六日目-1
楽しい時間はあっという間だというけれど。
「うっわ〜今日も豪華!!」
「あ!これタラの芽の天ぷらですか!?」
今回は特に早く感じたと思う。
四人に作る最後の夕餉。順番に並べていったら両脇で歓声が上がった。
明日も朝は用意するけど、ここまで豪華にはできないから。今のうちに美味しいものをたくさん食べてほしくていつも以上に気合いを入れた。
喜んでもらえた嬉しさが半分、こうして話せるのもあと少しだという寂しさが半分。
ちゃんと接客をしたのが初めてだったせいか、思ったより仲良くなったせいか。お客さんに対してこんな感情を抱いたのは初めてだった。
「美味しい!!明華さん、すっごく美味しいです!!」
『うん…ありがとう』
「あれ、明華お姉さん元気ない?もしかして俺が明日帰っちゃうのが寂しい!?」
『……うん、寂しくなるな』
せっかく炭治郎くんが褒めてくれたのに上手く笑えなかったみたいで。善逸くんに気に掛けられて、申し訳ないと思いつつも素直に頷く。
接客するたびにこんなんじゃだめだな。
下っ端だからしばらくは裏方仕事が続くと思ってたけど、私はそもそも接客に向いていないのかもしれない。この先も表には出ずに料理担当に専念した方が良いのかも。
自分で自分に苦笑いしていたら、ふと隣の善逸くんが顔を赤くしてこちらをじっと見ていることに気が付いた。
「明華お姉さん…やっぱり俺と結婚しない!?」
『け、結婚?』
「そう!!結婚しよ!!
俺がいないと寂しいんだよね!?俺ここに残るからさ!!雑用でも何でもやるし!!ね、結婚しよ!?」
ぎゅっと手を握られてまっすぐに見つめられる。その瞳に曇りはなかった。
…うーん、本気で言ってるのかな。いまいち真意が読み取れない。
善逸くん、可愛いしすっごく良い子なんだけど、こういう展開になってしまうとちょっと困る。結婚も何も付き合ってすらいないし、そんな大事なことをここで決めるのは良くないと思うし、出会ったばかりの私に躊躇いなく言えるってことは他の子にもきっと同じことを言っているのだと思うし。
断る理由はたくさんあったけど、純粋な目で見つめられて口に出すのが憚られる。どうしよう。
考えていたら、助け舟を出してくれたのは真向いに座っていた煉獄さんだった。
「あー……我妻少年、明華を困らせるな」
「俺は明華お姉さんの返事待ちなので!煉獄さんは口を」
「困らせるなと言ったのが聞こえなかったか?」
ピシリ。
突如聞いたことのない低い声が響いて、善逸くんだけでなくその場の空気も固まる。
煉獄さん、普段は優しいけど怒ると怖い人か。私が言われたわけじゃないのに冷や汗が出る。
迫力負けしていたら煉獄さんがはっとして、「すまない、つい」と慌てた様子で謝ってきた。
「おい明華、米おかわり!!」
『あ、うん!』
「…あ!明華さん、後でちょっとお時間いただけないですか?」
『? うん、大丈夫だよ』
伊之助くんに呼ばれて顔を上げる。気付けばもう善逸くんに握られていた両手は自由になっていた。
お茶碗を受け取り部屋を出ようとしたら今度は炭治郎くんに引き留められて、彼もおかわりなのかと思ったが違った。何の用事かは言われなかったけど二つ返事で応じて、ごはんをつぐために一旦外に出る。
その後入れ替わりで先輩に捕まり、手伝いが終わる頃には食事の後片付けの時間が迫っていて、お別れも近いというのにみんなと話すことは叶わなかった。
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