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『…んあ?これはまたみんなお揃いで』


「留衣!」




夜。
もう日もとっぷり暮れて辺りは真っ暗。チビ太のおでん屋さんの明かりと街灯がとても明るく感じる。


ついこの前仲良くなった女の子に告白して、玉砕して。それでもおそ松兄さんに促されて駅まで行って。
もう二度と会うことのないであろうその子を、電車が見えなくなるまで見送った。

自分の中で、初めて実ったと思った恋。デートだってした。プリクラも撮った。兄さん達もトド松も、精一杯応援してくれた。

でも彼女は田舎に帰らなくちゃいけないと言って、フられたその日に新幹線に乗って行ってしまった。もう会うことはない。
悲しかった。とても悲しかった。


いつもなら兄弟みんなでお酒を飲んで楽しんでるのに今日は飲む気になれない。
ひたすら泣いてたら、よく知った人が通りかかった。




『またツケで払うつもり?チビ太もそろそろちゃんと叱らないと……ってあれ、十四松?どしたの?』


「十四松兄さんは好きな子に振られてセンチメンタルなの」


『え?フられたの?てか好きな子いたの?』


「うぇええん……留衣…」




自分の様子がおかしいと思ったのか、心配そうに顔を覗き込んでくる留衣。
――僕の、初恋の人。


その人は僕の隣に座ると、縋り付いた僕の涙を拭ってから頭を撫でてくれた。




『よしよし…一回くらいフられてもくじけるなって!アタックアタック!』


「それがねぇ、その子田舎に帰っちゃったらしくて、もう会えないんだって」


『……あら。そうだったの』


「う……」




トド松から事情を聞いた留衣の撫でる手が止まる。

留衣も僕を応援してくれるらしい。
応援して貰えるのは嬉しいことであるはずなのに、それが心臓のどこかに突き刺さって、思わず手をぎゅっと握り締めた。




「あーあ、十四松に彼女が出来れば敵が一人減ると思ったんだけどな〜」




飲んでいたビールのグラスが空になっておかわりを貰うおそ松兄さんが、唐突にそんなことを言う。
もう何杯目なのかわからないそれを飲む彼を見やると目が合った。




「…敵?」


「ん〜?だってお前も留衣のこと好きなんだろ?」


「!」


「え?
でも十四松兄さん、ついさっき違う子に告白してフられたじゃん」


「それはそれ、これはこれ」


「え〜?」




「意味わかんなーい」とむくれるトド松。
おそ松兄さんは長男なだけあって、兄弟の中で一番兄弟のことを知っている。

さっき僕が留衣に応援されて素直に喜べなかった理由。心臓が軋んだ理由。
兄さんにはバレているのだろう。




「十四松兄さん、留衣のこと好き?」


「留衣のことは、ずーーーーっと前から好きだよ」


「それは知ってるけどさ〜。
さっきの女の子みたいに“好き”かどうかってこと!」


「うん、好き!」


「…も〜、それじゃいつもの調子過ぎてわかんないよ〜」


「………。
だって、留衣には僕の片想いで終わりだもん」


「…!」




ようやく涙も引っ込んできた。今からなら、お酒もいけそう。

一番遠いところに座っているトド松が少し驚いたような顔をしながら、頬杖をついてこちらを窺う。




「僕はもう2年くらい前からずーっと留衣のことが好き。でも留衣は兄さん達やトド松の方が好きだもんね、僕見ててわかるよ。
留衣は僕のこと可愛がってくれるけど、留衣の好きと僕の好きは、違うもん」




言いたいことを全部吐いてからビールを喉に通す。だんだん調子が戻ってきた。
飲んで、食べて、寝て、しばらく時間が経てばまたいつも通りの自分に戻っているはず。

待っていても全然返事を寄越さないトド松にどうしたんだろうと思い目を向けると、彼は「そっち」という風に指をさしていた。
さされた方向にぐるりと首を回転する。




『さっきからずっと思ってたんだけど、本人ここにいます。何?突然の告白タイム?』


「………あっ、」




ニヤニヤしながらこちらを見やる留衣。まずい、いつもだったらこんな時間に留衣と一緒にいるなんてことがないから全然意識していなかった。

別に酔いが回った訳ではないだろうが、瞬間的に顔が熱くなる。




「さっきの子にフられたからやっぱり留衣に逆戻りか?その程度の気持ちじゃ留衣はあげられねえなあ」


『わたしいつからおそ松のものになった?』


「なっ、違う、僕はほんとに本気で、留衣のこと大好きで、ずっと前から、…」


「でもあの子みたいに告白はしないんだろ?」


「……うん。留衣は僕のこと、弟としてしか見てないのわかってるし」




告白しないんだろ、なんて会話を本人の目の前でやっている時点で告白とほぼ変わらないような気もするが、返事を求めていない点では少し違うのだろうか。仮にそうだとしてもだいぶおかしなやりとりだとは思う。

隣の留衣はいつも通りあっさりしていた。
グラスに注がれていた液体をごくりと一口飲んでから口を開く。




『弟として見てる?わたしそんなこと言ったっけな』


「別に言われた訳じゃないけど…」


「十四松に限らず他も似たようなもんだけどな。実際年下だし」




留衣の僕に対する扱いは、弟を可愛がるお姉ちゃんと同じものだ。少なくとも恋愛対象ではないと思う。

多少行き過ぎた行為はあれど、“一線”は越えていないしこの先も恋愛関係に発展することはない。多分それは他の兄弟も同じで、同じように感じているはず。




『…みんなのことを弟だと思ったことはないよ?』


「でも男とも思ってないでしょ?」


「そこはトド松に同意だな」


『そんなことないって』


「…あるよ。じゃなかったら俺らとあんなことできない」


「異性の仲良しにしては行き過ぎてるもんね〜」


『そうかなぁ。十四松のことだって、ちゃんと男の子として見てるつもりだけど』


「見てない。絶対見てない!」


『……みんなしてそんなに全否定?わたしちょっと悲しい』




困ったように頬をかいた留衣。
留衣が言い負かされているのは珍しいかも、なんてビールを飲みながら考える。だいぶ、回ってきた。






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