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「乃亜、ジャージ似合ってるじゃん」
『別に普通でしょ…』
乃亜の近くにいる以外することがないオレは、体育も乃亜についていった。
近くで見学してるだけだし、授業の邪魔はしない。先生もオレの事は知ってる。
体育用のジャージが乃亜には大きくて、袖もまくって誤魔化していなければ手は全部隠れているだろう。
ズボンも見るからにゆるい。
靴のサイズもオレよりずっと小さいし、
……ああもう、
「(抱き締めたい、)」
ぎゅっ、て。意味もなく。
ここのとこ、オレはオレが分からない。
乃亜に懐きすぎなほど懐いてるのは自覚がある。
ただ、なんとなく、
乃亜に抱く感情が、変わってきている気がする。
「乃亜、がんばれよー!」
『ちょっと翠、声おっきいって…!』
もうすぐチャイムが鳴るので乃亜がみんなのとこに歩いていく。
オレは体育館の壁際に座って乃亜に手を振った。
叫べば、乃亜が顔を赤くして返してくる。
最初にウォーミングアップをして、チームに分かれて試合。
乃亜は自分でも言っていた通り、運動は苦手なよう。
少し遠慮がちに試合に参加する。
自分から進んで…とまではいかないものの、ちょくちょくパスの中継に入る。
体が小さいからか、こぼれ玉は取りやすいらしい。
何もしないでいるのには慣れてきたけど、やっぱり途中で眠くなる。
うとうとしつつ、終わるのを待っていた。
時間にして約一時間半、
授業が終わるチャイムで夢から現実に引き戻される。
途中で休み時間があったはずなのだが…寝惚けてたのか、あんまり記憶がなかった。
乃亜に寄りかかって寝ていたら撫でられた、気がする。
乃亜が着替え終わるまで待って、更衣室の前で合流する。
「お疲れ様、乃亜!」
『んー…』
「結構ボール取れてたじゃん、
ちょこちょこ動いてたの、かわいかったぜー」
『ちょっと翠……』
乃亜はどうも“かわいい”と言われる事に対処しづらいらしい。
友達からもしょっちゅう言われてるけど、毎回困った顔をしてる。
今回も同じ感じで、ちょっと顔を赤くしてむすっとしていた。
周りの事を気にしているらしい。
「あ、ボール落ちてる」
一個だけ、片付け忘れたのか隅にボールを見つける。
駆けて行ってそれを拾い、ついでに軽く弾ませる。
なんとなく近くにあったゴールに、ドリブルして入れて見せた。
おー、と乃亜の周りに居た女子から歓声が上がる。別に大したことはないと思うが。
乃亜をちらっと見てみると、隣の女子と会話していた。
…今の、見ててくれたかな、なんて。
「ねえねえ乃亜、翠くんと付き合ってるんでしょ?」
『え?』
「なんか乃亜は誤魔化してるけどさー、翠くん見てる限りそうにしか見えないんだけど!
翠くんすっごいかっこいいよね、羨ましい」
『そ、そりゃあね……かっこいい、けど…』
「だーれがかっこいいって?」
ぬっと会話に割って入る。
ボールは倉庫に戻してきた。
びくっと震える乃亜。
隣にいた友達も驚いていた。
「み、翠くん…!
びっくりした…」
「誰がかっこいいって、乃亜?」
『き、聞いてたの?』
「オレ以外のことじゃないよなー?」
つんつんと乃亜の頬をつつく。
別に自分の事をかっこいいとは思ってないけど、オレ以外のことだったらなんか嫌だ。
…妬いてるのか、オレ。
『み、翠のこと…だよ……』
「それならよし」
ぼそぼそと言う乃亜。
わしゃわしゃと頭を撫でれば、髪がぐしゃぐしゃになると軽く怒っていた。
悪い悪い、と髪を指でとかす。
「やっぱり二人とも、付き合ってるよね?」
「おー、まあなー」
『ちょっと、翠ってば』
乃亜の友達の言葉に軽く返す。
おおお、とその友達から歓声が上がった。
乃亜は案の定突っかかってくるけど、もう付き合ってると言っているような会話してるんだし、あまり問題ないと思うのだが。
実際は、あくまでも“設定”なんだけど。
『……お昼、行くよ翠』
「お、おお」
「じゃあね二人とも!」
『じゃあねー!』
ぐいっと腕を引っ張られる。
乃亜の友達は昼ごはんを売店で買うというので、校舎の入り口で別れた。
「なに乃亜、怒ってる?」
『怒ってない!』
「えー?じゃあなんだよ、照れてるのか?
いいだろ、設定したんだし活かしても」
『…もう、あんまりおおっぴらにしないで』
「はいはーい」
照れてることは否定しないらしい。
それより、今オレの腕を引っ張っている状態がそれっぽいことに気付いていないのか。
変なとこで天然だ。
しばらく歩いてからそれにようやく気付いた乃亜は、慌ててオレの腕から離れるのだった。
異世界生活8
これってもしかして?
(……もしかしなくてもさ)
END.
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_(:3」∠)_
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