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『…はあ』


「?
ご、ごめん、もしかして不味かった?」


『ううん、すっごくおいしい』




とある休日、突然現れた異次元の人物と私は悠長に朝ごはんを食べていた。
もともとこの年齢で一人暮らしをしていた私はいつも一人で食事をしているが、今はその人と二人で向かい合って食事をしている。

“リンク”は前触れもなく突然ここにやってきた。
なぜなのかは本人にもわかっていないらしいのでこれから詳しく調べようと思っている。
生きている次元が違うはずなのだが、現にいるのだから仕方ない。
そしてそれで片付けて大して取り乱さなかった自分を褒めたい。


とりあえずせっかく起きたのだし朝ごはんでも作ろうと思ったところ、リンクが代わりに作ると言い出した。
そういえば彼もゲームでは一人暮らしのように見える。料理が上手なのはそのせいなのだろうかと食卓に並んだ朝食を見ながらふと思った。




「なんだ、良かった……どうしたんだ?
…俺のせいだと思うけど」


『ううん、別に……それは否定はできないけど』




家にあった材料で作ってくれたスープはなんとなく懐かしいような、あったかい味。
私好みの味ですごくおいしい。


ご飯がおいしいのはいいのだが、この先のことを考えるとどうしても溜息が出る。
何日居るのかは知らないが仮に当分帰れないとしたら。
耳の尖っているリンクをそう簡単に外には出せないし、彼はこっちの生活なんて知らないだろう。
草むらを掻き分ければお金が出てくるような世界じゃない。
働かなければ生きていけないのが基本だ。
考える事がありすぎて頭を抱えたくなった。


浮かない顔をしているであろう私に、リンクが申し訳なさそうに言う。




「ごめん、ほんとに……。
俺、帰れるようになったらすぐ帰るから…」


『あ、いいの、気にしないで』




しゅんとする彼に慌てて両手を振って否定する。
別にリンク自身が邪魔なわけではないのだ。
むしろその反対だなんて、彼には絶対に言えないのだけれど。


――できるならばすぐに帰してあげたい。
こんな知らない場所より、元の場所に帰ったほうがいいだろう。
リンクだって使命を果たしていない状態でこちらに来ているはずだ。


それは分かっている。分かっているけど。
どこかでこのまま帰したくないと思っている自分がいることが嫌だった。



リンクは私のことを知らないだろう。でも私はこの人を知っている。

――たとえ次元が違っても、私はこの人が確かに好きだった。変えられない事実だった。
今目の前にいる彼を視界に入れることがどうしても憚られて。出来るならば、いっそのこと。今すぐにでも消えてくれれば、そんな邪な思考回路も途切れてくれるかもしれないのに。




「…乃亜?」


『!』




不意に聞こえた私の名前に、どくりと心臓は波打った。
吸い込まれそうな青い瞳に囚われて、でもどうにか目を閉じて逃れることに成功して。

――だめだだめだだめだ。こんな私情を挟んではいられない。
私はなんとか原因を突き止めてリンクを元の世界に返さなくてはいけないのだ。
彼は彼の世界で、私は私が生きるべき世界でこれからを過ごすために。


全ての思考を断つように、器に残ったわずかなスープを飲み干した。








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