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穏やかな日。
潮風は優しく、陽の光は温かくも柔らかな日。
マストに寄り掛かって編み物をしているナマエの姿。
そんなナマエに気付いたのはハルタで。


「おふくろっ!何して……あ。」
「ふふっ。ハルタちゃん、静かにね。」


しーっ、と口元に指を当てて穏やかに笑むナマエ。
その柔らかな膝を枕にぐーすかと眠っているソバカス男を見つけて息を吐く。
先ほどまでマルコがすごい形相で探しまくっていた男が母親の膝で熟睡しているのだ。
呆れてため息が出るといものだろう。


「……マルコが探してたんだけどなー。」
「あらあら、どうしたのかしらねぇ。」
「また書類提出遅れてんじゃない?」
「ふふっ、エースちゃんは机仕事が苦手ですものねぇ。」


んがっ、と鼾をかきながらも幸せそうに眠る末っ子を見て笑う。
そんな末っ子を起こさない様に編み物を続けているナマエをみて、自然と口角が上がるのは仕方がないのだろう。


「で?おふくろは何やってるの?」
「もうすぐ冬島に着くって言ってたでしょう?マフラーでも作ろうかと思って。」


明るめの色合いで編まれているマフラー。
きっと親父になんだろうけど、ちょっと鮮やかすぎるんじゃないかなぁ。なんて内心笑う。
ストン、とナマエの隣に腰をおろして空を見上げると、抜けるような青空に薄い雲がかかっいて綺麗だ。


「今日は暑くも無いし寒くも無いし、気持ちいいよねー。」
「そうねぇ……あらあら、ハルタちゃんも随分と眠そうな顔してますよ。」
「えへへ、実はちょっと眠いんだー。」
「ふふ……なら、少しおやすみなさいな。」
「うん、そうする。」


そう言ってナマエへと少しだけ寄りかかり、目を閉じる。
波の音、緩やかな風。
少しもしないうちに、意識は微睡へと溶けた。










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それから、どれほどの時間が経っただろうか。
膝の上ではエースが熟睡し、肩ではハルタが小さな寝息を立てている。
穏やかな表情を見て、きっと良い夢でも見ているのだろうと表情が緩んだ。

2人の可愛い息子の寝顔を見ながら編み物を続ける。
さて、あと少しで出来上がるだろうという所で……フと、視線を感じた。
パッと顔を上げれば……。
そこにいたのはクスクスと笑っているナースたちと、声を抑えるようにして笑いながらこちらを見やる白ひげの姿。


「あなた?一体どうなさったんですか?」
「いやなに……大したことじゃねぇよ。」


そうは言いつつも、ニヤニヤと笑みを浮かべた表情は崩れない。
珍しくも声のトーンを抑えている白ひげに首を傾げれば……。
ニッと笑って指さされたのは己の後ろ側。


「?」
「見てみろ。……まったく、大の大人が揃いも揃って間抜けな面ぁ晒しやがって。」


くつりくつりと笑う白ひげの言うままに、ハルタを起こさぬよう振り向けば……。

そこにいたのは、無防備にも大の字で眠っている船員たちの姿。

ナマエからはマストの陰になって見えなかったのだろう。
サッチやラクヨウ、ナミュールまでもがナマエの近くで大口開けて眠っていたのだ。
これにはさすがのナマエも驚いたらしい。
少しばかり目を見開いたその姿に、笑ったのはナース達だ。


「……あらまぁ……みんな何時の間に来てたのかしら…。」
「ふふっ!お母さんったら全然気づいてなかったのね!」
「えぇ、編み物に夢中になってましたからねぇ……あらあら、ラクヨウちゃんったらまたお腹出しちゃって……。」
「心配しなくても大丈夫よ、こんなことで風邪ひくほどヤワじゃないわ。」


ナースたちの言葉に「それもそうねぇ。」と苦笑する。

かの白ひげ海賊団の船員、隊長格がこうも無防備に眠っている姿など一般の人間からすれば想像もつかないのだろう。
それでも、現実にこうして眠る彼らを見て……微笑ましくない訳がなく。
ナマエの苦笑はしだいに、穏やかな笑みへと変わっていった。


「ふふ……みんな幸せそうな顔してますねぇ。」
「グラララ……お前が傍にいるからだろう。」
「え?」
「お前が傍にいるから、安心してんだろうよ。」


白ひげが彼らを見る目も穏やかに緩められていて。
そんな白ひげを見上げてキョトンとした表情を浮かべる。
そしてその言葉を理解した瞬間、少しだけ泣きそうになってしまう。
嗚呼、それはどれほど嬉しい事なのだろうか、と。
じわりと熱くなった目頭を押さえ、満面の笑みで白ひげを見上げた。

その瞬間。


パシャリ


「え?」
「あ!駄目よお母さん動いちゃ……。」
「ほら、じっとしてて!」


突然の光に思わず驚いてしまう。
その出所を見やれば……きゃっきゃと静かにはしゃぐナースたちの手に持たれたカメラ。
そういえば先日襲ってきた敵船からの戦利品だとか言っていたなぁ、なんて思い出した。


「……ナ、ナースちゃんたち、止めてちょうだいな。」
「えー?いいじゃない!」
「良いも何も……恥ずかしいですよ。こんなおばあちゃん撮らなくても良いでしょう?」
「あ、お母さん赤くなってる。可愛いーっ。」


こうやって写真など撮られたことのないナマエからしてみれば、恥ずかしいことこの上ないらしく。
手で顔を隠してしまおうとしたその行動を停止させたのは白ひげの声。


「グラララ、良いじゃねぇか一枚くらい。」
「もう……他人事だと思って……。」
「貸してみろ。……ほら、こっち向きやがれ。」


ナースたちからカメラを受け取り、ナマエたちへとレンズを向ける。
レンズ越しに見えるナマエは、恥ずかしそうに目線をさまよわせた後少し思案して……。
ゆっくりと、控えめな笑みを白ひげに向けた。

それに満足そうに笑ってパシャリ。

映し出されたのは愛する妻の笑顔と……可愛い息子たちの無防備に眠る姿。
数日後、白ひげの部屋の壁に張り出されたのは言うまでもなく。

顔を赤くして怒るナマエを笑って宥める白ひげの姿が見えるのは、また別のお話。















(あと少しで完成ね……。)
(んん?もう出来るのか。)
(えぇ。……ハルタちゃん喜んでくれるかしら……。)
(グララ!お気に入りのマフラー無くしたって落ち込んでたんだ、心配しなくても喜んで受け取るだろう。)
(ふふっ、そうだと良いんですけどねぇ。)

ナマエの手にはあと少しで完成するマフラー。
ハルタが驚きつつも満面の笑みを浮かべる数日前の出来事。


写真 END
2015/07/29



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ゆめうつつ