1


 
 
※かなり若干ですが注意。オト○ディアネタ。




今日世の中はバレンタインだから、俺もそれに便乗して世界で一番大好きな留衣に愛を伝えようと思った。

何をやろうかと考えて、一人では無理そうだったので手伝いを募ることにした。
協力者は兄弟。と言っても全員が付き合ってくれるはずもなく、誰にでも優しい十四松と謎の悪乗りのような形で乗っかってきた一松だけが付き合ってくれた。


準備はバッチリ。いざ、留衣の家へ。
約束した時間ぴったりに着くように家を出る。




「(さぶっ……!!)」




季節は真冬。外は当然、コートを着ても寒いくらいの温度。
死ぬほど寒いが道中凍りついている場合ではない。俺には留衣に愛を伝えるという使命があるのだから!

幸い、留衣とはご近所さんだから数分の我慢をすればそれで良い。
震える指でインターホンを鳴らす。




『はーい、いらっしゃ……』


「や、やあハニーお待たせ…」




寒すぎて言葉を話すだけでもかなり難しいがそんな事を言っている場合ではない。俺の精一杯の愛を伝えなくては。
何とか踏ん張って声を振り絞りポーズを決めた、その時。


――バタン。
確かに開いたはずのドアが留衣によって閉められた。




「……、えっ?」




そして取り残される俺。




「ハニー!!待ってくれ!!開けてくれ!!俺だ!!カラ松だ!!」


『………』


「ハニー…留衣!留衣ってばぁ…!!
寒い、割と真面目に寒い!死んじゃう!!入れてくれよぉ…!!」




吹き荒れる強風。凍りそうな気温の中、晒された体に容赦なく冷気が押し寄せる。
このままでは本当に凍死してしまう、家に帰るにも足はもう寒さで動きそうにない。必死にドアを叩いた。




「!!わっ」




急にドアが開いてぐらりと体が倒れ込む。
中で待機してた留衣が俺を受け止めて、盛大に顔を歪めた。




『風呂。直行。馬鹿かアンタは』




いつにも増して冷たい留衣は外の気温にも負けていなかった。




――




「ぁああー…しぬ…しぬ……」




ガチガチと体を震わせている俺は留衣の言う通り一直線に風呂場へ向かった。
彼女が用意してくれた椅子に座って体を丸める。冗談抜きで死ぬかと思うくらい寒かった。




『カラ松…そろそろ本気で脳の構造を疑うんだけど、本当にそれでこの先大丈夫?』


「あう…ぁー……」


『そりゃまともに喋れないよね、そのカッコで外歩いてきたら無理もないよね』




シャワーの準備をしているらしい留衣の気配を後ろで感じる。
わざわざ顔なんて見なくてもわかるくらい、彼女は俺に呆れた様子だった。


今の俺の格好は、パンツ一丁という見た目だけなら真夏かと思われてもおかしくない格好だ。
というのにももちろん理由があって、俺は今日留衣に逆バレンタインを仕掛けるために自分自身をチョコレートにして贈ることにしたのだ。
溢れる愛を伝えるために選んだのがこれだった。

寒いのは当然わかっていたが留衣へ愛を伝えられるならそれで良かった。溶かしたチョコレートを冷まして十四松に頭からかけてもらい、一松にはハケを使って塗りたくってもらった。
家を出てすぐはチョコレートは液体だったが、この寒さにより途中で固まった。おかげで今は全身バリバリである。

コートを着ても寒いのだからこんな格好で出歩けば凍死寸前なのは仕方ない。それでもなお伝えたいくらい留衣への愛が深いんだということを彼女に知ってもらえればそれで良かったのだが、今の彼女を見るとあんまり上手くいってないようだ。




「しゃむい…ああ……あったかい…」


『とりあえず手足だけ先に温めようか』




バキバキに固まったチョコレートの上から留衣がシャワーで湯をかける。冷え切った手足にはかなり熱く感じたが寒いよりマシだった。
だんだん慣れてきてその湯が気持ち良く感じる頃には、手足のチョコだけ綺麗に剥がれていた。




『ちょっとあったまったとこで聞きたいんだけど、カラ松はほんとに何がしたかったの?』


「留衣に…バレンタイン……」


『それはわかったけど、何でこんなことになったわけ?』


「愛を伝えようと思って、ただ普通にチョコあげるよりインパクトあるかなって…留衣への好きって気持ちを表現しようと……」


『……ハァ、気持ちはわかったから今後は死ぬような真似はしないでもらえる?』


「ごめんなしゃい…」




喜んでもらいたかったけど、呆れられた上に怒られてしまった。
上手くいかないなぁなんて思いながらへこたれる。下を向いてしょんぼりしてたら、留衣が息を吐いてからこちらを向いた。




『流す前に聞いとく。カラ松は何、わたしに食べてもらいたかったの?』


「え」


『だってそうでしょ?自分がチョコになって歩いてきたんでしょ。わたしはどうすればいいの?
食べて欲しかったくらいしか思いつかないんだけど、違うの?』


「え、と」




すっかりあったまった俺の両手をにぎにぎしてくる留衣と目が合った。


そういえば俺、結局何がしたかったんだろう。
愛を伝えるのはいいけど、自分がチョコになったのだから留衣の言う通り最終的には食べてもらいたかったのだろうか?
“伝える”ことを重視していたのでそこまではあんまり考えていなかった。

でも、チョコになるってそういうことだよな。留衣に食べて欲しかったのかな。
それを無意識のうちに実行までしてしまうなんて、今になって恥ずかしくなってきた。




「食べて欲しい、です…」


『……じゃあまあ、適当にいただきます』




留衣がシャワーを止める。
体温でチョコが溶けそうなくらい、体が熱かった。




――




<<prev  next>>
back