全員集合!


 




「ねえ母さん、インターホン鳴ってるよ」




いつも通り家でごろごろしていたら、鳴り響いたのはベルの音。
それも1回じゃなくて、さっきので3回目。というのも原因は誰も出ないからなのだけれど。




「あんた達、誰でもいいから出てちょうだい。母さん今手が離せないの」


「じゃあおそ松兄さんよろしく〜」


「何で俺なの!?仕方ねえなあ…」




暇な奴行ってこい、と言ったところで全員暇か。ゲームしてたり本読んでたり昼寝してたり、やってることに大差はない。
母に言われた以上誰かしらが動かねばならないわけで、結局重い腰を上げたのは自分だった。


それにしてもこんな家にお客さんなんて一体誰だろう。セールスならわざわざ3回インターホン鳴らすほど粘らないだろうし。
郵便なら母さんが言ってくるだろうし。

さっさと終わらせて漫画の続きを読もう、なんて考えながら玄関へ向かう。




「はいどーも、どちら様……」


『こんにちは』


「………、へっ」




ガラガラと引き戸を開ければ、目の前に現れたのは一人の女の子。
まさか女の子が家に来るだなんて微塵も思ってもみなかった俺は反射的に間抜けな声を上げる。

え、なぜこの家に女の子が。家間違えたのか?
トド松の友達かとも疑ったが、別にあいつ何も言ってなかったし。




「えーっと…どちら様?」


『近所に引っ越してきた木下です、よろしくお願いします』


「!」


『これ、良ければ』




にこにこしながら差し出されたのはお菓子。ついぼうっとその子を見つめてしまって、首を傾げられて我に返り慌てて受け取る。
トト子ちゃん以外にこのあたりには女の子はいないから、こんなことになるとは思ってもみなかった。




「こんにちは。引っ越してきたのはあなただったのね」


「!
母さん。知ってたの?」


「ええ、先週ご両親からお話は伺ってたわ。あんた達、ご挨拶しに降りていらっしゃい!」


「えっあっ、ちょっと!」




後ろから現れた母さんが、まだ部屋で暇を持て余しているだろう兄弟達に呼びかける。
今この子の存在を知られたらまずいと反射的に止めたが手遅れで、次第にドタドタと足音が近づいてきた。


ダメだって母さん、今あいつら呼んだらダメだって、絶対騒がしくするから!




「なになに母さん、お客さん!?…あれっ女の子!?女の子だ!!」


「よりによってお前が最初か十四松!!やめろよ女の子なんて言ってあいつらが食いつかない訳が」


「何?カラ松ガールズがとうとう家にまで……」


「えっ女の子!?言ってくれれば僕ちゃんと着替えてきたのに!」


「うちに女の子なんて……明日は雪?」


「………」




十四松を皮切りに全員集合した兄弟。思ったとおり、一気に騒がしくなる玄関。
そしてこちらも思ったとおり、ぽかんとした様子の女の子。そりゃそうだよな、同じ顔が突然6つも揃ったら驚くよな。

母さんが「うちの六つ子よ、よろしくね」と改めて俺らを紹介する。
目をぱちくりさせながらも「よろしくお願いします」とお辞儀をした女の子は育ちが良さそうな子だ。




「弟がうるさくてごめんな。俺が長男の松野おそ松!ところで名前はなんていうの?」


『留衣です』


「留衣ちゃん、これからよろしくな!」




そう言って笑いかけたら笑顔で返してくれた。手を振って歩いていく彼女を、全員で手を振って見送る。

その後彼女から貰ったお菓子を兄弟で奪い合いながら食べたのは言うまでもない。




――




あれから3年。

初対面でいきなりタメ口を聞いた留衣ちゃんが実は俺らより2つ年上だったことが判明したり、ちょくちょくお菓子を持って家に来る留衣ちゃんと一緒に遊んだり、成人したり、ニートになったり。




「そんなこんなで俺らももう3年の付き合いですよ」


『わたしを彼女みたいに言うのやめてくれる?』


「相変わらず冷たいな〜」




今じゃ互いの家に上がり込むのも慣れた仲。というのも留衣は一人暮らしで、留衣の親から母さんに事前に連絡があったのは、このあたりで同じくらいの年齢の子供がいた母さんに留衣のことをよろしくとお願いされていたかららしい。
六つ子全員が男である分、母さんも母さんで留衣のことをよく可愛がっていた。


初期でこそ誰が誰だか判別するのに苦労してたけど、今はもうお手の物。
おかげで何が悪いんだか、俺は邪険に扱われることが多い。




「何で俺には冷たいわけ〜?」


『それ自分から聞く?心当たりあるんじゃないの?』


「俺の童貞あげるからさぁ、仲良くしようよ〜」


『そういうとこが嫌だって言ってるの』


「留衣ちゃん、続きここに置いとくね」


『ありがとー』




チョロ松と一緒に部屋にあった漫画を読んでいて、こちらには見向きもしない留衣。ひどい。
ぎゅっと腕に抱きついたら今度はめちゃくちゃ嫌そうな目で見られた。ひどい。




「フッ、大変そうだな留衣……俺と愛の逃避行でもするか?」


『そうだカラ松、今度一緒にカフェ行かない?気になるとこがあるの』


「えっ、…しし仕方ない、お前がそんなに俺と」


「それなら僕と行こう留衣!絶対カラ松兄さん一緒に歩くのも嫌な格好してくるよ?」


『トド松は他の女の子と行ってらっしゃい』


「やだぁ〜!留衣と行くー!!うわぁん留衣冷たいー!!」




トド松にも何故か俺同様あたりが強い。あいつはよく女の子と一緒にいるくせに、留衣のことは未だに落とせていない。

一方その痛々しい言動から女の子とは無縁のカラ松にはやたらと甘い。トド松も言ってたけど、あれは俺からしても心外だ。キラッキラのズボン履いて外を出歩いてる奴のどこがいいのかさっぱりわからない。




「どーーーーーん!!!」


『ぅぶっ!?』


「…留衣が潰れるからやめて」




何を思ったか、真正面から突然飛び込んだ十四松を顔面からモロに受け止めた留衣は後ろへ倒れ込む。スカートだったら良かったのに。

「本が折れ曲がっちゃうでしょ」と自分よりも本のことを心配する留衣は真上にいる十四松を見上げ、呆れながらもその頭を撫でる。いいなぁ、あんなの俺がやったらまず間違いなくビンタ食らって終わりだ。

傍で一部始終を見ていた一松は猫を撫でる手を止めて留衣の心配。友達なんていない要らない必要ないと毎回言ってるけど、留衣とは仲良いもんな。


そんなこんなで、これからも変わらない日常を過ごす訳だ。




「ひたすら遊んで暮らしてえ」


『せめてバイトくらいやったら?』


「バイトしたら俺と結婚してくれる?」


『何でおそ松と?やだよ』


「キビシー!じゃあ結婚まで行かなくていいから彼女になって!」


『何でおそ松と?やだよ』


「うっ……大事なことだから2回言いますってか…留衣の風当たりが強すぎる…」


「…兄さんのそのへこたれない精神もすごいと思うよ」




六つ子は六人の仲間じゃなくて六人の敵同士。全員留衣を落とそうと必死だけど、留衣はそんな気が全くなくて毎回あしらわれながら過ごしている。今はそんな毎日が楽しいから、これがずっと続けばいいのに、なんて。

泣き真似をする俺の頭を他の兄弟に気付かれないようにさりげなく撫でてくれた留衣の愛を感じながら、飽きもせずにまたその腕に抱きついた。






全員集合!


(おそ松兄さんずるい!僕も留衣にぎゅってする!)
(ここは長男様の特等席だバカ野郎!)
(……、本がとても読みづらいんだけど)





END.





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