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「ナマエちゃんって強かったんだなぁ。」
「あぁ、それも規格外に。」
「……お前ら言いたい放題だねい。」


呆れたようなマルコの視線を浴びながらサッチとジョズは酒を煽り、エースは肴へと手を伸ばす。
夜も更け、モビー・ディックに静寂が訪れ始めた頃。
マルコの部屋に1〜4番隊隊長が集まり、なんてことはない世間話中。
なんとなく集まり、なんとなく酒を飲み、なんとくなく解散する。
時折行われる行事とも言えない他愛のない集まり。

今回の話のネタは言わずもがな、ナマエの事だ。


「マルコよりも強いとは思わなかったな。」
「俺もまだまだだってことだよい。」
「あー…やっぱ俺ナマエと手合せしたかったなー。」
「拗ねんなよエース。」


カラカラと笑うサッチがふとマルコへと視線を向けた。
目の前で静かに笑う男は……ナマエに対してかなりの過保護だ。
そこで疑問が湧き上がる。


「マルコ、お前ナマエちゃんに対してかなり過保護だよな?」
「そうかい?」
「自覚無しかよ……。でもよ、どうして“護衛はいらねぇ”なんて言ったんだ?」


サッチの疑問はそこ。
ナマエにしたいして過保護なマルコが、どうして「護衛はいらない」と言い張ったのか。
それは自分も気になったと言わんばかりにエースとジョズもマルコへと視線を向ける。
三人の視線を受け、マルコはさも当然と言わんばかりに口を開いた。


「考えても見ろよい。俺がナマエの護衛につくのが大前提だとして……。」
「うん、まぁ、そうだろうな。」
「だが、俺にも仕事があって四六時中ナマエと一緒には居られないだろい。」


マルコのその言葉に三人が突っ込む。
いやいやいや、いつも一緒じゃねぇか、と。


「いや、今も四六時中一緒じゃ……。」
「居られないだろい。」
「あ、はい、ソウデスネ。」


マルコの威圧に素直に頷く。
心の中では突っ込みまくっているものの、今口に出せば確実に殴られる。
そう感じとって口を噤んだ。


「俺が傍にいない間は、他の野郎がナマエの傍にいることになる。」
「まぁ、そらそうだわな。」
「……そんなの許容できるはずねぇだろい。」
「……は?」


キョトンと、目を丸くさせる。


「ナマエの傍に俺以外の野郎がいるなんて、そんなこと俺が許すはずねぇだろい。」


絶句。
それはまるで、母親と取られまいとする子供そのもので。
唖然と口を開くジョズとエースの傍で……。
サッチだけが苦笑していた。










14










少しばかり静寂が訪れた部屋の中。
下手に家族愛をこじらせた奴って怖ぇ、なんてエースが若干視線を逸らし。
ジョズも同じように冷や汗をかきながらツツと視線を逸らす。
ただ、サッチだけがじーっとマルコを見据えた後、ぽつりと言葉を口にした。


「なぁマルコ。」
「あ?」
「お前……ナマエちゃんのこと好きだろ。」


サッチのその言葉にエースは何言ってるんだ?と首を傾げ、ジョズは当たり前だろう?と訝しげに眉を潜める。
そんな二人の反応に苦笑したのはサッチだ。


「何言ってんだサッチ。マルコがナマエの事好きなんて最初からわかってたじゃねぇか。家族なんだろ?」
「いや、俺が言いたいのはそういう意味じゃねぇよ。」
「なら、どういう意味なんだ?」


不思議そうな二人を後目に、正面を向けば……表情一つ変えないマルコ。


「なぁ、マルコ。」
「……。」
「お前、ナマエちゃんの事、“女”として好きなんだろ。」


それは疑問でもなく確信めいた言葉。
サッチのその台詞に今度はエースとジョズが眼を見開く。
バッとマルコへと振り向けば……

苦虫を噛み潰したような顔でサッチを見据えるマルコの姿。


「……マジだったのかよ。」
「マルコ、お前……本気だったのか。」
「チッ……。……これだからサッチは嫌なんだよい。」


誰よりも状況を把握する観察眼をもっているから。
場合によっては当の本人よりも先にその気持ちに気付いてしまう時がある。
マルコが唸る様に悪態を吐けば、サッチはにんまりと悪戯小僧のような笑みを浮かべた。


「そりゃあわかるってもんだろ。」
「……確かに言われてみれば……。」
「……ただの“家族”としての範囲を超えている時があったな。」


エースとジョズとて、まったく気づいていなかったわけではない。

先ほどのマルコのセリフからしてみてもそうなのだが……。
思い出すのはナマエが船員と仲良さ気に話をしていた時のこと。
今のようにあからさまではなかったが、苦い顔をしていたマルコを見かけたことがある。
それは、家族を取られそうになったとかそう言う次元ではなくて。
垣間見えたのは“独占欲”と“依存”による“嫉妬”。

しかし、あのマルコがそう言った感情を持つとは思えなくて。
サッチがそういった事を口にしても、いつもの冗談だろうと流していた。
けれど、本気だったなんて。

ひくりと、口の端が引きつる。


「……あぁ、そうだよい。悪いか?」
「おっ!開き直ったなぁマルコ!」
「どうせ伝える気はないからねい。」


ケラケラと笑うサッチを一睨みして、マルコが手を伸ばし酒を取る。
ごくりと飲み込めば焼けるような感覚に眉根を寄せた。


「言、わねぇのか?」
「言える訳ねぇだろい。」


“ナマエは俺を「家族」としてしか見てねぇんだからよい。”
そう言ってクッ、と自嘲気味に笑ったマルコ。
エースはなんだか納得がいかない様に顔を顰め、ジョズは眼を閉じ口を噤む。

幼い頃とはいえ、マルコとナマエは姉弟のように…母子のように生きてきた。
例え、マルコがナマエとは違う感情を抱いていたとしてもその事実は変わらない。


「常識的に考えたとしても、無理だよい。」
「常識ねぇ……。」


くつりとサッチが笑う。
グラスを持ち上げれば、中の氷が静かな空間にカランと音を立てた。


「別にいいんじゃねぇか?」
「は?」
「誰を好きになろうと。」
「サッチ?」
「俺たち無法者に常識云々なんか関係ねぇだろ?」
「……。」


ぐびりと酒を流し込み、息を吐いたサッチ。
そんなサッチをジッと見据えた後、ゆっくりと自分のグラスへと視線を落とす。

ゆらりと、グラスの中で揺れた自分の顔に小さく笑う。


「……そんなもんかねい。」
「そんなもんだろ。」


そうやって笑いつつも、伝えそうにないマルコの様子に……エースが口を開く。
しかし、それはジョズの手によって塞がれた。
不満げにジョズを見上げれば、その表情は苦笑している。

こればかりは、当人の問題だ。
自分たちが口を出す問題じゃないとはわかっている。
解ってはいるが……。

何処か、やっぱり納得が出来ない。


「……面倒臭ぇな、いろいろ。」
「まぁな。」


エースが吐き出した言葉に、ジョズが笑う。
マルコは眼を閉じ、サッチも仕方なさそうに笑った。















(……なぁ、ジョズ。)
(どうした?)
(やっぱり俺納得いかねぇ。)
(そうは言うが……。)
(マルコがあんな顔してんのに何もしねぇなんて無理だろ。)
(……。)

末っ子に苦笑するは心優しき兄貴分。


14 END
2015/09/01


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ゆめうつつ