六日目-2


――




「お忙しいのにすみません」




仕事がひと段落したところで炭治郎くんに指定された場所に向かう。
先に着いていたらしい彼は縁側に腰掛けていて、「隣に来て頂けませんか」と言われたのでその横に腰を下ろした。




『炭治郎くん、何かあった?』


「その…明華さんに、お願いがあって」


『お願い?』




彼に呼び出されるような用事が思いつかなかったので何だろうと思っていたら、何やらお願い事があるらしく。
私にできることがあれば、と返したら炭治郎くんは何故か難しい顔をした後、意を決したようにこちらを振り返った。




「明華さん、どうか煉獄さんを幸せにしてあげてください!!」


『…えっ?』


「俺が頼むのは違うと思うんですけど!!でも!もう時間がないので!!」




やや大きな声ではっきり言い切られた割に内容が頭に入ってこない。…煉獄さんを?幸せに?
よく意味が分からず首を傾げていると、炭治郎くんが理由を話し始めた。




「俺、煉獄さんのこと凄く尊敬してるんです。煉獄さんは強くて頼りになって、俺やみんなを何度も命懸けで助けてくれました。
だから煉獄さんには絶対幸せになってほしいんです。いえ、なるべきなんです」


『え、えーっと…?』


「煉獄さん、いっつも周りのことばかり考えて自分は二の次って感じだから……でもここに来て明華さんに会って、俺確信したんです!煉獄さんがあんな態度を取った女の人、初めて見たので!!」




両手の拳を握ってこちらを見る炭治郎くんの目はさっきの善逸くんに似ていた。方向性は違うけど、言われた結果私が困るところまでは同じだ。
“幸せに”っていうのは多分、そういう意味…だよね。さっき善逸くんが私に言っていたような。
こっちはこっちでどう返せばいいのか分からない。今は助け舟を出してくれる人もいない。

炭治郎くんによると、煉獄さんが私に取った態度は間違いなく“気がある”と。さらに言うと彼は匂いで感情が分かるらしく、煉獄さんからそういう雰囲気の匂いがしたと。
そう言われてもにわかには信じがたく、やはり返事に困った。あんなに綺麗な人が私に気があるなんてとても思えないのだけど。話を聞けば聞くほど男女問わず人気がありそうな人だし、実際彼の人の良さは会って一週間足らずの私にもよく分かった。
そんな人から特別好いてもらえるようなことをした記憶が全くない。


しかしここで、わざわざ炭治郎くんが一人でこんな話をしに来た理由に感づく。彼は匂いで感情が分かると言っていた。
そうだとしたら、私が考えていたことも何となく分かっていたはずで。私が煉獄さんと話していたときの感情を彼が読み取っていたとしたら。

つまり、私の背中を押してくれているのだ。




『(時間がない……か)』




これが恋だと気付いていないこともなかったけれど。

伝えられる期限は明日の朝、彼らが旅立つまで。
正直、仮に時間があったとしても何も言わずに見送ったと思う。この感情に向き合ったところで、宿の人間とお客様の関係である以上は伝える気にならないと思うのだ。しかも今回は相手がお偉いさんなので余計に躊躇いがある。
炭治郎くんはそのあたりのことも考えたからこうして思い切った行動に出てくれたのだろうか。確かに何も言われなければ、私から持ち掛ける可能性は限りなくゼロに近い。
…でもだからといって、なあ。


黙って考えている間何も言わずただ静かに待っていてくれた彼の手を、自分の両手で掬い取る。







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