HappyWhiteDay1
Happy White Day
おそ松の場合
「あのっ、これ!」
おそ松が一人で家までやって来た。目的なら大体分かっている。
3月14日、今日はホワイトデー。
案の定、彼を招き入れて玄関のドアが閉まると同時にプレゼントらしきものを差し出される。
明らかに去年と違ったのは彼の“態度”だった。
「あの……ごめん、全然うまくいかなくて…」
『…え、もしかして作ったの?』
手渡されたのは、お世辞にも綺麗とは言えないラッピングが施された少し大きめサイズの箱。
箱はところどころ潰れて凹んでるし、結ばれたリボンの端の長さが左右で10センチくらい違う。見るからに手作りされたものだった。
私の言葉におそ松は遠慮がちに頷く。
「留衣、どうせあいつらからも貰うんだろ?だったら何か違うもの渡さないと印象に残らないじゃん?
いつも留衣から貰う手作りのお菓子がすげー嬉しいから、俺も…凝らないやつなら出来るかなって思って…」
『うそ、中身も手作り?』
「うん…。チョコ溶かして型に入れるくらい出来ると思ったからやってみたんだけど……。
はみ出るしこぼれるし…水が入ったっぽくて固まっちゃうしで…全然うまくいかなくて……」
箱をぎゅっと抱えるおそ松。バカやってる普段の彼からは想像がつかない。
そもそもおそ松、料理とかやる人だったっけ。私の記憶には一コマもそんな場面が見当たらないけども。
「味も見た目も全然自信ないんだけど…こんなんでも受け取ってくれる…?」
『…おそ松?』
「ごめん、留衣のくれたやつに釣り合わないのはわかってる……。
でも…俺じゃこれぐらいしかできなくてぇ……っ」
『ちょ、』
「ぐちゃぐちゃだけど、気持ちだけは込めたつもりだからぁ……!!」
『おそ松、大丈夫だから!大丈夫だからね!!』
今日は常に眉がハの字だなあと思っていたらついに彼が泣き出した。
慌てて宥めにかかる。この人、滅多に本気で泣くなんてことしないんだけども。
でもそれだけ真剣になってくれたかと思うと、それはそれで泣き顔も含めて全部が嬉しい。
『今開けちゃってもいーい?』
「…うん」
『ほら、おいで』
「うん……」
玄関先で座って、隣におそ松を呼んだ。
この人のことだから本当に一生懸命作ってくれたのだろう。
歪な形の箱から出てきた歪な形のチョコレートを、彼の頭を撫でてから口の中へ放り込んだ。
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