2


 



『みんなコーヒーなの?』


「トド松がこれしかくれなかったー!!」


『あ、そうなの…』




トド松がスタバァでバイトを始めたという報告を受けたので、せっかくだし覗きに行くかと少々遠回りしてお店に寄った。

あんまり長居してもアレだし、課題をある程度進めたら帰ろうと思っていたのに、偶然(?)トド松以外の兄弟と出くわしたためそこそこ長時間の滞在になりそうな上に課題は進められそうにない。
しかし出会ってしまったものは仕方がない、普通にお茶をして帰るかと窓際の席に座る。




「じゃあ長男の俺は留衣の隣〜♪」


『………』


「何でそんな冷たい目で見んの!?留衣最近やけに俺に冷たくない!?」


『いや別にいいけど…』


「じゃあ反対側は僕ね!!!」




ガタガタと隣におそ松が座って、反対側に十四松が座る。その外側にカラ松と一松、チョロ松。レストランでもないのに、だいぶ大所帯だ。




「なにそれ美味そう!チョコかかってる!!」


『うん、トド松が内緒でサービスしてくれたの。十四松もうちょっと声のボリューム下げて…ここカフェだから』


「あっ、ごめんなさい」


『前のお店で何したんだか知らないけど、今日はトド松に協力してあげてね』




頼むつもりのなかったパフェには本来なら有料のチョコソースがけサービス。さっきトド松がこっそりやってくれた。
みんなで食べようと思っていたそれに十四松が隣ではしゃぎ始める。しー、と人差し指を立てたら彼は長い袖で自分の口を塞いだ。




「あんなドライモンスターかばっても良いことねーぞ留衣。あいつこの前俺らのことなんて言ってたと思う?
う○こだよう○こ!酷くない!?兄に向かって!!」


『お願いだからそういう単語は帰ってからにしておそ松』


「でもほんとなんだよ。俺達トイレの横に座らされて殺虫剤噴射されたんだよ?酷いでしょ?」


「そもそもバイトしてる理由が女の子と仲良くなるためだったしな〜」


『ニート満喫してる兄に言われてもねえ…働いてるだけ立派じゃん』


「えええこれでもあいつの肩持つの!?殺虫剤だぞ!?」


「う○こと言えば一松兄さんが面白かった!兄さん店の中でう○こしようとしてトド松にぶん投げられてたんだよ!」


「!!」


『…公然猥褻で捕まる前にやめた方がいいと思うよ』




揃いも揃ってカフェで何やってるんだ、こいつらは。なんとなくこの兄達が変なことをやらかしてトド松がバイトを辞めざるを得ない状況になったんだろうとは思ってたけど、実際はだいぶ酷いらしい。そんな中でまた兄弟に揃われちゃ絶望もするよね。




『お互い大変だったんだろうなってのはよく分かった。はい十四松、あーん』


「「!!!」」




さすがにそんな騒動に巻き込まれたくないし、トド松のためにも今日は平和に乗り切りたい。
パフェを食べたそうにそわそわしていた十四松の口にスプーンでそれを放り込む。お茶が終わったらとっとと退散しよう。




「これおいしーね留衣!もっと食べたい!」


『どうぞ〜』


「んまー!あっ留衣も食べる?あーん!」




十四松は声のボリュームが大きいだけで基本的には無害。心底幸せそうにパフェを頬張る彼は見ているだけで和む。
他の兄弟も話に聞くような奇行は私の前ではやらない、気がする。今回は多分おそ松が変なことを平気で口走るのをどうにかすれば大丈夫なのではないだろうか。

十四松の遠慮のない山盛りの“ひとくち”を貰っていたら、隣でおそ松が物欲しそうにこちらを見てきた。




「ねえ留衣、俺には〜?ねえねえ」


『…あーん』


「っ!」




崩されたパフェのてっぺん。その横あたりをスプーンに乗せておそ松の口元へ持って行く。
一瞬戸惑ったように見えたものの、すぐ口を開いてそれを食べた。




「不意打ちやめろよお……ちくしょお………」


『じゃあどうすりゃいいのさ…』


「俺もやり返す!ほら!」


『…ん、おいしい』




もぐもぐした後に顔を手で覆うおそ松。耳が赤かったから照れてることは分かったけど、言いだしっぺなのに照れる理由はよく分からない。
本日ふたくち目のパフェを頬張っているその先で、カラ松がしきりにサングラスを上下しているのが見えた。




『おそ松、カラ松とチェンジ』


「え〜!?」


『パフェ溶けちゃうでしょ。早く』




サングラスで目を隠しているつもりなのか知らないが、ちらちら視線を向けられては気になって仕方がない。
大方構って欲しいのだろう、カラ松もああ見えて構ってちゃんだから。

隣に座るなり「そんなに早く俺と隣になりたかったのか?」などと言い始めたカラ松、要らないセリフがだらだらと続きそうだったのでさっさと口にパフェを押し込んだ。




『カラ松ってコーヒー飲める人だっけ?』


「フ、飲めないわけがないだろう?」


『…ほんとに?』


「……。
…実はあんまり好きじゃない……」




未だなみなみと注がれたままの彼のコーヒーは多分全く手をつけられていない。
コーヒーを飲んでいるカラ松の姿が記憶になかったので質問をしたら案の定、ぼそぼそと小声で返事が来た。




『わたしはコーヒー全然飲めないんだよね〜少しも飲めないや』


「そうなのか?砂糖とミルク入れても?」


『それは分かんない。やってみてよ』


「ん?そうだな……」




手元の自分のコーヒーに砂糖とミルクを入れ始めるカラ松。
ストローをマドラー代わりにして混ぜて、黒かった液体がうす茶色へと変化していく。

「どうだ」とカップを差し出されたので口をつけた。




『これなら平気かも。…カラ松は?』


「……、…へいき」


「…あー、そういうことね〜!相変わらずやり手だなァ」


『いやいや、コーヒーだめなのは本当だから』


「…これ以上俺をお前の虜にしないでくれ……」




一連の流れを見ていたおそ松が私の思考を理解したようで、茶化すようにケラケラと笑った。
それに続いてカラ松も分かったみたいで、ぼぼぼっと顔を赤くして俯く。カラ松が人前でコーヒーを甘くすることができないことくらい、言われなくても分かるよ。

真っ赤な顔してコーヒーを飲み始めたカラ松に笑いつつ、反対側にいた十四松に向き直る。




『十四松、チョロ松とチェンジ』


「あいあいさー!」







<<prev  next>>
back