久しぶりに待受を変えました


 



『あ、おかえり〜。お邪魔してまーす』


「「「は?」」」




心臓が飛び出そうになるっていうのはこういうのを言うんだろうな。
この状況を見た最初の感想はそれだった。

今日は特にやることもないので六人揃ってパチンコに出かけていた。
僕の成績はそんなに目立って良かったわけじゃないけど、おそ松兄さんが当てたから今日の晩御飯は寿司でも取るかぁなんて言ってみんなで帰ってきた。


自分達の部屋に行く前に必ず通るリビング。
声がしたのはそこからだった。別にそこまでは良かった。




「○×△♯♭★※〜!!?」


「え!?どういう状況!!?」


「「なんで留衣がトド松の服着てんの!?」」




リビングでくつろいでいたらしい留衣の服が、なぜかいつも僕が着ているパーカーだった。
胸元に大きな松マークが入っているから見間違えようがない。あれは僕の服だ。

二回ほど頬をつねって頭を叩いてみたけど、どうも夢でもなさそうだった。




『えーっと…』


「わたしが飲み物をこぼしちゃったのよ」


「「「!」」」




留衣に代わって説明をしてくれたのは母さんだった。

30分程前に家に来た留衣は僕らが帰ってくるのを待っていたらしい。
その間に母さんが用意した飲み物を留衣の服にこぼしてしまったらしく、今留衣の服は急遽洗濯中。
着るものがないのでとりあえず応急措置としてこうなった、とのこと。




「なんで俺の服にしてくれなかったのー!?」


「なんでトド松!?」




もちろん選択肢は僕の服以外にもあったはず。
その選択に納得がいかないらしい兄さん達が留衣に経緯の説明を求める。




『おそ松のはなんかダメな気がしたから最初に候補から外した』


「えー!!?どういうこと!?」


『カラ松でも良かったんだけど、借りた後のカラ松の身の危険を察知したからやめた』


「フッ…心配ありがとうハニー……。だが俺のを着て欲しかった…」


『チョロ松にはにゃーちゃんがいるので怒られそうだしやめた』


「ええっ…!留衣ちゃんなら大歓迎だったのに…!!」


『一松のはお母さんにまだ猫の毛の処理できてないから着させられないって言われた』


「…!!」


『十四松のは袖が長そうだったから。ただえさえサイズ大きいし』


「あちゃー」


『トド松も借りた後に危険が及ぶかもしれないけど、カラ松よりは対抗できるのかなーって…』


「ナイス判断!!留衣最高!!!」




言い分からすると何だか僕の扱いが雑な気もしたけど、良く言えば僕は強いと判断されたんだ。理由はどうであれ最後の二択でカラ松兄さんじゃなくて僕を選んでくれたんだ、僕は他の兄弟全員に勝ったんだ!
留衣からの「特別扱い」感に思わずガッツポーズをする。

全員揃ったところでじゃあ部屋に移動しようかと、留衣が立ち上がった。




「「「……」」」




その姿に全員が釘付けになる。
これ、ちょっとまずいかもな。男六人に女の子が紛れてる時点で結構まずいけど、今回は特別まずいかもしれない。




「……ねえ留衣、下ちゃんと履いてるよね?」


『ああ、もちろん。短いから見えないだけ』




一松兄さんが単刀直入に質問して、留衣がそれに率直に答える。

留衣は背が小さいから、僕のパーカーが膝丈よりちょっと短いくらいの丈になっている。
おかげで下に履いている短パンが完全に見えなくて、目のやり場にとても困る。が、シチュエーション的には最高の絵面。


大好きな子が彼シャツ状態。これで興奮しない男がこの世界のどこにいるというのだ。




「留衣、写真いいですか!!」


『…は?』




逃したら一生後悔するのでスマホを片手に全力で留衣に迫る。
気迫でもなんでも勝たねばならない。最悪隠し撮りも視野に入れなくてはならない。
いろいろ手段を考えていたが、留衣は案外あっさり許可を出してくれた。




「あーーー最高!留衣超かわいい!!Twitterに彼女ですって投稿していい!?」


『嘘は良くないと思うよ』


「ダメかー!やっぱりダメかー!!まぁいいや待受にしよ!」


「トド松がいつにも増してクソウザイな」


「留衣、今度は俺の服着てくれ」


「カラ松兄さんの服なんて着たら留衣が汚れるでしょ!!」


「お前の服と何が違うんだ!?」


「あと留衣これ!これ被ってみて!」


「無視か!!」




フードを被せたりポーズをしてもらったりして写真をとにかく撮りまくる。留衣が呆れてるのはわかってるけど、それでも僕のわがままに付き合ってくれる留衣はやっぱり最高に優しい。

これで最後だからと出かけるときによく被っているニット帽を留衣に被せる。
余りに余る長い袖、だぼだぼの裾、裾から見える細い脚、ぶかぶかのニット帽。
僕の普段着を身につけた留衣が、僕の目の前に座っている。




「結婚しよ!!!」


『えー…。……考えとくよ』


「「「考えなくていいからね!?」」」




最高にかわいい大好きな留衣に言った言葉は、あながち冗談というわけでもなかった。






久しぶりに待受を変えました


(いつかホントに彼女になった時に僕の彼女ですって投稿するんだ〜!)
(そんな日が来ると思うなよ!!)
(全力で阻止してやる)
(ところでトド松、さっきの写真加工したら俺らの服の色になったりしない?)




END.






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