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『……、…リンク、』




いない。
どこを探してもいない。

リビングも、私の部屋も、普段使ってない物置同然の部屋も、トイレもお風呂場も洗面所も。
しまいにはベランダにまで足を踏み入れて、ぶわりと舞った私の髪がリアルであることを突き付けて。


玄関のカギは確かにかかっていた。
彼がどこかへ出かけたわけではないと分かっていた。
それでも受け止めきれなくて、彼が夜その体を沈めていたソファーにもたれかかって帰りを待つ。




『………、』




ふらりと向かった視線の先に映ったのは、帰宅時間を優に回った午後7時過ぎを指し示す時計の針。


――分かっていた。
心のどこかで分かっていた。


彼は出かけたのではない。このまま待っていたところで帰って来ない。いくら待ったところで、帰っては来ないのだと。

いや、違う。それでは語弊がある。
帰って来ないのではない。彼は居るべき場所へ、在るべき世界へ――彼自身が、帰ったのだ。




『……、リンク』




がらんとしたこの部屋はこんなにも広かっただろうか。
このソファーはこんなにも広く感じていただろうか。
今まで私はどう思って、何を考えてここで生きていただろうか。




『リンク、…』




その呼びかけに返事はない。
今まで一人で暮らしていた私には当然のことであったのに、無性に寂しくなって。

それからぼろぼろ零れ出した涙が止まらなくなるまでに、時間は要らなかった。




――




いつからだろう、あの人が好きだったのは。
今思えばそれはもうきっと何年も前のことで。
何年も前から知らず知らずのうちに惹かれていて。
気付けば次元の違うその人に本気で恋をしていて。


いつからだろう。
彼に帰って欲しくないと願ってしまったのは、彼がもしかしたらずっとここにいてくれるかもだなんて思ってしまったのは、彼がこれからも私をその目に映してくれると思ってしまったのは。



泣いても泣いても涙が枯れないことは今まで生きてきて今日初めて知った。しかしながら、ずっと泣いていても何も変わらないことを無意識のうちに自覚していたのか30分もすれば呼吸もだいぶ落ち着いた。

たった一週間やそこら過ごしただけで元の生活に戻れないくらいダメージを受けるなんてと、思っていた以上に依存していたらしい私自身に苦く笑う。



一人で食べる夕食は久しぶりに感じた。ふと手に取った小さなメモ書きにはあの時聞いたスープのレシピ。
せっかく一生懸命書きとめたそれも、しばらくはどこかに大事に仕舞われることになるだろうだなんて。きっとそれが私にあの人を思い出させてしまうから。今日買ってきた材料、何に使おうか。


何もかも振り払うかのようにやり始めた課題はいつもの倍速で終わってしまった。しかし時間を確認すれば寝るにはちょうどいい時間で、欠伸をしながら自分の部屋に向かう。

こんな状態でしっかり寝れるのだろうかと、そう考えながらふと視界に入ったのは机の上の見慣れない一枚の紙。




『……!』



手に取ったそれには初めて見た筆跡。
そういえばこれこの前リンクに渡した紙だったっけと思い出したのはその時で。

紙を持ってベッドに座りこんだ私は、また飽きもせずに一人で声を押し殺して泣いたのだった。












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