四日目-3
――
「天ぷら!!」
『たくさん作ったから、いっぱい食べてね』
夕飯の準備が終わって食卓に並べる。持ちが悪いものからと考えた結果、今日はお造りと伊之助くんの好物を用意した。
「明華、」
『? はい』
早速海老天にがっつく伊之助くんを微笑ましく思っていると、少し控えめな声で煉獄さんに呼ばれたので傍に寄って膝をつく。
名前で呼ばれるの、まだちょっと慣れない。
「昼間は悪かった」
『え?何がですか?』
「君を引き寄せたとき、酷く驚いていたようだったから」
「すまなかったな」と謝られて慌てて首を振る。
私、そんなに顔に出てたんだ。一応あれでも表情はすぐ戻したつもりだったんだけど。
改めて言われると、今になって恥ずかしい。
『す、すみません…!煉獄さんがすごく綺麗な方なので、近付かれてちょっとびっくりしてしまって…』
「綺麗…?俺がか?」
『はい、初めてお会いしたときも絵画から抜け出したような方だと思って、それで……』
決して嫌だったわけじゃないことを伝えようとして必死に言葉を並べる。誰でもこんな美人に突然肩を抱き寄せられたらびっくりするはずだ。
どう言ったら不快な思いをさせずに伝えられるか考えた結果出てきた私の言葉に、煉獄さんはどこか驚いた様子だった。
「大袈裟だな、君は……綺麗と言われたのも初めてだ」
『えっ?よく言われませんか?』
「言われないな。…それは明華みたいな人に使う言葉だろう」
『えっ……』
予想外の返しに思わず固まる。煉獄さん、あんまりそういうことは言わなさそうだと思っていたのだけど。
どうやらその勘は当たっていたらしく、言った後に顔を赤くした彼は視線を床へと逸らした。
…まずい、妙な空気になってしまった。
「こ、この話はこれでお終いにしよう!!呼び止めてすまなかった!」
『は、はい!!』
急にいつもの声量で話されて、つられて私も大きな声で返事をしてしまう。なんだかもういろいろと恥ずかしい。
さっさとこの場を離れよう。そもそも仕事が残ってるんだから、ここであんまりゆっくりしてる場合でもない。
そそくさと部屋を出て襖を閉めると、その直後に大きな声が響いた。
「煉獄さんのバァーーーーカ!!!」
「なに!?」
「うわああ善逸!!」
一体何が起こったのかは分からないが、閉め切った襖をもう一度開ける勇気はなく。
騒がしい客室に背を向けて早歩きで人気のない廊下を歩く。
台所に戻って後片付けをしている間も、まだしばらく心臓は煩く鳴り続けていた。
四日目
(慣れるのかな、これ……)
END.
back