1がふたつ並ぶ日
「「「初留衣ー!!」」」
『は?』
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
なんて挨拶するような相手も、こっちに来てからはほとんどいない。
家族とは離れて暮らしてるし、地元とは遠いし、親戚もいないし、大学の友達とは冬休み明けまで会わないし。
その“ほとんど”の例外がいるとしたら、近所に住んでる成人済みニート六人兄弟とその両親くらいか。
昨日は深夜までテレビを見ていたから元旦の起床時間は昼過ぎ。朝ごはん飛ばして昼ごはん食べて、ゆっくり支度をしてから歩いて行ける距離の神社まで初詣に行く。
無論一人で行くわけだけど、このたった数十分の間になぜか例の六つ子に見つかる。去年もそうだった。どっかで見張ってるんじゃあるまいな。
『初留衣って何?』
「今年初めての留衣!!」
『あっそう……どうも、あけおめです』
「「ことよろです!!」」
「今年は最初に見たの誰!?」
『え?うーん…十四松』
「あざーーーーっす!!!」
「くっそ!負けた!」
正月でも関係なく騒がしい六つ子。こちらは寝起きなのでテンションは高くない。むしろ低い。
おみくじやってお守りを手に入れたら帰るはずの予定が毎回こいつらに狂わされる。今日もテレビ見て年賀状見てだらだら過ごす予定だったんだけども。
「……留衣、今日この後は?」
『帰ってごろごろする』
「じゃあ俺と一緒にごろごろしなーい?」
『ちょっとよく分からないかな』
「留衣、僕と一緒に美味しいものでも食べに行こ!」
『別の子誘って行ってらっしゃい』
「留衣!野球!野球しよ!!新しい野球盤買ってもらったから!!!」
『…いいよ』
「「なんでそこはOKなの!?」」
のろのろ歩いて自宅を目指す。喜ぶ十四松の隣でおそ松とトド松が綺麗にハモった。日頃の行いの差ですよ、お二方。
「こんな奴らほっといて、僕とどっか行かない?お正月だし、留衣ちゃんもゆっくりしたいでしょ?
僕となら静かに過ごせるから」
「黙ってろチェリー松!」
「留衣ちゃんの前で変な呼び方すんのやめてくれる!?」
「ハニーは俺と一緒に愛を深めに…」
「黙ってろクソ松。留衣、この前言ってた猫カフェって……」
「一松兄さん猫カフェとか行くの!?ウケる〜!!」
「あ?」
「やきうーーーー!!!」
『ほんっとに新年早々騒がしいなあんたらは…』
ぎゃあぎゃあと騒ぐ兄弟に耳を塞ぎたくなる。本当に成人男性か、お前らは。
うるさい方に気を取られて寒さを忘れるレベルだ。
冬休みが終わればすぐテスト期間だから、ゆっくりできるのもあと数日。その貴重な数日がこのニート達に奪われるのだろう。
それもまあ、良しとするか。
『…ふふっ』
「「「え」」」
『このままウチおいでよ。どうせ暇なんでしょ』
「「「!」」」
なんだかよく分からないけど、やけに楽しそうにする兄弟に釣られて思わず笑ってしまった。
特定の誰かに言うわけでもなく、ポケットに手を突っ込んで前を向いたままそう言ったら六人が一瞬固まった。
去年はお寺まで連れて行ったんだっけ。屋台とか回ったな。それもいいけど、今年は家でゆっくり過ごそうか。
そんな意味を込めたつもりだった。
「行く!!よっしゃ決まりだな!」
「野球盤持ってっていい!?」
「どんだけ野球したいのお前…」
「留衣、寒くなーい?僕の手あったかいよ」
『どうも』
「…留衣、寒いからあっためて」
『おー、手冷たいねぇ一松。……カラ松、家着いたら構えるからそんな顔しないで』
「べ、別に俺は何も…!」
一人暮らしだからてっきり毎年一人で過ごすものだと思っていたお正月。でも今のところそれはない。
またこの兄弟とわいわい過ごす一年が始まるんだなと、騒がしい新年の初日にそう思った。
1がふたつ並ぶ日
(今年はどんな思い出を作ろうか)
END.
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