1









「…お邪魔します」


『そんなの言わなくてもいいのに』


「なんとなく…。
まだ母さんは帰らないのか?」


『えーと…あと1時間くらいかな』


「そうか」




買い物から帰宅する。
オレは別に家に帰ったわけではないけど。


買ったものを開封して袋を処分する。
一応オレはここに泊まりに来た設定なのだ。
明らかに新品には変わりないが…袋に入ったままよりはマシだろう。
何日泊まる事になるのかは見当もつかない。
長居すると迷惑なのは分かってるけど、帰る方法が分からない以上オレにもどうしようもない。


乃亜がソファーに座ったのでオレも隣に座る。
ふと、気になった事を聞いてみた。




「乃亜は、なんでそんなにオレに優しくしてくれんだ?」


『え?』




気になる。
別にオレは何もしてないのに、何もできないのに、初めて会ったオレに家に泊めてくれるどころか生活用品に服まで買ってくれた。
多分、このままいくなら食事も用意してくれると思う。
乃亜が呼んだ客でもない、突然現れた部外者なのに。


オレは乃亜のことを知らない。
もしこんな生活が何日も続くなら、オレも乃亜のことを知っておきたい。
乃亜はオレの事、どんな風に見てるのだろう。
少なくとも、オレはこっちでは“普通”じゃない。
ただの世間知らずな邪魔者にすぎないはずで、優しくしてくれるような理由なんてなさそうに思えた。



驚いた表情でしばらく固まる乃亜。
予想外の質問だっただろうか。
唐突なのは自分でも分かってる。

少しして、黙ってた乃亜が口を開いた。




『……好きだから』




そのとき初めて見せた顔で、乃亜は綺麗に笑って見せた。




「、っ」




とくん、と心臓が鳴る。
頬が熱を帯びた。

くす、と乃亜が笑う。




『……なんてね。
気にしないで、気軽にいてよ。自分の家みたいに』


「……さ、さんきゅ…」


『?
どうしたの?』


「え、や、その、びっくりしただけ……」


『そ?
…まあそうだよね、初めて会った人に言われてもねー』




「ただいまー」




「『!』」




会話を遮るように、バタン、とドアの閉まる音が聞こえた。












<<prev  next>>
back