S席はこちら!






留衣が家に来たとき、誰をどの順で相手にするかは大体決まっている。


まずはおそ松、十四松のどちらか。
これは二人が留衣の気配を察知したと同時に走り出すからである。どちらか勝った方が最初に留衣に構ってもらえる。
その次がトド松。トド松は全力ダッシュはせず、留衣が部屋に来たらべったりくっついてそのまま離れない。
トド松の次がチョロ松。なんだかんだ理由をつけて、あいつは留衣の隣に座る。
そしてその次が一松か俺のどちらか。というのも、どちらが先かは留衣の気まぐれで変わる。一松も俺も自分からは行かないから、視線に気付いた留衣が寄ってきたらそっちが先なのだ。


だから今日も、留衣のことをチラチラ見ながら“そのとき”を待っていた。




「今日はさぁ、にゃーちゃんから目線貰っちゃって〜!」


『えー、いいなぁ』


「もうめっちゃ可愛かった!次は留衣ちゃんと一緒に行きたいなぁ…なんて……」




背中側から十四松、左腕にはトド松、右腕にはおそ松、おそ松の隣で上機嫌に留衣と話すのがチョロ松。今日も今日とて留衣は身動き出来ない程度にはがっちりホールドされていて隙がない。

チョロ松の言葉に「いいよ」と笑った留衣。その手を両手で包み込んで、「絶対だからね?」と念を押した彼は自分からそれをやったくせに顔が真っ赤だった。




『めっちゃ可愛いのはチョロ松だよ〜』


「……っ」


「ねえ僕はー?僕は?」


『めっちゃ可愛いよ』


「わーい!」


「まァ一番可愛いのは留衣だけどな!」


『それはないねぇ』


「あっ!またお前信じてくれないんだろー?ほんとだからなー!?」




赤くなったチョロ松を撫でる留衣に、俺もあそこに紛れたいなぁ、なんて。
そろそろ構ってくれないかなと鏡と留衣を交互に眺めていたら突然留衣の電話が鳴った。




『…もしもし?え?今から?……』




わかったと言ってから通話を終了させた留衣は、「ちょっと用事できたから帰るね」と立ち上がった。




「えっ…」


『ごめん、友達がたまたまこの近くに来たから今から会いたいって。また来るよ』




「それじゃ」と急いだ様子で準備した留衣はさっさと部屋を出ていく。
抗議をしようにも毎日のように会っている俺達とたまにしか会えないその友達を天秤にかけたら後者を選ぶのは当然であって、何も言えずに全員で留衣を見送ることになった。




――




二日後。
宣言通り留衣は再び家に遊びに来た。

今日も同じようにおそ松から始まって今はチョロ松が隣に座った状態。
あとは一松か俺に留衣が向かってくる計算なのだが、今日はどうも落ち着かなかった。




「(お預けを食らうことがあるんだな……)」




前回ので学習した。何もなければこのまま構ってもらえるだろうが、何かあった場合はそうはいかないらしい。
期待を裏切られたというと留衣に失礼だが、前回は期待していた分あの後がっかりしたのは事実だ。

ならば他の兄弟と同じように自分から構ってもらいに行けば良いと思うが、それができないから毎回こうして待機してるわけであって。




「…留衣」


「「「!」」」




様子を窺っていたら、動いたのはまさかの一松だった。
留衣が一人のときならまだしも、兄弟に囲われている状態のときに自分から動くようなタイプではないのに。

何を言うわけでもなく、おずおずと留衣の傍まで歩いて行った一松はどうすれば良いか迷っているようだった。
両隣と真後ろ、右斜め前が塞がっている留衣は少し考えた後に左斜め前へ彼を呼ぶ。


ぱっと顔を明るくした一松に留衣も笑う。あまり笑わない一松がとても嬉しそうにしていた。




「……、」




ぽつん。

自分以外が一箇所に固まったせいで、孤立感が酷い。
混ざろうと思ったけど本当に今度こそ満員で、留衣の周りに入り込む隙間がない。
右側おそ松、左側トド松。背中は十四松が占領、前は留衣が足を伸ばしているからそもそもスペースがないし、その足の両脇には一松とチョロ松。どこに入れば良いと言うんだ。


普段から何かと兄弟にスルーされる確率は高いけど、今回ばかりはなんだか泣きそうだった。
留衣だからだろうか。留衣にだけは構ってもらえると思っていたのだろうか。留衣だけは俺に構ってくれると思っていたのだろうか。
でも今の状況を見るに、構ってもらえそうな感じが全くしない。

いっそのこと部屋から出ていこうか。何気ない感じに、ふらっと。
そうだ、そうしよう。持っていた鏡を机に置いて立ち上がる。



外へ行こうと思ってたのに、何故だか足は自然と留衣の方へ向かって行ってしまった。




『カラ松?』


「……」




留衣の目の前に、さっきの一松のように立ちはだかった。
でももう一松のときのように入り込むスペースはない。留衣は困るだろうか。




『カラ松』


「!」




少し考えたような素振りを見せた彼女は、両腕にくっついていたトド松とおそ松を“ごめんね”という表情で引き剥がすと伸ばしていた足を引っ込める。

そのまま両腕を広げて俺に笑いかけた。




『おいで』




言い終わるのと同時に、その腕の中にダイブした。






S席はこちら!


(うぁあああ留衣大好ぎぃいい)
(あはは。留衣さんモテモテで困っちゃうな〜)
(留衣が6人になってくれればいいのにね)
(分身できたら最高だったね。したい〜)
(したとこで全部俺のにする)
(それじゃ今とおんなじじゃん!)




END.






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