二日目-1






「いい湯だった!朝早くから申し訳ない!」


「いえいえ、構いませんよ」




まだ乾ききっていない髪を後ろで一つにまとめてから部屋へと戻る。

途中すれ違ったのは、朝風呂に入りたいと言ったら湯船の準備をしてくれたこの宿の女将。まだ日が昇ったばかりだったにもかかわらず快く引き受けてくれ、おかげで気持ちのいい朝が迎えられた。


さて、と懐から細い紐を取り出して手のひらに乗せる。そろそろ会えるだろうか。




「そういえばあの子、先程隊士さん達に捕まってましたよ」


「! む、先を越されたか」




俺も急ぐとしよう、と女将に会釈をしてから歩を進める。どうやら昨日夕食を食べた部屋にいるらしい。


朝起きて洗面を済ませ、まだ眠っている三人を部屋に残したまま向かったのはこの宿の受付。
昨晩寝る前に借りた髪留めを返し損ねていたことに気付き、起きたら真っ先に返しに行こうと思っていた。が、俺が目を覚ましたのは日の出と同時。さすがに早いし起きていないだろうか、と女将に尋ねてみたところ目当ての彼女はすでに起きていて、朝食の支度中だと。
今は手が離せないだろうから後ほど出直してほしい旨を伝えられ、その間に風呂に入っていた。

話を聞く限り俺が風呂に入っている間に竈門少年達が目を覚ましたのだろう。「捕まっていた」という表現からして先陣を切ったのは我妻少年か。彼女に迷惑を掛けていなければいいが。


部屋に近付くにつれ、何やら賑やかな声が聞こえてくる。




「あ!煉獄さん!」




「おはようございます!」と最初に元気良く声を掛けて来たのは竈門少年だった。挨拶のために立ち上がったが三人ともすでに席に着いていたようだ。待たせてしまったか。

そしてやはりというか、探していた彼女もそこにいた。案の定、我妻少年の隣に。




『おはようございます。すみません、もしかして皆様のことお探しでしたか?』


「いや、俺が探していたのは君だ!」


『え?』




きょとんとする彼女に持っていた髪留めを渡す。
返すのが遅くなってすまない、君は随分朝早くから働いているんだな。そう続けたら、彼女はまた「すみません」と零した。わざわざ返しに来てもらって申し訳ないという意味のようだが、借りたものを返すのは当然のことだし、礼を言われる立場なのだから謝る必要などないというのに。


竈門少年曰く俺が来たら朝食を持ってくることになっていたようで、俺も三人と同じように空いていた席に座った。




『只今お持ちしますので、少々お待ちくださいね』


「うむ、楽しみだ!今日は煌びやかな着物なんだな。よく似合ってるぞ!」


『…え』


「ああああ煉獄さん!!!」




昨日とは違う、花が描かれた美しい着物に目がいく。落ち着いた色合いもそれはそれで良かったが、今日のは一際女性らしくて綺麗だと思った。
感じたことをそのまま口に出したら彼女は動きを止めてしまい、代わりに隣にいた我妻少年が彼女を引っ張って抱きとめる。




「明華お姉さんにそういうこと言わないで!!俺じゃ勝ち目ないんだから!!」


「? 俺は君と何かを競っていただろうか?」


「もおおお意味すら分かってない!!これだから無頓着美形は!!もおお!!!」


『ぜ、善逸く……』


「おい善逸、締めすぎだ!明華さんが苦しんでる!!」


「え!?うそ!?ごめん明華お姉さん!」




「大丈夫!?」と我妻少年が慌てて両腕を離す。大丈夫だよ、と彼女は息を整えながら苦笑いしていた。
互いの呼び方、話し方。向ける表情。すべてが昨日見たものと違っていた。なるほど、出遅れたな。俺が風呂に入っている間に彼らは随分と仲良くなっていたらしい。

任務の合間の休暇なので、ここにはまだしばらく滞在する予定だ。宿の人と親しくなっておくに越したことはないだろう。またいつか泊まりに来ることがあるかもしれないし。
何より自分のところの隊士がすでに懐いている。ここは師である俺も混ざっておかなければ。




 



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