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『行ってきまーす』
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
朝七時前。
いつもどおりお母さんに行ってきますと告げ、家を出た。
制服に学生バッグ、そこらへんにいるような普通の女子高生。
唯一違うのは、登校が一人じゃないということ。
私は少し遠くから学校に通っているから、普段は一人。
ゲームの人物として知ってるグリーンが現実世界に現れて一週間。
かなり振り回されてるけど、平凡だった毎日がすごく楽しい。
ただ、これからが本番みたいで。
「へへ」
『…ぐり、』
「いいじゃん、恋人設定だろ」
何の恥じらいもなく繋がれる手。
一週間経ったけど、いまいちグリーンの思考が読めない。
こっちの気持ちはなんだと思われているのだろう。
『(恋人設定、か)』
昨日、学校に行くにあたってした話し合いを思い出す。
私がどれくらい好きかなんて、
きっとこの人は分かってない。
『駅まではバスで、電車は30分くらいね。
そこから少し歩いたら着くから』
「おー」
流したようにも聞こえる返事が返ってくる。
学校に着いてきたい、というので連れてきた。
どうやら一人で家にいるのが嫌ならしい。
ゲームでは常に強気だから意外だったけど、お姉さんが言うには“寂しがり”。さすが姉だ、弟のことはよく分かってる。
担任にはお母さんが連絡しておいてくれた。
一人連れがいるけど、授業に支障はきたさないからと。
詳しくは言えないけど事情があるということにしておいた。
もともと私の家がこんなだから、結構あっさり承諾を貰った。
バスと電車を乗り継いで、学校に着く。
グリーンの世界にも乗り物はあるから、さほど驚いたりはしていなかった。
周りに知っている人が居る…と、私が手を離す。
グリーンが腑に落ちない顔をしていた気がするけど、やっぱり恥ずかしい。
隣に居るだけで視線を集めるのに。
「おはよー乃亜!」
『おはよー』
「…乃亜、隣誰?」
「どーも、…乃亜の友達?」
『うん、そう』
友達が声をかけてきて、グリーンを見て首を傾げる。
一応服装はゲームのままはアレだから、土日のうちに新しく仕入れた私服。
私達は制服だから目立つには目立つけど、仕方ない。
というか、髪の色の時点でだいぶ目立ってる。
もともといるはずのない人物だし、気付く人はいないと思うんだけど。
グリーンも軽く挨拶する。
友達が私だけに聞こえるように耳打ちした。
「ちょっと乃亜、何このイケメン…」
『あはは……。
ただの連れだから、あんまり気にしないで』
やっぱりイケメンですよね。
私もそれはよく分かってる。
ゲームで嫌と言うほど見てきたから。
『じゃあ私、荷物置いてくるから』
「うん、また後で!」
『はーい』
友達と廊下で別れる。
私の学校はちょっと特殊というか、かなり校舎が広くてロッカーが教室と離れている。
授業は移動教室形式。
上着など余分なものをロッカーに詰め込んで、代わりに教科書をかばんに詰める。
話しかけられることこそないものの、やっぱりグリーンは注目の的状態。
そそくさと立ち去って、教室へと向かった。
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