四日目-1


 



お魚と、白菜と、そろそろ切れそうだった醤油と砂糖。
それからお米ももう少し買っておかないと。

頭の中に「買うもの一覧」を思い浮かべながら草履を履く。夕飯の買い出しだけど、作る時間を考えると日が高い時間帯から出掛けないと間に合わない。
今回のお客様は食べる量が多いから、材料の調達も調理も時間が掛かる。その分作り甲斐があって私は楽しいけれど。


門の扉に手を掛けたところで遠くから声が聞こえて、思わずそちらを向く。庭で四人が訓練をしている最中だった。今日もみんな頑張ってるな。
偶然こちらを向いた善逸くんが私に気付いたようだったので、軽く手を振ってから買い物に行こうとした…のだけど。




「――明華お姉さぁああん!!!」


『(…あれ?)』




何故か彼が砂煙を上げながら凄い勢いでこちらへ走ってくる。お稽古中だったし、呼んだつもりはなかったのだけど。
駆け寄ってきたというより突っ込んできた善逸くんの勢いに少しばかり恐怖を覚えたが、避けるわけにもいかなかったので半歩後退る程度でなんとか堪えた。




「明華お姉さんどっか行くの!?お出掛け!?俺も一緒に行きたいなァア!!」


『え、えっと…ちょっと買い出しに…』


「そっか〜じゃあ荷物持ちが必要だね!!ね!!俺が全部持つから!!」




彼のことだしそのまま抱きついてくるかと思いきや、直前でピタリと止まったのでつい首を傾げてしまう。が、すぐに理由は分かった。すごい汗と泥汚れだ。訓練の厳しさがうかがえる。

どうやら荷物持ちをしてくれるみたいだが、大事なお客様にそんなことはさせられない。仮にお客様じゃなかったとしても、こんなに息を切らして見るからに疲れていそうな善逸くんに頼むのは申し訳ない。
返事に困っていたら、善逸くんの向こう側から同じく息を切らした炭治郎くんが走ってきた。




「すみませーん!善逸がまたご迷惑お掛けしてごめんなさい!」


『全然。こちらこそ、またお稽古の邪魔しちゃってごめんね…』


「邪魔なんかじゃないよォオお姉さんは俺の救いなの!!お願い俺を助けてえええ!!」


『助ける…?』




言い分がよく意味が分からず聞き返すと、善逸くんが目の前で切実といった風に両手を組んだ。




「今日まだ半日しか経ってないのに?朝から素振り1000回腕立て500回腹筋500回?
さっき宿の周り10周走って、またすぐに素振り追加で500回?
…全っ然休暇じゃない!!全然休めてない!!お姉さんといられるのもあと少しなのに、こんなのあんまりだ!!!」




「俺を荷物持ちとして連れてってくれよぉおお」と泣き始める善逸くんに苦笑いする。なるほど、お稽古を抜け出す口実が欲しいのね。煉獄さん、やっぱり相当厳しいんだ。

助けてあげたい気持ちはあるけど私が決められるものでもないし、どうしようかなと迷っていたら煉獄さんが歩いてくるのが見えたので頭を下げた。




「毎度毎度、我妻少年がすまない!これから出掛けるのか?」


『はい。晩御飯の材料を買いに行って参ります』


「そうか。…もし良ければ、同行させてもらえないか?荷物くらいなら持てるだろう!」


『「えっ?」』




連れ戻される!と咄嗟に私の後ろに隠れた善逸くんと声が被った。まさか彼と同じことを言われるとは思っていなかった。
私もてっきり、さっさと善逸くんを回収してお稽古に戻るものだとばかり。

しかしながら煉獄さんがそう言ったのにはちゃんと理由があって、「俺達がよく食べるから君は大変だろう」と続けて言われた。確かにそうなんだけど、頷くわけにはいかなくて言葉を濁す。煉獄さんは優しいからそこまで気を遣ってくれるみたいだけど、そんなことはお客様が気にすることじゃないし、私はそれが仕事だから。
さっき何気なく出掛ける理由を答えてしまったことを後悔する。適当に濁しておくべきだった。

困っているのを察したのか、煉獄さんは「そんなに気に病まないでくれ」と苦笑した。




「少年の言う通り、稽古に比べたら荷物持ちなんて軽いものだ。
それよりも君を余計に働かせてしまうのが申し訳ないし、…明華と話ができる、良い機会かと思って」




「どうだろうか?」と煉獄さんが首を傾げる。そんな風に言われてしまったら、もう私には断ることができない。




『…お言葉に甘えてもよろしいでしょうか?』


「勿論だ!着替えだけしてきたいんだが、大丈夫か?」


『はい、わたしも…皆様に手伝って頂けるのであれば、もう少しお金を持ってきます』


「やった〜〜〜!!明華お姉さんとランデブー〜〜!!」




後ろで善逸くんがぴょんぴょん跳ねる。なんだか目的が変わってるように聞こえたけど、そこは気にしない。
準備ができたら玄関で集合することに決まり、みんなで一度宿へと戻った。







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