四日目-2
――
『最初はお野菜から見ようと思います』
「うむ!」
宿で用意していた着物に着替えた四人と並んで街を歩く。
買い出しは普段ほとんど一人でしているから、こんな人数で歩くのはなんだか新鮮だった。
「…善逸、俺達はただの荷物持ちだぞ」
「まだ荷物ないもーん」
宿を出たときから腕にくっついて離れない善逸くんは、炭治郎くんに窘められながらも上機嫌そうだった。少し歩きにくいけど、まあ可愛いからいいかななんて思う。
いつも通り一番近い八百屋から行くことにして四人を先導した。
「あら明華ちゃん、珍しいわねぇ」
八百屋に入って早々に「お客さん?」と馴染みのおばさんに聞かれる。そうなんです、鬼殺隊の方で、と紹介すると彼女は初日の私のように驚いた。その反応を見てやっぱり他の人もそう思うんだとちょっと安心する。鬼殺隊は怖そうだという印象はみんな同じらしい。
あまり広くはないお店の中を見て回る。何故か伊之助くんがやたらと楽しそうにうろうろ歩き回っていた。彼にとってこういう場所は物珍しいのだろうか。
元々買う予定だった白菜に加えて人参と玉ねぎを手に取って、そこではっとして隣にいた煉獄さんを見上げた。
『良ければ、皆様の好きな食べ物を教えてくださいませんか?お料理の参考にするので』
「ん?そうだな、俺は薩摩芋が好きだが…」
「俺はお姉さんの料理なら何でも!でもおやつがもっと食べたいかも〜!」
「天ぷら!!!海老がいい!!!」
『炭治郎くんは?』
「俺も明華さんが作った料理はどれも好きです!すごい贅沢させてもらってますし…家では、タラの芽が好きでよく食べてました」
なるほど。善逸くんだけ回答がぼんやりしてるけど、薩摩芋とタラの芽はここで買えそうだ。まだ日にちはあるから、献立は帰ってからゆっくり決めよう。
手に取ったものは善逸くんと炭治郎くんが持ってくれて、お金を払って外に出た。
「なんだか賑やかだと思ったら明華ちゃんか!珍しいな男連れなんて!」
『そ、そういうわけでは……』
続けてすぐ隣の魚屋さんに入って、やっぱり早々に声を掛けられた。意味ありげな御主人の言葉に慌てて首を振る。相変わらず腕に善逸くんがくっついているので仕方ないのだけど、変な勘違いを生んだらそれはそれでちょっと困るかも。くっつかれるのが嫌なわけじゃないけど、せめて人前ではやめるように言った方がいいのかな。
後でこっそりお願いしてみよう、とそのままお店の奥に行こうとしたら反対側から強い力で引かれた。
『わ…!?』
「我妻少年!そろそろ明華から離れろ!誤解を生む!」
ぐいっと肩を抱き寄せられて、びっくりして見上げたら煉獄さんがいてさらにびっくりした。突然のことに善逸くんも驚いたみたいで、数秒間ぽかんとしていたけど事態を把握して「あんたも別の誤解生みそうですけど!?」と叫ぶ。肩にはまだ煉獄さんの腕が回っていた。
「なんだ、随分男前な兄ちゃんがいるじゃねえか!」
「炎柱の煉獄杏寿郎だ!彼女の宿で世話になっている!」
「柱…!?ってことは鬼殺隊か!?すまねえ、仲良さそうだったから明華ちゃんの友達かと……」
「うむ!そのようなものだ!気にしないでくれ!!」
炎柱と聞いて怯んだ御主人に煉獄さんが朗らかに話し掛ける。その後は打ち解けたように、今日のお勧めはこれだとか新鮮な魚の見分け方だとかを話していた。その姿に本当に人見知りしない人だな…と思いつつも、意識はさっき腕を回された肩に向かう。
『(びっくりした……)』
すぐに冷静を装ったけど、心臓がまだドキドキしていた。急に近寄られると困る。うっかり至近距離で見上げてしまったのも良くなかった。
煉獄さんの人柄からして、多分普段から人との距離が近いのだろう。なんとなく想像がついた。善逸くんもそうだけど、そういう人って時々いる。
こちらばかり変に意識するのも申し訳ないし、どうにか慣れるか考えないようにするかしないと。
それより私は、今晩お造りにするお魚を選ばなくっちゃ。
気を取り直して店内を見渡す。
『…、善逸くん?』
じっと見られていることに気付いて名前を呼ぶ。けれど彼はすぐに「何でもないです!」と言って笑った。
作り笑いであることは分かったけど、追及しない方がいい気がしてそれ以上は何も聞かなかった。
その後もいくつかのお店に入って必要なものを一通り買い終えた私達は、再び横一列に並んで他愛のない話をしながら帰路に着いた。
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