Trick or...?
午後の2時過ぎに家に行ったら留守だったので、今日は出かけてるんだと思って夜の6時に出直した。
「「「トリックオアトリート!」」」
『…ああ…いらっしゃい』
窓から電気がついてるのが見えて、今度こそとインターホンを鳴らす。
ドアが開いたと同時に六人揃ってそう言った、しかし彼女の反応は思っていたのと違った。
『お菓子なら棚に入ってるから好きなの持って行きなさい…勝手に入っていいから』
「…あれ?留衣元気ない?具合でも悪い?」
「風邪ひいたー!?」
のろのろと家の中へ引き返していく留衣。おかしい、いつもだったらもっと笑顔で出迎えてくれるんだけど。
「お邪魔します」と家へ上がり込んだら、留衣は「寝不足なの」と言いながらこちらを振り向いた。
「寝不足?」
『そ…昨日課題のせいで4時間しか寝れなかったから…』
「風邪じゃなくて良かったけど、それはそれで辛いね…」
『ま、そういうわけだから気にしないで…。……ん、お菓子要らないの?』
「「「……」」」
欠伸をしながらソファーに座る留衣を前に、揃って動かなくなった俺達。
今日はハロウィン。
本来なら子供が仮装をしてお菓子を貰うイベントだから俺らみたいな成人男性が集りに来るのは違うと思うけど、留衣の家に来る口実にこのイベントを利用していたりする。もちろんお菓子も欲しい。
俺らの仮装を見て留衣もそれなりに楽しんでるみたいだから、この通り恒例行事として根付いている。
でも今回は、留衣には楽しむ余裕がないみたいだ。
「お菓子は欲しいけど、ほら、俺達ってトリックオアトリートっていうかトリックオア留衣みたいなところあるじゃん?」
『なにそのわたしに損しかないやつ』
「留衣オア留衣!!」
『…十四松、オアの意味わかってる?』
「うーん、僕ら留衣ちゃんに構って貰うついでにお菓子貰いに来てるとこあるもんね…」
「留衣から貰うことに意義があるんだよね〜!」
「ぶっちゃけ菓子くらい小遣いで買えるしな…」
『皆様正直にどうも』
「ハニー、寝不足ならこの俺が腕枕を…」
「カラ松兄さんは黙っててくれる?」
寝不足な留衣が元気になる方法はひとつ。睡眠だ。
でも寝ちゃったらここでハロウィンは終了。いつもならこの後は貰ったお菓子を一緒に食べながらわいわいする時間のはず。
留衣もそれを分かってるから、欠伸はしても寝転がりはしない。
さてどうするか。留衣に無理はして欲しくない。かと言ってこんな数分で年に一回のハロウィンが終わってしまうのも悲しい。
「帰る?」「でもせっかく来たのに」みたいな会話を目線だけでしながら様子を窺っていたら、座っていた留衣が立ち上がった。
『じゃあ今からみんなで昼寝でもどう?』
「「「えっ」」」
『トリックオアわたしなんでしょ。正直ほんと眠いから一回寝ないとやってらんない……』
目を擦りながら「この家じゃ狭いからあんたらの家ね」と歩いていく留衣。
一緒に寝ようなんて今までただの一度も言われたことのない言葉に耳を疑うが、寝不足で思考回路があまり回っていないのだろう。
予想もしていなかった事態に慌てるやら興奮するやら、バタバタと留衣の後を追った。
「お菓子!お菓子適当に持ってきたけどいい!?」
『どうぞ…』
「フッ、ハニーの隣は腕枕担当のこの俺で決まりだな」
「何言っちゃってんの?平等にジャンケンに決まってんでしょ?」
「おそ松兄さんは過去に一回経験済みだからノーカンね!!」
「は!?何それ!?」
「……俺はむしろなるべく遠い方が…」
「一松は屁こくから隣ダメだわ」
仮装する成人男性六人に囲まれる普通の女の子一人。
傍から見たら変な集団なんだろうなあと思いつつ、一風変わったハロウィンの予感に胸を躍らせた。
Trick or...?
(ハロウィンに六人の男に囲まれて昼寝してイタズラされない自信があるのもすごいよねぇ)
(無防備過ぎるのも生殺しできっついな)
(俺らが手を出せないことは留衣が一番よく知っているからな…)
(そのへんは寝不足でもさすがに留衣ちゃんって感じ)
END.
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