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チビ太と別れた僕らは、事あるごとに留衣の隣を奪い合いながらケーキ屋を目指した。




『やっぱり売り切れ多いかー…』




「まあ仕方ないね」と隣の留衣がショーケースを眺めながら言う。
もう時間も遅いので、品切れも目立つようになってきたショーケース。時期が時期だけに尚更。
それでもゼロではないので、各々で食べたいケーキを選んで留衣に報告する。




『一松は?どれがいい?』


「……チョコ」


『わたしもそれにしようかなあ』




オーソドックスなため数が多かったのか、まだ残っていたチョコレートのケーキを指さす。
それを覗き込むために僕の隣で屈んだ留衣にドキッとした。顔、近い。


全員分のケーキを注文して店員に箱に詰めてもらう。七人分の代金を当然のように払う留衣は、年上なせいもあってか大人びて見えた。クズニートでバイトすらやっていない僕らとは違う。

渡された箱をやはり当然のように持とうとする留衣に、「僕が持つ」と手を伸ばして割り込んだ。




「あの一松が他人に気を遣うなんて……お兄ちゃん感動…」


「…うるさいな」


「他人っていうか留衣限定でしょ〜?」




泣き真似をするおそ松兄さんと茶化してくるトド松に舌打ちをする。十四松が「俺も持つよ!?」と言ってきたが丁重にお断りしておいた。あいつが持ったら帰るまでにケーキがどうなるか分かったもんじゃない。

帰り道も兄弟で留衣の隣を奪い合っていたけど、僕はケーキが潰れたら困るので少し離れたところを静かに歩いた。
留衣の家に着いて箱を机に置いたら、留衣が「ありがとう」と笑って僕の頭を撫でた。このために荷物持ちを買って出たことは本人には内緒。


皿とフォークを用意した留衣はケーキをひとつずつ配る。
最後に自分の分を持って僕の隣に座った。




『ちょっと狭くてごめんね〜。じゃあみんな、メリークリスマス!』


「「「メリークリスマス!!」」」




ツリーもクラッカーもイルミネーションもないけど、途中家に寄って持参した僕らのサンタ帽だけはそれっぽかった。
もともとクリスマスなんて名前だけ知ってて中身はよく分からないイベントだし、雰囲気だけ楽しめば勝ちなんだと思う。

留衣が買ってくれたケーキをみんなで一斉に食べ始める。
留衣の向かい側にいたトド松が、自分のいちごタルトを一口だけフォークに乗せて留衣に差し出した。




「はい留衣、あ〜ん!」


『あ、ありがとー』


「なんだそれずるい!俺もやる!!」




唐突に始まった食べさせ合いにおそ松兄さんも参加して、面白がった十四松も乗っかって、無駄にかっこつけようとするカラ松も加わって、チョロ松兄さんも流れに乗るような形で参加した。
一方的にターゲットになった留衣のケーキが“お返し”として少しずつ本人以外の口に入り、みるみるなくなっていく。

それでも美味しい美味しいと嬉しそうに笑う留衣。混ざりたかったけど、自分のケーキを見て黙り込む。




「………」


『一松?』




買ってもらったケーキは、在庫の影響もあって留衣と全く同じものだった。
これでは食べさせることに意味がない。


フォークを持ったままじっと目の前のケーキを見つめていたら留衣がそれに気付いて、もう半分以下になっている自分のケーキを更に半分に切り分けた。




『一松、あーん』


「…!」




チョコケーキの片方を刺してこちらに向ける。その行動に周りの兄弟は驚いていた。


ぱくり。
さっき食べていた自分のと何も変わらないはずのそのケーキは、なぜか一段と美味しい。




「留衣、」




せっせと自分のケーキを切り分けてフォークに刺して、留衣の口元へ持っていく。
留衣はにこにこしてそれを食べて、「美味しい」と笑った。




「一松兄さんが“あーん”やったよ……!!」


「明日は大雪だね…」


「マジでー!?雪ー!?ヒャッハー!!」


「十四松、耳元で騒がないで……うるさい」




留衣と反対側の僕の隣ではしゃぎはじめた十四松を睨む。
ふと視線を感じてそっちを向いたらおそ松兄さんがニヤニヤしていたので目を逸らした。




『じゃあここでわたしからのプレゼントターイム!!』


「「「!?」」」




急にガタリと立ち上がった留衣は、そのまま部屋を出ていった。

数十秒後、両手に荷物を抱えた留衣が現れて全員でぽかんとする。




『はいどーぞ!!』




これはカラ松、これはトド松、と言いながら袋を配り始める留衣。
受け取った袋にはリボンが付いていて、この色で中身を見分けている様子。

「ベタ過ぎてみんな喜ぶか分からないんだけど」と留衣が頭を掻く中、それぞれ袋の中身を取り出した。




「…!マフラー?」


『そ。わたしの記憶の限りだとみんなしてなかったと思ったんだけどー…もし持ってたらごめんねー…ハハ……』




なんせありきたりな物だから、なんて言って申し訳なさそうにする留衣。
多分この人、今僕らが考えてることなんて微塵も分かってない。




「……うわぁああああんありがとう留衣!!だいすきー!!」


『ぐえっ』


「生まれて初めて女の子からプレゼント貰ったぁああ……!!」


「フッ…どうだ留衣、似合うか?」


「ここ室内だぞクソ松」


「あったけぇー!!!」


「それどういう巻き方なの十四松…」




飛びつくトド松に押しつぶされる留衣、感動で泣き始めたおそ松兄さん、なぜか既に巻いているカラ松と十四松、十四松のよくわからないぐるぐる巻きにツッコミを入れるチョロ松兄さん。


クリスマスとかいうクソみたいな行事が楽しくなったのは、この年からだった。






メリークリスマス・1st 2


(十四松、それじゃ前が見えないでしょ?)
(おっ!あざーっす!!)
(留衣俺にも巻いてー!!)
(…留衣、僕も)
(はいはい)





END.







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