初日-3
『いえ、本当に大丈夫です…お気遣いありがとうございます、煉獄様』
「うむ!困ったらいつでも俺に言ってくれ!
しかし君の料理は美味いな!!毎日食べたいくらいだ!!」
『え』
「ちょっと煉獄さん!?」
「煉獄さんまで何言ってるんですか!」とやや赤みがかった黒髪の男の子が声を荒げる。私も予想だにしなかった言葉につい固まってしまった。
対する煉獄様はよく分かっていないようで、「それ結婚したい人に言う台詞ですよね!?」と説明されてもまだうまく理解できていない様子だった。毎日ご飯を作ってくれる人なんてお母さんか奥さんくらいでしょう、と詳しく男の子が事情を話し、事態がようやく分かったようで慌てて弁解される。
身振り手振りからこの人の人柄の良さがよく分かって、変に身構えていた自分がもはや馬鹿馬鹿しく思えた。
『ふふ…そんなに褒めていただけるなんて嬉しいです。煉獄様がお帰りになるまで、毎日頑張って作ります』
「それは楽しみだ!君が一人で作っているのか?」
『はい。わたし、料理の腕でここに入ったようなものですから……あ、』
食事をしている四人の傍らで喋っていたら、ふと煉獄様の長い髪の毛が料理の皿に付きそうなことに気付く。何か髪をまとめられるもの、と思ったけどここは客室なので何もない。
策もなしに指摘するのも気が引けて、どうしようかと迷った結果とあることを思いついた。
『煉獄様、もしよろしければ……』
「ん?」
事情を話したら頷いてもらえたので、失礼しますと言ってから彼の後ろに回る。
自分の髪をまとめていた髪留めを外し、その特徴的な色合いの髪の毛をひとつに束ねていく。全体的に黄色で、でもところどころに赤が混じった、不思議だけど美しい髪の色。
終わってから「失礼しました」と声を掛けたら煉獄様はお礼を言いながら振り向いて、そのときにまた視線が交わった。
『(…、綺麗な人……)』
改めて近くで見て、率直な感想がそれだった。
さっきは遠くて気付かなかったけど、目も髪と同じ色をしている。遺伝か何かだろうか。
大きな声ばかりに気を取られてあまり気にしていなかったが、よく見なくても物凄く顔立ちの整っている人だった。何もしなくても絵になるような人で、その姿につい見入ってしまう。
数秒間なぜかそのまま視線は交わい続け、煉獄様が姿勢を崩したのをきっかけに我に返った。
「あ……髪をまとめて貰えたのは有り難いが、その、君が困るんじゃないのか?」
『い、いえ、わたしは部屋に戻れば替えがございますので……すみません、間に合わせで…』
彼の髪をまとめた代わりに私の髪が解けることになり、その結果逆に気を遣わせてしまい申し訳なくなる。でも謝ったら煉獄様は「ありがとう」と優しく微笑んでくれた。
やっぱり綺麗な人、だ。安易に近付くんじゃなかった。緊張とは違う意味で大きく波打つ心臓をどうにか落ち着ける。
そしてここで他の三人がじっと私たちを見ていることに気付き、慌てて立ち上がろうとしたらすぐ近くにいた善逸くんに袖をグイっと引っ張られた。
「お姉さ〜ん!!俺も俺も!前髪がすっごい邪魔なの〜!!」
『! ご、ごめんなさい、すぐに何か留められるものを……』
「あ、善逸の言うことは真に受けなくて大丈夫です!下心しかないので!!」
「はぁ!?邪魔すんな炭治郎!!俺もお姉さんに……」
「おい女ァ!これのおかわりねえのか!?あと3杯くれ!!」
「コラ伊之助!!」
あっという間にがやがやと騒がしくなり、なんだかほっとして軽く息を吐いた。…大丈夫だ。この人たちとなら、この一週間きっと楽しく過ごせる。いつも通り、お客様に喜んでもらえるように精一杯頑張ろう。
おかわりと甘味の準備をするために一度出た客室からは、その後もしばらく楽しげな声と光が漏れていた。
初日
(心配など、杞憂だった)
END.
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