初日-2
『失礼します。お待たせして申し訳ございません。
本日皆様の御食事を担当させて頂きました、中藤と申します』
なるべく静かに襖を開け、すぐに一礼。瞬間、聞こえていた声がぴたりと止んだ。
数秒待ってから顔を上げ、恐る恐る目を開ける。ぱちり。ちょうど真向かいに座っていた、特徴的な髪色の男性と目が合った。
人数は四人。大きな机を四方から囲むように座っていて、目が合ったその人だけ背が高く大人びていた。きっとこの方が“煉獄様”だろう。
他の三人は明らかに私よりも年下で、「鬼殺隊」のあまりの若さに驚いてしまう。まさかこんな若い子たちが、人を食べる鬼を狩っているだなんて。
失礼に当たらないようにとなるべく表情を変えず静かに“煉獄様”の言葉を待っていたら、先に口を開いたのは向かって右側に座っていた綺麗な顔立ちの男の子だった。
「……ババアじゃねえ!!!」
『…、え?』
「こら伊之助!!宿の方に失礼なこと言うな!!」
「え、でも俺もこういうとこの料理っておばあちゃんが作ってるもんだと思ってた…。
…えっ!?てかなんでお姉さん最初からいてくれなかったの!?俺お姉さんに案内されたかったァアア!!!」
「あっこら善逸!!すみません!今剥がしますんで!!」
女の子みたいに綺麗な顔立ちをした男の子が、突如として見た目にそぐわない低い声で暴言に近い言葉を吐き始める。その姿に呆気に取られていたら、今度は黄色い髪の男の子に横から抱きつかれた。ぐらりと一瞬身体が揺れ、それに気付いたもう一人の男の子がすぐさまその子を引き剥がしにかかる。
突然いろいろと畳みかけられたせいで驚きの声すら出ない。
ただひとつ言えるのは、先輩の言っていた通り確かに怖い人たちではなさそうということだった。
「嫌だぁあああ俺最近任務ばっかで全然癒しがなかったんだもん!!!俺はここでお姉さんに癒してもらう!!!」
「いい加減離れろ善逸!!すみません!すみません!!」
『あ…いえ、大丈夫ですよ。これくらい…』
「えっ」
「えっ…」
感じていた緊張はすでにほぼ消滅していた。
抱きついてきたこの男の子は“善逸”くんというらしい。身長こそ私より高いものの、どう見ても年下だった。弟と同じくらいだろうか。
悪い子には見えず、特に嫌な気もしなかったので笑いかけながら首元に埋められていた頭を撫でる。初対面だし何も知らないけど、純粋に可愛いと思った。
何の気なしに言った私の返事はどうやら想定外だったようで、善逸くんも彼を剥がそうとしていた男の子も二人揃って固まってしまった。
「え……い、いいんですかそんな……え…?」
『はい、わたしは別に構いませんよ。
…あ、でも先に御食事をお済ませいただけますか?この後、甘味も御用意しておりますので……』
「は、はいぃ……」
「嫌だったら遠慮せずに言うといい!!我妻少年が調子に乗る前にな!!」
「ちょっと煉獄さん言い方酷くない!!?」
無理やり引っ張られても微動だにしなかった善逸くんは、私の一言で案外あっさりと引き下がった。きっと見かけ通り良い子なのだろう。頬を緩ませていると、彼も嬉しそうに笑ってくれた。
そしてここで“煉獄様”が初めて私の前で口を開く。なぜやたらと声が大きいのかはよく分からないが、明るくてよく通るその声は先程台所で聞いたものと同じだった。
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