07


マルコに連れられ、色々な人と挨拶を交わした。
ジョズさんやラクヨウさんと言った隊長格の人たち。
マルコが統括している一番隊の面々。

マルコの家族だと言うことも理由なのだろうけれど。
現時点で声が出ない私にも、明るく挨拶をしてくれて……。
なんだかとても嬉しくなった。

まだ喋れはしないけど、白ひげさんにも改めて簡単に挨拶を済ませ。
マルコに船内を案内してもらって……。
さぁ、次は何をしようかと意気揚々としていた時だった。


「ナマエ、大丈夫かよい?」
「……(フルフル)」
「……だろうねい。」


マルコが呆れたように苦笑する声。

それもそのはず。
今、私はベッドの上で臥せっているのだから。

別に私は風邪を引いたわけじゃない。
怪我をしたわけでもない。
もっと、単純な理由で私は起き上がる事が出来なくなっていた。

あぁもう、これからだってのに、と悪態をついても……こればかりは仕方ない。


「まさか、船酔いとはねい。」
「……。」


そう、船酔いしました。










07










あー……本当に情けない。


「ナマエ、船医から酔い止め貰ってきたよい。」
「……。」


苦笑するマルコの手に持たれていたのは一粒の錠剤。
今はそれが輝いて見えます……。

冷たい水と一緒にそれをごくりと飲み込めば、ほんの少しだけ気持ち悪さが和らいだような気がした。


「盲点だったよい。」
「……。」
「まさかナマエが船に弱いとはねい。」


いや、もう、うん。
実は私は乗り物に弱い。
遊園地のジェットコースターとかは全然平気なくせに、車や電車は長時間乗っていると軽く酔う。
特に、船は駄目だったりする。
これはトリップする前からで、もう体質と言えるのだろう。

今私が乗っているこの船、モビー・ディックは大きい。
船は大きければ大きい程揺れは少なくなるものなのだけれど……。
……うん、油断してました。
いくら大きくて安定しているからとはいえ、船は船。
しかもここは普通の海じゃなくて“グランドライン”なのだ。
急激に変わる天候、荒れ狂う波。
……これでもかと言うほど揺れるのだ。

……昔、幼いマルコと一緒に島から島へと移動した際、船を利用したのだけれど……。
その時は、“絶対服従命令”で酔わないようにしていた。
今回も、そうしたいのはやまやまなんだけど……

今、私、声でないから。

絶対服従命令は「声」ありきの能力。
声が出なければ能力は使えない。


「……。」
「ん?どうしたよい?」
「……(うぅ、情けない)」


本当に、最悪だ。

マルコにこんな情けない姿を見られるなんて。
それどころか、看病までさせてしまっているとは……。
嗚呼もう誰でも良いから私を殴ってくれ!!


「くくっ……ナマエに勝ったのがただの船触れとはねい。」
「……(言わないでー。泣きそうなんだからー。)」
「へぇ?」


意外にも、意地悪なマルコの言葉に掛布団を口元まで引き上げた。
本当に情けなさやら羞恥心でいっぱいいっぱいなんだから。

そんな私を見て、マルコはふと何かを思いついたように手を打った。


「泣きたいなら、俺の胸でも貸してやるよい。」
「?」
「それとも、一緒に添い寝してやった方が良いかい?」
「……!」


にやり、と笑って腕を広げて見せるマルコ。
そんなマルコに……思い出したのは昔の事。

そう言えば、私が体調崩した時はマルコが添い寝してくれたっけ。
あの島で泣いてしまった時も、マルコは小さな腕で必死に私を抱きしめてくれた。
嗚呼、懐かしい。


「思い出したみたいだねい。」
「……(コクコク)」
「ナマエが泣いたのを見たのは後にも先にもあの一度きりだったよい。」


島を壊滅させて、平気な振りをしていた。
それでも、マルコの言葉に……泣いてしまったあの日。
2人で抱きしめあって、泣き続けた。

マルコもその時の事を思い出しているんだろう。
遠くを見つめる目は何処か懐かしげだ。
ベッドのそばにあった椅子に腰かけ、天井を仰ぎ見る。


「ナマエが居なくなった後、オヤジに拾われた。」
「……。」
「海賊になるって夢はそん時叶ったよい。」
「……(コクン)」
「……ナマエ、もう一つの俺の夢、覚えてるかい?」
「?」


マルコの、夢。
海賊になって色々なところを見たいと言っていたマルコ。
そのほかに……あっただろうか?

首を傾げて見せれば、チラリと視線だけをこちらに向けたマルコ。
その眼はゆるく笑っていて……。

……今更ながら、本当に眠そうな目をしてるなぁと場違いなことを考える。


「酷いねい、忘れてるなんて。」
「??」
「“俺の一番の夢は”……。」


弧を描く口元。
昔と変わらない、緑がかった青い瞳から目が離せない。


「“誰よりも強くなって、ナマエを守れる男になることだよい”。」
「!」


マルコのセリフに目を見開く。

嗚呼、嗚呼、そうだった。
あの日、あのカフェで。
マルコは高らかに宣言していたではないか。
一番の笑顔で、私とオーナーに向けて言い切っていたではないか。

思い出した過去の光景に、そして今目の前にいる大人のマルコに言われた言葉に、顔が熱くなる。
何故忘れていたのだろう。
あれだけ、嬉しくて嬉しくて仕方がなかったのに。


「……っ。」
「はは!思い出したみたいだねい。」
「……(コクコク)」
「これでも、白ひげの一番隊隊長って立場を背負ってんだ。少しは強くなったつもりだよい。」
「……。」
「まぁ、ナマエに勝てるかどうかはわからないけどねい。」


くくっ、と。
喉を鳴らして低く笑うマルコ。

……きっと、マルコは強くなっている。
今のマルコと戦えば……勝つのはどちらだろうか?


「なぁ、ナマエ。」
「?」
「ナマエの声が戻ったら、手合せしてくれよい。」


私を見る目に、鋭さが宿る。
優しげに緩められた目元とは別に、それは鋭利に光った。


「俺の夢はナマエを守れる男になる事。……ナマエより弱かったら話にならないからねい。」


その眼は……ただ純粋に、強い者と戦いたいという眼。
自分の実力がどこまで通用するか知りたい者のする眼だ。

……マルコはマルコだけれど。
やはり“海賊”で“男”なのだ。


「……(コクン)」
「くくっ、約束だよい。」


嬉しそうに笑むマルコを見て……思わずこちらも笑う。
……私も、どれだけマルコが強くなったか知りたいしね。

2人でクスクスと笑っていれば、コンコンとノックの音。


「?」
「おーい、ナマエ起きてるかー?」
「エース?」


小さな音を立てながらゆっくりと開いた先に……エースの姿。


「お、やっぱマルコもここに居たのかよ。」
「どうしたんだよい?」
「いや、ナマエが調子悪いって聞いたからさ。」


お見舞い。
と、その手に持たれていたのは……大量の、肉。

って、ちょ、待って!!


「……っ!」
「馬鹿、エース!お前そんなもん持ってきてどうすんだよい!!」
「え?だって肉食えば元気になるだろ?」
「それはお前だけだよい!」


お肉の匂いが一気に部屋に充満して、収まっていた気持ち悪さがじわりと浮かんでくる。

う、わ、あぁ……。
ふ、船酔いしてるときにこの匂いは……っきつい!!


「……っ(吐、くぅう……)」
「ナマエ!?っエース!さっさと外に出ろい!!」
「じゃあこの肉どーすんだよ!」
「お前が食え!!」
「マジで!?いいのか!?」


おぉ……エース君の眼がキラッキラしてますよ……。
実は自分が食べたいから持ってきたんじゃないだろうなこの子。

私が再び死にそうになっている横でぎゃいぎゃいと騒ぐ男二人。
賑やかだ……まったくもって賑やかだ。

この船は、いつだって賑やかで騒がしくて、暇を持て余す何てこと無くて。

……きっと、この船だからこそマルコは……


「ナマエっ!大丈夫かよい!?」
「……。」


心配そうに覗き込んでくるマルコの頭に手を乗せる。
相変わらずふわりとしたその髪の感触を楽しみつつ、その頭を優しく撫でた。
何度も、何度も。

驚いて体を硬直させていたマルコだけど……。
次第に、体の力が抜けて……数秒後、困ったように笑う顔がそこにあった。















(ナマエ、手合せは全力で頼むよい。)
(……(コクン))
(俺も、本気でいくから。)
(……。)
(え?何々?ナマエとマルコ手合せすんのか?)
(……エース、お前肉はどうしたんだよい。)
(全部食った!なぁ、ナマエって強いのか?なら俺も手合せしてみたい!)
(!)
(……駄目だよい。)
(えー!?なんでだよ!!怪我なんてさせねぇって!)
(くくっ……エース、残念だけどねい……。)
(な、なんだよ…。)

(お前じゃナマエの肩慣らしにもならねぇよい。)


07 END
2015/06/20


[*前] | [次#]
back


ゆめうつつ