05
「ん。丁度良い湯加減だなぁ。」
一日の締めであるお風呂。
やっぱりこの世界に来てもお風呂は欠かせなくて。
しかもだんだんと夜が肌寒くなり始めたこの季節。
温かいお風呂はとってもしみます。
「あ、そうだ。」
ふと思いついたのは可愛い子のこと。
マルコとは今まで別々にお風呂に入っていた。
だって、マルコが一人で入れるって言い切るもんだから……。
でも、ねぇ?
「マルコー!」
「なんだ?」
「一緒にお風呂はいろうか!」
「!」
たまには良いじゃないかと思って声を掛ければ……。
コクコクと頷いた表情は、とても嬉しそうだった。
05
この家のお風呂はそんなに大きくはない。
家の持ち主が一人暮らしだったということもあるのだろう。
マルコが6歳になったとはいえ、二人で入るには十分な広さで。
「マルコ、髪の毛洗える?」
「うん。ぜんぶ一人でできるよい!」
「あはは!すごいねぇマルコ。」
「へへっ。」
簡単に体を洗い、湯船へと体を沈める私とマルコ。
……やっぱりマルコは子供なんだなぁとしみじみ思う。
まぁ今までの環境のせいもあるかもしれないけれど、6歳児って小さい。
「よく温まったら、髪の毛洗ってあげるね。」
「おれ一人でできる!」
「私がマルコの髪の毛洗いたいの。……駄目?」
「だめ……じゃ、ないよい。」
「ふふ、ありがとう。」
じゃあ、奏の髪の毛はおれが洗うよい!
と気合十分なマルコ。
本当に可愛いなぁ。
浴槽に背中を預けて、のんびりとしていれば……。
ふと、寄り添ってくるマルコに気付いた。
マルコは小さいから、私の膝の上に座ってたんだけど……。
ぽすり、と私の胸に頭を預けてくる。
「……だれかとおふろに入るのはじめてだよい。」
「おじいさんとは入ったことないの?」
「赤ん坊の時はいれてくれたらしいけど……。ずっと一人で入ってたから。」
「そうなんだ。」
ぽちゃん、と天井からの雫が湯船に落ちる。
のんびりと静かな時間。
暑すぎないその温度はマルコにとっても丁度良いのだろう。
「……ナマエってやわらかいよい。」
「え……あー、そう?」
「うん、やわらかくてあったかい……。」
そりゃ、マルコが頭置いてるのは私の胸ですからね。
なんて野暮なことは言わない。
だってマルコの幸せそうに笑う顔が本当に可愛いから。
はー…と、気持ちよさそうに緩んだ顔を見て……ほんのちょっと芽生えた悪戯心。
「……マルコ。」
「?なぁに……ぶっ!!」
「あはは!!ひっかかった!」
お湯の中で作ったのは手の水鉄砲。
手を組んで、マルコの目の前で発射すれば、それはもう見事にストライク。
余程驚いたのか、慌てて立ち上がって顔を拭うマルコの眼は白黒している。
「な、なにするんだよい!!」
「水鉄砲。おりゃ!!」
「わぶっ!!やーめーろーよーい!!」
「わはははは!悔しければ反撃してみろー!」
ピシュピシュとお湯を飛ばせば、マルコの顔や体に命中。
マルコも真似して水鉄砲を飛ばそうとするが、そんな小さな手じゃできるわけもなく。
「う〜〜〜っりゃあ!!」
「うわっ!!」
マルコがでた最終手段は、両手でそのままバシャリと私にぶっかけるやり方で。
流石にこれは諸に顔面にかぶってしまった。
「げほっ!や、やったな!」
「へへっ、ナマエがやってきたんだよいっ!」
「えぇい負けないぞー!おりゃ!くすぐり攻撃だーっ!」
「わ…っうはははははは!!やめ…っナマエくすぐったぃきゃはははは!!」
「どうだー!まいったかー!」
「ま、けない!!はんげきだよいっ!!」
「え?あ、ちょ、きゃはははは!!」
「どうだよい!こうさんするかーっ!?」
「ま、まいりましたーっ、降参するからやめてーっ!」
最終的にはくすぐりあって笑いあう。
タオルで空気を包んで湯船でぶくぶく泡立たせたり。
泳ぐの得意なんだよい!と湯船に潜ろうとするマルコを慌てて止めたり。
マルコの髪を洗って、私の髪も洗ってもらって。
さんざんじゃれ合った後は、ちょっとマルコが疲れてしまったようだ。
あー、遊び過ぎちゃったかな、とちょっと反省。
「マルコ大丈夫?」
「へーきだよぃ……。」
「のぼせちゃったら大変だし……。もう出ようか。」
「えー……もう?」
心底残念そうなマルコの顔に、ぷっと噴出した。
そんなに楽しかったのかと、思わず笑ってしまう。
「楽しかった?」
「うん。こんなに楽しいおふろはじめてだよい。」
「じゃあ、また今度も一緒に入ろうか?」
「え……いいの!?」
「もちろん。マルコがいいならね。」
じゃあ明日!明日また入るよい!!
と、キラキラした笑顔のマルコ。
こんなに楽しみにしてくれることが嬉しくて。
どう頑張っても、表情が緩む。
「マルコ。」
「?」
「明日が楽しみだねー?」
「よいっ!」
返ってきたのは、満面の笑みだった。
(ナマエ!おふろ!おふろだよい)
(ちょ、待ってマルコ!まだ朝だから!)
きゃっきゃとはしゃぐ小さな子。
悪戯に笑うその子を包む様に抱きしめれば
それはそれは幸せそうに笑った
05 END
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ゆめうつつ