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『お母さんだ…。
グリーン、ここにいて』
「お、おう」
乃亜が立ち上がる。
さっきとは別の感覚でどくんと心臓が鳴った。
「おかえり」と部屋のドアを開けて母親を迎え入れる。
当然、見知らぬ人間であるオレがいることに乃亜の母親は驚く。
目が合って、緊張しつつも何か言わなければとオレの口が動く。
「こ、こんにちは…」
「あら、お友達?」
『そうなの、…ちょっといろいろあってしばらく泊めておいてあげたいの、だめ?』
「泊める…?うちに?これまた急ね」
『かなりの急用なの、別にお母さんには迷惑かけないから』
「んー…。
……よく見なくてもイケメンじゃない、乃亜ってばいつの間にこんな子捕まえて」
『ち、違うってば!』
黙って会話を聞く。
誤解を解くべく乃亜が焦っているのを、呑気に優しそうなお母さんだなと思いつつ見守る。
オレも十分関わっているのだけども。
「別にいいわよ、でも大体のことは乃亜に任せるわね。
食事と洗濯くらいならお母さんも手伝えるけど。
お名前は?」
「翠、です」
「翠くんね。
何もない家だけど、ゆっくりしていって」
「ありがとうございます」
「じゃ、私は邪魔にならないように向こうの部屋でアイロンでもかけてるわね!
ついでにお風呂ためてくるから、20分位したら順番に入りなさい」
『だからそんなんじゃないって……!…はーい』
うふふ、と笑いながら部屋を出て行く母親。
なんとなく笑い方が乃亜と似ている気がした。
ため息とともに乃亜がこちらに戻ってくる。
『ごめんグリーン、やっぱり変な誤解が…』
「大丈夫だって!
ありがとな乃亜、なるべく迷惑かけないようにするからな」
ぼふ、とソファーに座りなおす乃亜。
申し訳なさそうな彼女の頭を軽くなでる。
どうやら泊めて貰えるみたいだけど、これから何日一緒にいるか。
だいぶ打ち解けているような気もするけど、まだ完全とはいえない。
乃亜はオレを知ってるんだから、オレの方から行かなければ。
二人の間に少し距離があったので、乃亜の方につめる。
ぴく、と反応したが乃亜は逃げる素振りはない。
少し不思議そうにオレを見上げてきた。
『…どうしたの、』
「なんでもない、なんとなく距離あったから」
『……そ。
グリーン、ずいぶん私のこと信頼してるみたいね』
「だって頼れるの他にいねーんだもん。
乃亜いなかったら、冗談抜きで数日後にオレ死んでるって」
『良かったね、うちにいて』
「ほんとにな。運命かもしんねえ」
『なにそれ』
くすくす、と乃亜が笑う。
でもあながち間違いじゃないと思うし、嘘ではないと思う。
運命なんて言葉、初めて使った気がしないでもない。
「乃亜、先風呂入って来いよ」
『いいの?』
「ああ、オレ待ってるから」
『…じゃ、入ってくる。
時間かかるかもよ?』
「大丈夫だって、今日はオレのせいで振り回したし…ゆっくりしてこいよな」
『ん』
立ち上がった乃亜を、手を振って見送った。
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