壊れて良いこともあります
「あれーっ留衣だ!こんちわー!」
『……』
今日は朝から雪が降っていた。
学校が休みだという連絡が来なかったから普通に授業があるものだと思って支度をして、寒い中家を出たらバスが来なくて。
待てども待てどもバスは来なくて、30分後にようやく来たバスに死にそうになりながら雪崩込んだ。
駅に着いたと思ったら今度はまた別の人だかりが出来ていて、ホームまでなかなかたどり着けない。
のろのろとしか進まない列に並んで、満員でぎゅうぎゅうな電車に乗り込んで学校へ向かい、ようやく着くって頃に学校から連絡が来た。
今日は雪だから休みです、と。
殺意が芽生えながらも学校に行ったところで意味がないのでその場でUターン。朝からとんだ災難だった。
凍え死にそうになりながら帰り道を歩いていたらこのクソ寒い中短パンで雪だるまを作っている十四松に出くわした。
うん、見てるだけで寒いから出来ればやめてほしい。
「どうしたのー?元気ないー?」
『……寒くてしぬから家帰る…』
「家行くのー?俺も行っていいー?」
『………』
服は雪で濡れたし靴の中は浸水してるし手袋してこなかったから手は悴んでるし。とにかく寒い。
早く帰りたい思いが強すぎて十四松には頷くという簡素な返事しかできなかった。
後ろを着いてくる十四松の気配を感じながら家を目指す。門を乱暴に足で蹴り開けて、真っ赤になった手で玄関のドアを開ける。
靴を脱ぎ捨てて一目散に部屋へ駆け込んで、ストーブのコンセントを突っ込んでスイッチオン!
『あーーーーー!!死ぬかと思った!!!』
「お邪魔してます!!」
『どーぞ…はあ…生き返る……』
「…あれ?誰か来た」
『ちょっと見てきて十四松…十四松の兄弟だったら入れちゃっていいから……』
「あいあい!」
ストーブの前で行き倒れた。もうしばらく動きたくない。と思ったらインターホンが鳴った。
客人の出迎えを客人に任せるのはどうかと思うが、十四松ならいいかと思いつつ。
「お邪魔しまーす……ってええええ留衣どうしたの!!?死んでる!?」
「「留衣!!?」」
やっぱりか。というかこの家に来るのは9割方あいつらだから予想していた上で十四松に出させたのだけど。
部屋に入るやいなや、ストーブの前で死んでいる私を見ておそ松が驚いた様子だったが立ち上がる気はない。
『寒くて死にそうなだけなんで…気にしないで下さい……』
「えー…?もしかしてあったまってるのそれ…?」
『そう。……あーもうマジ連絡遅いんだよクソ…ふざけんな……わたしの交通費と努力と睡眠時間を返せコノヤロー……』
「留衣が寒さでおかしくなってる…!?」
客人の顔すら見ずにうだうだとストーブの前にいる私。手足はだいぶ解凍されたけどもう少し暖まりたい。
あとちょっと、と思っていたらすぐ横に誰かが来る気配がした。
「ねえ留衣!寒いなら僕があっためてあげるー!」
『んー…?』
「僕がぎゅってしたらきっとあったかいよ!ね!」
声からしてトド松だ。ちらっと横を向いたらピンク色のパーカーが見えたのでトド松で確定。
人間暖房も悪くない気がしたのでもぞもぞと起き上がる。
「! へへっ、じゃあ留衣、」
『………』
「……ぇえええっ!!?」
「「「!!」」」
視界にターゲットことトド松を捉えたので勢いのままダイブ。
勢いをつけた私の体重で彼は一瞬ぐらっとしたが持ち堪えた。厚手のパーカーに顔を埋めれば、なるほど確かにあったかい。
「え、あ、ちょ、留衣」
『んー…?』
「あっ、やっぱ何でもな、」
『お、ほっぺのがあったかいな?』
「ひゃう!!?」
肩口に頭をぐりぐりしていたら偶然当たったトド松の頬がとてもあったかいことに気付いて擦り寄る。うん、人肌ダイレクトはやはりあったかいわ。
疲れてる上にストーブで部屋も暖まってきて、だんだん眠くなってきた。しかし客人を放置して寝るわけにはいかない。
「留衣、暖を取るならぜひこの俺の胸の中に」
『今はトドちゃんで間に合ってますう〜』
「えっ…そ、そうか……」
「留衣!!甘えんなら長男のこの俺に……っておい!寝んなよ!寝るならこっちで寝ろよ!!おいってば!!」
「とどちゃん……留衣が…僕にあだ名を……」
『…よーっしゃ復活!!ありがとうトド松!!あれっどうしたの?
あっみんないらっしゃい!今日は寒いね!!』
「切り替え早いなオイ!」
「んへへぇ…留衣のほっぺたやーらかかったぁ……へへ…」
「トド松戻ってこい〜あといっぺんしね」
無事にHPを回復したので、ここにきてようやく顔を上げる。
今日初めてちゃんと見たトド松はなぜか死んでいた。あれ、私が潰しちゃったかな。
「何で倒れてたの」と言いながらチョロ松が隣に座る。それに続いて他のみんなも周りに座った。
「学校休みなの?いーじゃんそれって俺と一緒に遊べるってことでしょ〜?」
『時間も努力もお金も無駄になったのがムカつくの。行き帰りのバス代返して欲しいわ』
「留衣がお金の事で文句言ってるの珍しいね。そういうのに寛容なイメージあったけど」
『だって意味もなく交通費に持ってかれたんだよ?たかが500円されど500円だよ〜。
500円あったらあんたらに飲み物くらい買ってあげられたのにさぁ……』
「「「……」」」
『…ん?どうした?』
無意味に消えたお金を嘆いていたら、私以外の全員が黙って顔を見合わせる。
何か変なこと言った?
「……そういうとこが留衣っぽいよね」
「やっぱ留衣ちゃんは留衣ちゃんだねー」
「あーあ、さっきはあんなに可愛かったのにちょっといつもの調子に戻ったらイケメンとかムカつくよね〜俺の立場ねえわ〜」
『何の話?』
「留衣すっげーかわいい!すげーかっこいい!!」
『? そりゃどうも』
何かやったっけと考えたけど特に思い当たる節はない。十四松の様子を見る限り悪いことはしてなさそうなので気にしないことにした。
暖まる飲み物でも用意しようかと、この兄弟のためだけに買ったマグカップの準備に取り掛かった。
壊れて良いこともあります
(俺も留衣に甘えられたーい)
(トド松ばっかりずるい!)
(へへー…でも正直びっくりしたぁ……顔熱い…)
END.
――
管理人の私情
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