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なんとなく気まずいまま午後の授業が終わる。
でも、その後のグリーンはいつものグリーンだった。
普段と同じように二人で帰宅する。
「乃亜、昼間のだけど」
『……う、ん』
手を洗い、甘いものが食べたくなってチョコを頬張っている最中。
昼間の例の話を切り出してきた。
甘えたなグリーンでも、かと言って昼間のようなグリーンでもない、真剣な顔のグリーン。
どくん、と心臓が波打つ。
「オレさ、やっぱり、乃亜のこと、好きだ」
『…!』
今までに何度か聞いた台詞。
改めて言われるような事ではない気がした。
ただあまりにも真剣な顔をして言うから、
どう返せばいいのか分からなくなる。
『ありがと、』
「…違うんだ乃亜、
乃亜が思ってる“好き”じゃねーんだ……」
『…え』
「乃亜、」
引き寄せられて抱き締められる。
最近じゃ当たり前みたいになってるその行為が、今回は違うものみたいに感じた。
背中に回された腕の力が強い。
「…乃亜、オレ、乃亜のこと、
一人の女の子として、好きなんだよ……」
『…!』
「友達とかじゃねえよ、好きだよ、乃亜……っ」
やけに切なく聞こえる台詞を理解するまでに時間がかかる。
理解してからも信じられない。
私を抱き締めているグリーンの腕が、震えている気がした。
「乃亜はオレのこと、好きなんだろ…?
それってやっぱり、ただのゲームに出てくるキャラクターの一人に過ぎないのか…?
キャラクターとして好きなだけなのか…?」
抱き締められたまま会話が続く。
グリーンの顔色は伺えない。
ただ、自分もどういう顔をしたらいいのか分からなくて、ひたすらにグリーンの胸に埋める。
聞かれてる、答えなきゃ。
そうは分かっていても、頭の中が全然整理できていなかった。
『……違う、』
「!」
『違うよ、グリーン』
必死に散らかってる言葉をつむぐ。
それはグリーンに実際会うよりも昔からあった言葉で。
伝える相手がいないはずの、行き場のなかった言葉。
『私、グリーンのこと、ずっと前から、』
本気の本気で、好きだったよ。
「…!」
『私、男の人苦手だったから……実在しない人ばっかり好きになってた。
でも、気持ちは本物だし……ばかにされても構わないって思ってた。相手が実在しなかっただけだって。
好きなんだもん、仕方ないじゃない』
「乃亜、」
『グリーンのこと会う前から好きだったけど、押し殺してた。
本気になっちゃいけないって分かってたし、グリーンはいつか帰るって思ってたから。
それに、ばかげてると思われそうだったし』
「……オレ、そんなこと思わねえよ?」
ぽんぽんと背中を軽く叩かれる。
安心する、グリーンの腕の中。
全部さらけ出しても平気だなと、心から感じた。
『ねえグリーン、』
「ん、」
『本気、……なっていいの?』
「…なれよ、乃亜」
少し離れて、ようやく二人で顔を合わせた。
グリーンの顔は、さっきと変わらず真剣だった。
「なあ乃亜、オレ今、ここにいるぜ」
『うん、』
「届く距離に、いるだろ」
『……うん、』
「好きだ、乃亜」
幸せ。
一緒にいるだけで幸せだけど、それ以上に、感じたことのないくらいの幸せが私を支配する。
それから片手で引き寄せられて唇を重ねるまでに、時間なんてかからなかった。
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