無い程、酷く真剣で。


「マルコ……大変だ。」
「なんだよい?」
「どうしよう超和むんだけど。うちの親たちって天使か何かだっけ?」
「真顔で言うことかよい。」


サッチの言うとおり。
あの二人がのほほんと会話をしている姿はすごく和む。
そりゃあもうこちらまでほんわりしてしまいそうなほどには和む。
だがそこまで真剣な顔をして言うほどの事でもない。

嗚呼、サッチはこの船でも有数の両親大好きっ子だったな。
なんて少しばかり遠い眼をしたマルコ。

この船の人間は基本的に親父とおふくろが大好きだ。

しかし、その中でも群を抜いている人間が数人いることも事実。
その一人がこのサッチなのである。
はぁ、と呆れたような溜息をついているマルコだが、彼もその内の一人だ。
(彼にその自覚はないようだが。)


「皆で固まって何やってんだ?」
「エース……。」


先ほどのマルコと同じように、マストの陰から何かを覗くおっさんたち、という光景が気になったのだろう。
不思議そうな顔をしたエースが声をかけてきた。
そんなエースににんまりと笑い、手招きをしたのはもちろんハルタ。


「エース!こっちおいでよ!」
「何かあるのか?」
「悪い事はいわねぇ、あっち見てみろよ、ちょー和むから。」
「んん?」


今度はサッチが指さして。
エースが素直にそちらへと視線を向ければ……。

しばしの間、固まったようにそれを眺め続け。

ゆっくりと、視線をこちらに戻す。
その表情は先ほどのサッチとまったく同じで。


「……なにあれ親父達って天使だっけ?」
「お前もかよい。」


酷く真剣な真顔でそう言ってきたエースに、つっこむマルコ。
気持ちは解る。
痛い程に解る。
嗚呼、こいつも相当な両親大好きっ子だったとそれは深い深い溜息。


「はぁ……もう俺は行くよい、いい加減親父に報告しねぇと……。」
「は!?お前ひとりあの和み空間に行く気!?ずるいんですけど!?」
「ありえねぇ!!抜け駆け禁止!!」
「ちょっとストップストップ!マルコ取り押さえて!!」
「だぁああ!離せよい!!」


がっちりと、マルコの四肢を掴んで引き留める兄弟たち。
あり得ない本気の力に、マルコの額に青筋が浮かぶのも時間の問題で。


「いい加減にしろよい!俺には報告する義務がある!!」
「ふざけんな!お前ひとりであの和み空間に行こうったってそうはいかねぇからな!」
「そうだよ!マルコだけズルイでしょーっ!?」
「絶対行かせねぇ……っ!!」
「はーなーせーよいっ!!」
「「「いーやーだっ!!」」」


わーわーぎゃいぎゃい。
ぎりぎりと均衡する力で押し合う隊長達に、あわあわと戸惑いながらもサッチ達を応援する船員たち。

青い空
白い雲
騒がしい甲板

今日も今日とて、幸せな喧噪で囲まれたモビー・ディック。
ゆらゆらと笑っているような気がした。















(何してやがるんだ?あいつ等……。)
(あらまぁ、みんなで集まって楽しそうですねぇ。)
(グラララ!仲が良いに越したことはねぇか!)
(ふふっ、何のお話をしてるのかしら?)
(お前の事かもしれねぇなぁ?)
(まぁ、あなたのお話かもしれませんよ?)

くすくすと笑いあう親二人。


しあわせ END
2015/04/26



[*前] | [次#]
back


ゆめうつつ