17


今日は、すごく気分が良かった。

マルコが職場のカフェに遊びにきてくれたし。
しかも晩御飯を作ってくれるなんて。

るんるん気分で帰宅する。

そりゃあもう楽しみでしたとも。
マルコってば何気に料理上手くなっちゃったし。
晩御飯の用意しなくて済むラッキーなんて、ちょっとばかり駄目発言。


「ただーいまーっ!!」


軽快にドアを開け放った私の目に飛び込んできたのは……。

一羽の、青い、鳥。


「……。」
「……。」


……あれ?おかしいな。
ここって私の家だよね?
マルコと私の家だよね?

なんでマルコと私の家に人間の子供サイズのドでかい鳥がいるんですか。

眼を見開いた私に対し。
青い鳥もまるで驚いたように目を丸くさせているような気がして。

え?ん?ちょっとまって。
よくよく見てみたらこの鳥……。

燃えてない?

なんか青い羽根だと思ってたんだけど、これって青い炎なんじゃ……。
え、青い炎で燃える鳥?
なんで生きてんの?
青い炎って確か赤い炎より高温なんじゃ……。


……待って。


いやもうごめん。
何度も言ってるけど、ちょっと待って。

え、人間の子供サイズの青い鳥?
しかも青い炎を纏ってて?
……目元には黄色い模様?
………まるで、尻尾は不死鳥みたいな……


不死、鳥……?


え、嘘、まさか。


「……マルコ?」
「……っナマエ!!」


ピィ!!と。
突進してきた青い鳥からは、私の可愛い可愛いマルコの声。
その勢いのままに押し倒されて、私は床に倒れ込んだ。

私の上ではピィピィと鳴く……いや、泣くマルコ。


「あー……何がどうなって、そうなったのかな?」
「……っおれ!チンピラ、から!く、果物……っあ、悪魔の実、で……っ!」


酷く困惑しているのだろう、ぐすぐすとマルコの泣き声。
……マルコが泣くなんて何年振りだろうなぁ……。
少しでも落ち着けるようにポンポンと背中を撫でてやれば、その嗚咽は少しだけ小さくなった。

嗚呼、それにしても……。
まさか、こんなに早い段階でマルコが“悪魔の実”を口にしていたなんて。


「……完璧、予想外だわ。」










17










「なるほど。チンピラさんが悪魔の実を持ってたわけね。」
「どっかで、見た事、あると、思ってて……っ!」
「……それが、本屋の悪魔の実図鑑だったってことか……。」
「う、ん。」


今現在。
私の目の前でしょぼくれた様子で話をしてくれているのは……鳥の姿のマルコ。
どうやらマルコが口にしたのは原作通りの悪魔の実だったようで。

動物系・幻獣種、“不死鳥”

……いつかは口にするんだろうなとは思ってたんだけど、まさかこんな早い段階だったとは。
ハァ、と息を吐けばビクリと揺れた鳥の身体。

……悪魔の実を口にしたばかりだから、能力の制御が上手くできないらしい。
人の姿に戻る戻り方が解らないと、マルコは先ほどから嘆いてばかりだ。


「大丈夫だよマルコ。練習すればきっと自由に鳥にも人間にもなれるようになるから。」
「……で、も……。」
「ん?」
「……ナマエ……こんな、俺…気持ち、悪くないのかよい……?」


不安そうに私をチラリと見上げたマルコの眼は真っ赤に腫れていて。
私が帰ってくるまで不安で仕方なかったのだろう。
……いや、きっと、今も。


「気持ち悪いわけないじゃない。」
「で、でも……おれ、元に戻れない……。」
「だから、練習すればきっと大丈夫だよ。」
「……こんな、燃えてる鳥なんて……。」
「これ不死鳥でしょ?この炎熱くないし……すごく綺麗だし格好良いと思う!」
「……ほんと、に?」
「本当だよ。」


よしよし、と。
優しく撫でてやれば、その表情が少し和らいだような気がした。
(何せ鳥だからよく解らない。)

それでも、まだ不安をぬぐい切れてなさそうなマルコに軽く苦笑。


「ねぇマルコ。」
「?」
「もし、その実を食べたのが私だったら……マルコは気持ち悪いとか思う?」
「思わない!ナマエはナマエだよい!」
「ほらね。何を食べようと何に変身しようと、私は私。マルコはマルコ。……でしょ?」
「あ……。」


キョトン。
そんな表情が読み取れて、思わず苦笑しながらもマルコの頭を撫でる。
さて。マルコはマルコだよと言ったところで、ずーっと不死鳥の姿のまま居る訳にもいかないよね。


「それにしても……どうやったら良いのかなぁ…。」
「……さっきから人間に戻れって思ってるけど効果無しだよい。」
「うーん。念じるだけじゃダメなのか……。」


流石に、悪魔の実なんて食べた事ないから力の使い方がわからない。
こればっかりは私が悪魔の実を食べて実践するわけにもいかないしなぁ…。

……誰か同じ動物系の悪魔の実の能力者を探して協力を仰ぐか?
いやいや、マルコの幻獣種はかなり珍しいって原作で言ってた。
下手すれば捕えられてヒューマンショップで売られちゃうかもしれない。
(絶対そんなことさせないけど。)
できれば自力で力をコントロールできるようになれば一番良いんだけど……。

……ん?コントロール?


「……。」
「ナマエ?どうしたんだよい?」
「マルコ……。私の力って知ってる?」
「うん。“絶対服従命令”だろい?」
「そう。それって、私の世界じゃ“念能力”って言われてるんだけどね。」


簡単に言えば、人間の身体にある念をコントロールして能力を発動させる。
悪魔の実の能力って……そんな感じでコントロールするんじゃないのだろうか?
いや、そりゃあ、種類とかにもよるんだろうけど。


「マルコ、私との修行で“気”を落ちつかせたりする修行あったでしょ?」
「よい。」
「そんな感じで一度落ち着いてみたら?……心を落ち着かせて、体中を“気”が巡ってる感覚を思い出して。」
「や、やってみるよい。」


もちろん、それで完璧にコントロールできるとは思わない。
けれど、何かしらの切欠にはなるかもしれないし。
……他に方法も思いつかないんだもの。

マルコが静かに目を閉じる。
部屋の中が静寂に満ちて……スッと静かな空間が訪れる。
マルコが上手く“気”を落ち着かせている証拠なのだろう。
それから少し経てば……

ボボッ、と音を立てた青い炎。


「あ。」
「んん?」


美しい青い炎は見る見るうちに引いて行き……。
そこから現れたのは、マルコの身体。

あっという間に、人の姿に戻れたマルコ。

キョトンとした顔は自分の手をじっと見つめていて。
ハッと気付いたように私へと飛びかかってきた。


「戻れた!!人間に戻れたよいっ!!」
「あはは!よかったねぇマルコ!」


じわりと涙を浮かべたまますり寄ってくる可愛い子の頭を撫でる。

駄目元だったけど本当に良かった。
まぁ、完璧にコントロールできているわけではないようで。
時折、その身体からボボッと青い炎が上がっている。
(そのたびビクッってなるマルコも可愛いんだけどね。)


「もっと修行して、ちゃんとコントロールできるようにならないとね。」
「うん……。俺、頑張るよい。」
「よーし、その意気だっ!私も協力するからね!」
「よいっ!」


にしし、と笑うマルコの表情はもういつもと変わりなくて。
ホッと安堵の息を吐いた。

さて、これからは更に大変になるだろうなぁ。
能力の制御を覚えつつ、それに見合った戦い方を会得しなきゃならないし。
マルコは元々蹴り技が得意だったから……原作のように腕を翼に変えて蹴り技での戦い方が良いだろう。


「じゃあさっそく、能力の制御を覚えるために修行しますか?」
「うんっ!」


元気よく返事をしたマルコに、にへりと表情を緩めた時だった。
ぐぅ、と鳴り響いたのは私のお腹で。


「あ。」
「……。」


キョトンとした表情で私を見やるマルコ。
うわ、恥ずかしい。

えへへと苦笑を浮かべながらお腹を押さえれば、マルコが笑う。


「修行の前に飯だねい。」
「あはは……なんかごめんね。」
「いいよい、俺も腹へったし!」


一緒に作ろう!
そう言ってキッチンへと小走りで進み始めたマルコの後に続く。
そんなマルコの背中を見て、ふと思う。


マルコは……本当に大きくなった。


私のお腹くらいまでだった身長は、もうほとんど私と変わらないくらいまで高くなって。
細かった体は、しっかりと筋肉がついてきてるし。
幼かった顔つきも、もう大人のものへと変化して。
可愛らしかった手は少し骨ばってきている……。

「少年」から「青年」へと成長する変わり目。

……そうだよね。
マルコと出会ってもう7年。
マルコだって大きくなるし……私だって歳をとるわけだ。

そんなことを考えていれば……。



ビシリ



「え?」
「んん?」


突然聞こえた、ひびが……亀裂が入るような音。
マルコにも聞こえたようで、二人で顔を見合わせた。


「……今何か聞こえたよね?」
「どっかにひびが入るような音だったよい。……ビシッって。」
「……家にひびが入った?」
「まさか……どこにもヒビなんて入ってないよい。」


うーん?と二人で首をひねる。
特に食器や家具にひびが入っているようでも無いし……。
家の壁に亀裂も見当たらない。

でも……なんだろう。

胸が、ざわざわするような……。


「ナマエ?」
「え、あ、なぁに?」
「大丈夫かよい?ボーっとして……。」
「平気平気!……どこにも異常がないみたいだし、ご飯作っちゃおうか!」
「ん。」


にへり、と笑ってキッチンを目指す。


その時、私は知らなかったのだ。
この家の頭上に……。

夕焼けで赤く染まった“空”に。

ビシリと、亀裂が走っていたことなんて。

突如あらわれたその“亀裂”が……。
まるで何かの前兆だと言うように現れた“亀裂”が。

数秒後、うっすらと夕闇の空に消えて行ったなんて。


……私たちは知る由もなかったのだ。















(彼らの前に現れた微かな前兆)
(例えそれに気付き)
(どうあがこうとも)
(彼らの運命は決まっていたのだ)


17 END
2015/05/08


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ゆめうつつ